文化祭翌日 星海光 その二
遥人と二人で登校中に、重要目的だったおべんとを渡すことが出来た。
すごく恥ずかしかった……。
うぅー……まさか自分がこんな王道ラブコメみたいな行動をとるなんて思いもよらなかった!!
テンプレにもほどがあるって自分自身わかっていながらもやってしまった。
……大丈夫、だってうち、こんなんでも王道? 乙女ゲームの主人公だもん。
だからちょっとくらい乙女っぽいことやっても許される! ……はず。
ちょっと恥ずかしかったけど、その後も二人で話しながら登校した。
そしたらクラスで、もっと恥ずかしい目にあった。
皆…………見すぎ!!
何!? 新手のイジメ!?
やめてって言ったら素直に聞いたけどさ…………東野君とか美鈴ちゃんもなんか微笑ましいものを見るような目で見てきたのは驚きを隠せないよ!
一体どういう心理状態だったんだ!
……ちなみに、その後のお昼休みの時間も、遥人が嬉しそうにおべんとを取り出した瞬間にまた皆から視線が……。
って、またその顔!!
そして何故にこのおべんとが、うちの作ったものだとわかったの!?
「ん? どうかしたのか?」
「…………ううん、大丈夫」
幸い……? 遥人は気づいてなかった。
それと、おべんとはすごく好評だった。
「すごくおいしい」って。「また食べたい」って。
……ふふ、ちょっとだけ顔がニヤけちゃった。
今度はデザートのお菓子も作ってこようかな? パティシエになる練習にもなるしー。
「…………はっ!」
ふと我に返って周りを見渡すと、また微笑ましいものを見るような目こっちを見てる人が!中にはニヤニヤしながらこっちを見てる人まで!
――他にやることはないのかー!
放課後は特にやることがなかったので、二人で帰ろうとしたとき、後ろから呼び止められた。
「お、そこの暇そうな二人!」
振り向くと……保健室の先生……確か……。
「八神先生?」
「お、私の名前を憶えているとは感心な生徒だ……名前を憶えていても敬意を払う気のないあいつとはえらい違いだ」
? 誰の事だろう?
そんなことは気にせず、遥人は話を進めようとした。
「それで、どうしたんですか?」
「おおそうだった。お前ら確か四葉阿澄の知り合いだったな?」
「え? ああ、俺はそうですけど」
「え、うちは知らないです」
誰……? 遥人の知り合いっぽいけど……女の子……だよね……。
「そうか、ちょうどよかった。男子は知り合いのようだし、そっちの女子は四葉と友達になってやってくれ。とりあえずこっちだ」
「へ? えええぇぇぇぇ!?」
「はぁぁぁ!?」
うちと遥人が半ば引きづられるように引っ張られた。
そして連れてこられた保健室。
何かそこで一緒にいてやってほしいとか言われた。
正直意味が分からなかったけど、遥人の方はなんか納得してた。
……またうちの知らない美人さんとの繋がりなのだろう。
そして保健室に入ってみた。
「あらー緋山さん、お久しぶりですねー」
うちの予想通りだった。
遥人と美人さんとの繋がりだった。
べっつにいいんですけどー……。
「久しぶり。お元気……ですか?」
「ええ、実はこう見えて」
と言われても、なにやら保健室のベッドで儚げに横たわりながらだと説得力が……。
なんてことをツッコむべきか悩んでいると、その美人さん――確か四葉さん――が、うちの存在に気付いた。
「あら、あなたは……」
「ああ、うちは――」
と自己紹介しようとしたが、それよりも早く遥人が答えた。
「彼女は星海光。俺の大切な恋人だ」
「……………………」
ほぉぁぁぁぁぁぁ……っ!
は、遥人、いきなりなんて紹介を……!
何っ!? うちがちょっとだけ拗ねてたの気づいてたの!?
いきなりそんなこと言われたら四葉さんだって困るんじゃ。
そう思い、チラリと見てみると。
「あらあらまあまあ! いいですねぇ、お似合いの恋人さんですね!」
と言われてしまった。
そう言っていただけるのは嬉しいですが、妙に気恥ずかしいです……。
そしてそこまで嬉しそうに言われると、さっきちょっとだけ嫉妬したうちがすごく馬鹿みたいだなぁ……。
「えっと、只今ご紹介に預かりました……? 星海光です」
「初めまして、四葉阿澄と申します。緋山さんとは仲のいいお友達なんですよ」
「えと……そう、なの」
「はい! 私の数少ないお友達の一人です!」
「は、はあ……」
横目で遥人を見ると、何やら苦笑いだった。……どういう事だろ?
「あの、星海さん……」
「あ、光でいいよ?」
「では光さん……私とお友達になってもらえませんか?」
「へ? え、いいよ? もちろん」
突然言われて戸惑ったけど、少し話しただけでわかるほど、この子いい子だ。
突然引き合わされた形だけど、友達が増えるのは嬉しい。
四葉さん――いや、阿澄ちゃんって呼ばせてもらおう――阿澄ちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。
その後は、八神先生が戻ってくるまで楽しくお話しした……違った。
先生が戻ってきた後も、少しの間先生を交えて楽しくお話しした。
……八神先生がこんなむちゃくちゃで、ちょっと面白い先生だというのは知らなかった。
知ってたら、もうちょっと……いや、結構頻繁に遊びに来てたに違いない。
保健室を出て、一緒に下校していると、藤原さんと菜月ちゃんが一緒にいた。
しかも若干睨み合ってないでしょうか……?
!? 一触即発!? とか一瞬思ったけど、よく見たら間にぐったりとした人影が見えた。
……顔は見えなかったけど、誰かは一目瞭然だった。
「お? ……菜月?」
「と、文芸部のお二人だね」
「一緒に帰って……るのか? どういう組み合わせだ?」
「どうって……遥人にはどう見える?」
「んん? ……カップルにちょっかいかけてる……菜月? ……あ、でも付き合ってはいないんだっけか。……ん? どのみち、何故に菜月があの二人に?」
「…………まるで二人が一緒にいるのを邪魔してるみたいだね……」
「ああ、確かに。何でだろ……って、まさか…………」
「そのまさかだと思うの。うちは。朝の会話を見てもそう思ったけど」
そのまま遥人は考え込むような顔をした。
多分朝の菜月ちゃんの言葉を思い出してるんだろうと思う。
そして、
「マジか……っ! 菜月が…………あいつを!?」
と驚いた。
その後、複雑そうな顔してた。
まあ……そうかもね。
自分の妹が自分と仲のいい友達に好意を抱いてるっぽいというのは何とも言い難いのかも。
一人っ子だからよくわからないけど。
遥人は複雑そうな顔をした後、大きく息を吐いて、小さく呟いた。
「…………とりあえず、保留だ保留。今は忘れよう」
…………うん、遥人はうちと同じタイプみたい。
とりあえず忘れておくことにするタイプ。
その後は普通に帰った。
……もちろん、菜月ちゃんたちに会わないように道を変えて。
あ、その時遥人と、次の休みにおいしいスイーツを食べに行く約束をした。
……これって、初デート……になるんだよね……。
すごく……楽しみ。
でもなんだろう……すごく嫌な予感がする。
それこそ、持ち前の運の悪さを発揮しそうな気が……。
――――行く先々で知り合いに会ったりとか……?
…………ナイヨネッ!!
よく考えたら、星海さんと接点のないキャラがいたので、今回、番外にて遭遇してもらった形になります。
他のキャラたちは最低一度は遭遇してる……はずなので。




