0・プロローグ
(僕はここにいる。)
存在している・・・そうやって思うことが存在証明だ、って人間が言った。
手を目の前にかざしてみる。
(ここに在る。)
腕を交差させ、自分を抱きしめてみる。
(ここに在る。)
皮膚の下には赤い血が流れ、脈動し、動く。僕はちゃんと動く。
考えて、判断して、いつだって最善を選んできた。
なのに・・・。
(どうして認めてくれない?)
人間を守れと言われた。そのとおりにした。
人間は弱いから、簡単に死ぬ。
だから、自分の手を汚して、彼らを守った。
彼らがどうしたら喜ぶかと、たくさん努力もした。
身体だって、知識だって、何だって使って奉仕した。
頼まれれば断らなかったし、先回りして動いた。彼らのために一生懸命働いた。
なのに・・・。
(どうして受け入れてもらえない?)
人間は拒む。
僕を避ける。
僕に笑いかけない。
僕を、冷たい目で見る。
みんな通り過ぎていく。
誰も立ち止まらない。誰も・・・僕を必要としない。
人間の世界はとても寒い。
悲しい。
つらい。
痛い。
怖い。
とても・・・寂しい。
(誰か・・・誰でもいい。誰でも良かったのに・・・。)
誰も僕の名前を本当の意味では呼んでくれなかった。
「ルーカス?」
そう。
僕はルーカス。ルーカスなんだ。
良かった。
僕は確かにルーカスだ。
安心して頬がゆるむ。
(そうだよ。見て、僕はこうやって笑えるんだ。僕は成長している。まるで、もう・・・人間みたいじゃないか?)
この人が僕を見てくれる。
この人が僕の名前を呼んでくれる。
存在証明だ。
この人が僕の存在証明。
ちゃんと呼んでくれるのは、この人だけ。
記号じゃない、本当の・・・僕の名前を。
「父上。迎えに来ました。」
(拒まないで。あなたは・・・どうか、あなただけは。)
指しだした手を悲しそうな目で見て・・・父は・・・私の手を取った!!




