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18・説得

 その後、落ち着きを取り戻したマシューを説得し、シモーヌのところへ戻ろうとしたのだが、マシューは首を横に振った。シモーヌを信用できない、と。

 マシューの話では、使徒の中でも特に、シモーヌとルーカスは自分達の創造主であるドクターソールに傾倒していたのだと言う。二人は協力してソールをどこかへ連れ去り、アンドロイドによる人間支配を目指して反乱組織IDEAを作った。そして覚醒した使徒であるマシューを仲間に加えようとして、声を掛けたのに違いないと言うのだ。



「でも、シモーヌは悪い人には見えなかったけどなぁ。」


「使徒の顔はドクターソールをベースに造られている。だから全員同じだ。良いも悪いもない。」



 マシューはレヴェッカの意見をバッサリと切り捨てた。



「へぇ、使徒ってみんな同じ顔なんだ・・・って、顔の話じゃなくて!・・・そうだ!じゃあ、私がシモーヌに触って確かめてみる。それなら正確にわかるでしょ?」


「だめだ。シモーヌに近付いたらレヴィが危険だ。」


「大丈夫だよ!」


「その自信に何か根拠でもあるのか?」


「・・・無いけど。」



 レヴェッカは唇をとがらせ横を向いた。


 マシューを助けて欲しいと、シモーヌはわざわざレヴェッカの家にまで来たのだ。マシューの事を本当に心配して大切に思っているようだった。だから、自分と敵対するなんて思いたくなかった。



「じゃあ、どうするの?これから・・・とりあえずうちに帰らないと。みんな心配する。」


「・・・そうだな。」


「あ!でも、シモーヌうちの場所知ってるんだよ。どうしよう。うちに帰ったら捕まったりしないかな。シモーヌは私のお母さんにも会ってるし、勤め先も知ってるから逃げられないよ。」



 マシューは立ち上がり窓に近付いた。カーテンを開け、外を確認する。



「捕まえるつもりなら今頃とっくに捕まっている。賭けるしかない・・・行こう。」






 マシューは妨害されずに神都イェルメラディアを出られるかどうか心配していたが、二人は何の苦もなくレヴェッカの家まで帰る事が出来た。

 むしろ、問題が起こったのはその後だった。



「お前何考えてんだよ!ありえねぇだろ。あいつと暮らせるわけねぇだろ?」


「そうだよ。いったいどうしたんだい。いきなりそんな事言い出すなんてさぁ。」



 マシューを二階の自分の部屋に残し、下に下りると、レヴェッカはマシューとこの家で暮らしたいとイアソンとアレクサンドラに相談したのだ。



「じゃあ、私がマシューの家に行く。それならいいでしょ?」


「だめだ。つーか、なんでお前があいつと一緒に暮らさなきゃなんねぇの。」



 言って良いものかレヴェッカは迷ったが、なんとか二人に納得してもらいたくて、マシューに人間の味方でいてもらうために自分が側にいなければならないのだと話した。

 彼を孤独に追いやることが離反につながるのだと。そして、彼を引き留めるために出来うることはすべてしたいのだと。

 拙いながらも言葉をつくして熱意を伝えようとしたが、二人は首を横に振るばかりだった。



(なんで、わかってくれないの!)



 レヴェッカは半泣きになりながらも、諦められずに訴える。



「だから詳しくは言えないけど、とにかくマシューは今大変なんだよ。だから、私が側にいないといけないの。」


「あいつが大変だからってそれが何だよ。お前に関係ねぇだろ?」



 イアソンは苛立たしげに髪の毛をかき回す。



「二人に迷惑かけたりしないからお願い!」


「オレらはお前が心配だって言ってんだよ。前に言ったろ?あいつが大怪我して帰ってきたって。あいつと一緒にいればお前だって危険なんだよ。」



 アレクサンドラも頷きレヴェッカを見る。



「アタシもそう思うよ。あんたがどう思ってるか知らないけど、アタシは同じ特査だからわかる。マシュー特査はいつもアタシらなんかよりずっと危険な任務を任されてるんだよ。特にこないだのミッション・・・あれがまだ解決してないからね。今は特に危険だよ。あんたの人生あんたの自由にさせてやりたいけどさ。今回ばかりは賛成できないね。」


「お母さん・・・。」



 このあいだあんな事があったばかりなのだ。二人にこれ以上心配させてしまうのは辛い。でも・・・。



「ごめんね。でも、今マシューを独りにできないから。」



 それでも引かないレヴェッカに、イアソンが声を荒げる。



「あいつの何心配してんだかわかんねぇけど、オレらはあいつのせいでお前が危なくなんのは嫌なんだよ。つうか・・・わかんだろ?あいつはアンドロイドなんだからさ。壊れたら代えがきく。でも、お前はそうはいかないんだよ。」


(代え!?)



