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6・陵辱

「おい!おい!」


 酷く両頬を打たれ、レヴェッカはその痛みに目を覚ました。見上げれば、自分の上には見知らぬ男が跨っている。


「!?」


 辺りを見回すがそこがどこかはわからない。見覚えのない部屋だった。他に男が三人と、床に置かれたバラバラの身体。


(スミレちゃん!)


 レヴェッカは身をよじったが、手足を拘束具で固められていて動く事が出来ない。


「どうだ?気分は。」

「・・・誰なの。」


 拘束され、身体に跨られて気分が良いはずがない。しかし、ニヤニヤと見下ろす男への嫌悪感でレヴェッカは強気に見返した。


「誰なの〜だってよ!」


 男がさもおかしそうに言うと、周りの男達もヘラヘラと笑った。

 カッとなったレヴェッカがのし掛かっている男に向かって大声を出す。


「降りなさいよ!」

「降りて下さいだろ!」


 男は怒鳴ってレヴェッカの顔を力任せに殴った。激しい衝撃と共に血の味がした。口の中が切れたのだ。


「つーか、言われても降りないけど?」


 男達は相変わらずヘラヘラと笑いながらレヴェッカを見ていたが、レヴェッカに跨っている男が手を振ると、部屋の隅に歩いていった。どうやら、この男がリーダー格らしい。


(痛・・・。)


 口内の痛みに顔をしかめたレヴェッカの顎を掴み、男は無理矢理横を向かせた。


「よく見てろって。おまえのお仲間がどうなるかさ。」


 見れば男達は、部屋の隅から胸あたりまで高さのある大きな水槽と、何かの機械を運んできた。


「何なの?何するの?」


 嫌な予感にレヴェッカは問い掛けた。

 男は答えない。その間に三人は作業を続ける。機械に何かの粉を大量に入れてスイッチを押すと、機械が動き出す。別の男がスミレの脚や腕を水槽に放り込んでいく。


「ちょっと、止めてよ!ねぇ!」


 口を開けばまた殴られたが、そんな事を気にしている場合ではない。おそらく男達はスミレを殺す気なのだ。

 男達は二人がかりでスミレの胴体を水槽に入れると、機械を水槽に近付けた。


「おもしろいぜぇ?」


 気付けば耳の側に男の顔があった。息がかかるほどの距離に男の体温を感じて、レヴェッカは吐き気がした。


「何するつもりなの?」

「まぁ、解説してやるから見てなって。」


 男の言うとおり、スミレの方を見ると、機械の口からゴボゴボと音を立てて透明なゼリーのような物が流れ出した。水槽の中に流れ落ちるそれがだんだん勢いを増して溜まっていく。


「あれさぁ、全部溜まったらどうなると思う?」


(窒息?)


 顔色を無くすレヴェッカに男は追い打ちをかける。


「あのゼリー、電気流すと綺麗に光るんだぜ?」


 窒息させるばかりか、スミレを感電させるつもりなのだろうか。


「やめさせてよ!」


 言えばまた男はレヴェッカを殴った。

 レヴェッカは口内の血でむせて咳払いと共に血を吐き出した。

 その姿に男はヒィーと気味の悪い笑い声を上げる。


「感電したら目が覚めたりして。そしたら余計苦しいよなぁ。あはは!それでさぁ、三時間もしたら固まるからさぁ。そしたら部隊に送りつけてやるよ。へっ、面白いだろ?」


 レヴェッカは水槽内に固められたスミレの姿を想像してゾッとした。殺すにしても趣味が悪すぎる。


「死んじゃうよ。止めてよ。」


 レヴェッカは必死で言ったが、男はにやけた笑いを浮かべるばかりで取り合わない。


(どうしたら助けられる?)


 レヴェッカは考えたが、その思考を遮るように男が言う。


「お前、自分の心配したら?」


 見れば男が手にナイフを持っていた。脅すようにレヴェッカの目の前でちらつかせる。


「っ!」


 殺される、そう思った。しかし、スミレにしようとしている事を思えば、あっさりレヴェッカの命を奪うとは思えなかった。殺すにしても、彼らなりの「面白い」殺し方をするに違いなかった。

 怯えた表情のレヴェッカを嬉しそうに見やり、男はナイフをレヴェッカの口元に近付けた。


「咥えてろよ。」


 レヴェッカは刃物を咥えさせられる恐怖に怯えながらも、おとなしくその通りにした。そんなレヴェッカに顔を近付け、男は下卑た笑いを浮かべた。至近距離で興奮した荒い息をかがされ、レヴェッカは吐き気を覚えた。しかし、ナイフを咥えた口ではどうにもできない。嫌悪感に顔を背ければ、水槽にはもう半分もゼリーが溜まっていた。


「!!」


(スミレちゃんが!)


 このままでは溺死してしまうと心配したその時、突然首元を掴まれた。


「自分の心配しろって言ったよなぁ?」


 男はレヴェッカの装備に手をかけると、わざとらしくゆっくりとそれらを外していった。男の鼻息は荒く、気付けばレヴェッカの身体には堅くなった男の股間が当たっている。


(気持ち悪い!嫌だ!!)


 レヴェッカはナイフを咥えたまま呻いた。男の意図に気付き脚をばたつかせる。しかし、拘束されのし掛かられた状態では、男の鍛えた身体をわずかに揺らすぐらいの事しかできない。


「あ、わかったぁ?たっぷり可愛がってやるからさ。楽しみにしててよ。」


(このままじゃ犯される!)


