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第31話 開拓22日目 壁起こし②

前回の続き


 ……………………。


 ………………。


 ……痛い。



 強風に煽られ、倒れてくる壁パネルを受け止めようと咄嗟に両手を前に出したが、重量のある壁パネルを支えられるはずもなく、私は壁パネルの下敷きとなってしまった。


 全身が心臓になったかの様な激しい拍動、アドレナリンが全身を駆け巡っているのを感じた。


 流れるような予想外の連続、そして判断ミスの連続だった。


 あれほど用意周到に行っていた数々の準備は自然の力の前に役に立たず、私は負けてしまったのだ……。



 "負けてしまった……のか?"



◇  ◇  ◇



 アーネスト・ヘミングウェイの著書『老人と海』は中学生の頃に買った文庫本をこれまで幾度も幾度も読んだ。


 キューバの老漁師サンチャゴと針にかかった巨大なカジキとの孤独な洋上での死闘を描いた不朽の名作小説だ。


 3日間にも渡る死闘の末、老人はカジキを仕留めることに成功する。しかし巨大なカジキの体を船に上げることは出来ず、縄で船に縛り付けて港まで曳航しようとする。しかしそこで幾匹もの鮫の群れに襲われてしまう。


 カジキとの闘いにはかろうじて勝てた老人も、次々と現れる鮫たちには為すすべがなく、せっかく仕留めたカジキの体はどんどん削り取られて行くという絶望的な展開に陥る。


 しかしそんな状況でも老人は決して屈しない。


 "けれど、人間は負けるように造られてはいない。人間は打ち砕かれることはあっても負けることはないのだ(But a man is not made for defeat. A man can be destroyed but not defeated)"


 強い意思を感じさせる言葉だ。



 ……きっと、私も



◇  ◇  ◇


 まずは、現状を確認する。


 肩と腕が熱い。どこか出血しているかもしれない。打撲を負っていることは確実、骨折の可能性もある。


 幸運だったのは、仮筋交いのおかげで壁パネルの底辺が床に引っかかっており、地面と壁パネルの間に若干のスペースが生まれていた事だった。スペースがあることに気がついた私は身をよじり、壁パネルの下から這い出した。


◇  ◇  ◇


 倒れている壁パネルを振り返り、改めて自分の身に起こったことを再認識すると衝撃的だった。


 建設中の事故。それも誰もいない山中でたった一人作業中での事故である。一歩間違えば取り返しの付かない事態となっていたかもしれない。


 一人での壁起こしが危険であることはあらじめ分かっていたし、危険軽減策もとっていた。しかし、咄嗟の出来事にうまく対処することが出来なかった。


 特に壁パネルの外側を回ろうとしたのは致命的だった。なぜこの様な初歩的な判断ミスをしてしまったのか。ここにきて自分の弱さが露呈してしまったのだと思うとどうしようもなく情けなく感じる……。


 けれど、



 けれど、やめない。


 もう一度壁パネルを立てる。



 "私は決して小家づくりをやめない"



 <続く>

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『老人と海』青空文庫

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