 レヴェッカはその言葉にカッとなる。



「マシューに代えなんかないよ!マシューはマシューだよ!」


「は?意味わかんねぇ。お前いいかげん目ぇ覚ませって。いつまで初恋ひきずってんだよ。そういうとこが子供だっつってんだよ。もう子供じゃねぇならあんな人形の事なんか忘れろよ!」



 人形、とはアンドロイドを示す隠語だ。アンドロイドを蔑んで呼ぶ呼び方だ。レヴェッカは怒りが押さえられず、叫ぶように怒鳴った。



「マシューはアンドロイドだけど、他のアンドロイドとは違うの!怪我すれば痛いし、酷い事言われたら傷付くんだよ。止めてよ!マシューを物みたいに言わないでよ!止めてよ!」



 言いながら泣き出したレヴェッカに、イアソンとアレクサンドラは顔を見合わせた。考え込むように黙り込んだ二人の背後から、がっしりとした体格の男が現れた。



「その話、本当かも知れねぇぜ?」



 いつから話を聞いていたのか、現れたのは叔父のミカールだった。


「ミカール、どういう事なんだい?」



 アレクサンドラの問いに、ミカールは手招きをした。



「まぁ、これを見てくれ。」



 三人の視線が注目する中、ミカールはある男の映像を再生した。



「ルーカス!」



 レヴェッカは驚いて声をあげた。映ったのはマシューの記憶で見た栗色の髪、薄青の瞳の使徒だったのだ。



「こいつ、マシュー特査と同じ顔だな。」



 イアソンがつぶやけば、兄弟だからな、とミカールが答えた。



「こいつの名前はルーカス。本部に送られてきた犯行声明・・・いや、征服宣言だな。それのコピーを借りてきた。」



 三人が見つめる中、淡々と話すルーカスの言葉は全世界の人間に向けた征服宣言だった。

 その言葉によれば、これまでの人間を頂点とした時代は終わり、これからはルーカス達新人類が支配する時代になるのだという。

 新世界の構想について語り初めたルーカスを顎で示し、ミカールは言った。



「こないだ失敗したミッション。黒幕は人間じゃねえ。こいつだったんだ。アレクは知ってるな?こいつは使徒だ。」


「あぁ、知ってるよ。それよりミカール!あんたこれ機密データじゃないのかい?」


「今さら、だろ?どうせこのルーカスってやつが手当たり次第あちこちにばらまいてる。」



 レヴェッカは映像に見入っていた。マシューを待っていると言ったこの男。マシューと同じ、覚醒したアンドロイド。



「これのせいで本部のお偉いさん方は大騒ぎ。なにしろ、言う事聞かなきゃ海底公園を破壊する、って言うんだからな。」


「なんだって!?」


「そんな!」


「まずいだろ、それ。」



 三人の反応にミカールは頷いた。



「ここがやられりゃ、まず世界中の流通がダメになる。食べ物を輸入に頼りきってるここなんか、真っ先に食糧不足だ。食べ物がなくなりゃ人間は死ぬが、アンドロイドは死なねぇ。脅しか本気かは知らねぇが、事は海底公園だけの問題じゃねぇ。」


「で、上の連中は何て言ってるんだい?」


「俺が知るかよ。会議でもしてんじゃねぇの?」


「んもう!役に立たないねぇ!」



 アレクサンドラに詰られ、ミカールは大げさに肩をすくめた。



「それで?マシュー特査とこのミカールって男と何の関係があるんだい?」




 アレクサンドラが尋ねると、ミカールは説明を始めた。




 ドクターソールが、使徒と呼ばれる特殊なアンドロイドを創った事。


 ルーカスは覚醒した使徒である新人類を名乗っているという事。


 そして、現時点でルーカス以外にも覚醒した使徒が何人もいるという事。


 ただし、覚醒した使徒がすべてIDEAの計画に参加しているかどうかは不明だという事を。




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