 レヴェッカは恐怖した。

 男は一度レヴェッカの身体から降りて装備を全てはぎ取ると、再びレヴェッカの上に乗った。


「はい。ごくろーさん。」


 男はレヴェッカの口からナイフを取り上げる。


「止めて、お願い!」


 そう言うレヴェッカを再び殴りつけ、男は怒鳴る。


「おとなしくしてろ!」


 力任せに胸を掴まれ、レヴェッカは呻いた。

 男はナイフをレヴェッカの服に当てると、服を切り裂き始めた。

 レヴェッカは身体をすくませ、恐怖に必死に耐える。その間中絶えず男の息づかいが耳をつき、耐え難い悪寒にレヴェッカは涙をにじませた。


「痛い!」

「おっと。」


 突然の痛みに目をやれば、服を切り裂いていたナイフが胸を傷付けたようだった。

 それを見つめる男の目がギラリと光る。男は胸をわしづかみにして、溢れた血に顔を近付けた。


「やめて。」


 震える声で言ったレヴェッカの制止も虚しく、男は傷口を舐めた。


「うぅ!」


 痛みとおぞましさに声が奪われる。

 男は胸を揉みしだくようにして血を溢れさせ、舐め続ける。男は血に興奮しているようだった。しかし、しばらくすると急に顔を上げ、レヴェッカを不思議そうな顔で見た。


「おい、なんで止まった?」


 意味がわからず自分の胸を見たレヴェッカは、溢れていたはずの血が止まっているのに気がついた。それどころか、傷跡さえ見あたらない。


(どういう事?)


 切られたはずの傷が消えてしまったのだ。この男のせいでないのなら、自分のせいだというのだろうか。だが、普通の人間がこんなに早く治癒するはずがない。


「おまえ・・・。」


 男はナイフを胸に押し当てると、スゥと横に引いた。


「やあっ!」


 痛みに叫ぶレヴェッカにかまわず、男はまたさっきと同じ事を繰り返す。そしてしばらく血を舐めた後、顔を上げた。


「おまえ、面白い身体だな。」


 一部始終を見ているしかなかったレヴェッカも、男と同じ事に気がつく。傷口があっという間に塞がるのだ。理由はわからないが、治癒力が普通の人間のレベルではない。こんなに早く傷が治る人間はいない。

 男はヒィー、とまた奇妙な笑い方をした。引きつった顔でレヴェッカが見上げると、男は顔を歪めて笑った。


「おい、おまえら来いよ。」


 男は仲間を呼び寄せると、恐怖に首を振るレヴェッカを指差して笑った。


「メチャクチャにしてやるよ。」


(怖い!怖い怖い怖い!)


 男から逃れようともがいても四人がかりで押さえつけられてはどうにもならなかった。直接触れる肌から流れ来む、男達の邪な妄想に気が狂いそうになる。


(嫌だ!嫌だっ。助けて、スミレちゃん!誰か!)


 辺りを見回しても助けてくれそうな味方などいるわけがない。唯一の味方であるスミレは、今まさに無惨なやり方で殺されようとしている。


「やだ・・・痛いよぅ・・痛い。」


 レヴェッカに跨った男はナイフで再び胸を傷付け、揉みしだき血を溢れさせた。四人分の傷をつけられ、それぞれに舐められた。舌が這いずり回る感触にレヴェッカは泣き出す。


「やめて・・・うぁ・・やめてよぅ・・・ううぅ。」


 いくら涙を流して懇願しても、男達は止まらなかった。

 レヴェッカの口から溢れた血まで舐めとられ、必死で顔を背ければまた殴られた。しかし、しばらくするとそれにも飽きたのか男は大きくナイフを振り上げた。恐怖に身をすくませるレヴェッカを見て、男は嬉しそうに笑う。


「これならどうだーっ!ヒィーッ。」

「止めて、やめ・・・いやぁぁぁーっ!!」


 ぐさりとナイフを胸に突き立てられ、痛みに叫びながらレヴェッカは夢中で手足を動かした。捻った手が拘束具に当たり、外れる。自由になった手で男の手を掴むと、ナイフを引き抜いた。

 そのとたんに、男に触れた手から男のおぞましい感情や、歪んだ性嗜好が流れ込む。

 男はレヴェッカを犯そうとする凶暴な雄であり、血に餓えた殺人鬼だった。

 レヴェッカに反抗された怒りや、これからしようとしている事への期待、喜び、愉悦。

 男の想像の中に、血まみれで犯され切り刻まれた自分を見たレヴェッカは、発狂したかのように夢中で手を動かした。何度も腕をナイフがかすめたが、それも気にならないくらい、恐ろしかった。


「おい!押さえろ!」


 鍛えた何本もの太い腕がレヴェッカの腕を掴む。その腕から逃れようと触れるたびに、さらに何人もの男達から様々な感情とおぞましい思考を注ぎ込まれ、溢れかえり、レヴェッカは絶叫した。


(やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!)


 それ以外何も考えられなかった。すでにスミレの事も頭にはなかった。


 言葉にならない音で泣き叫び、ただ恐怖から、男達から逃げたい一心で暴れた。現実から逃避したかった。夢だと思いたかった。


 そうだ、これは夢なのだ。怖い夢だ。現実なんかじゃない。


(消えて!消えて!消えて!消えて!消えて!消えて!消えて!消えて!消えて!)


 最後に見たのは、レヴェッカに何度もナイフを突き立てる恐怖に歪んだ男の顔だった。


 いつのまにか男達は静かになっていた。


 荒い呼吸を繰り返しながら、レヴェッカは泣き続ける。そのあとは、惚けたようにグッタリと天井を見たまま、ただ息をしていた。


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