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××××年 四月八日
文芸部に新入部員が二人増えた。
去年の文化祭で部誌を買い、読んでくれた二人だったようだ。
男子と女子の一人ずつで、玉井君と瀬戸さんだ。
瀬戸さんはともかく、玉井君は覚えていた。
去年の文化祭二日目で、一番最初に部誌を買ってくれた人で、しかも買ってからすぐ、その場で部誌を読み始めたこともあり、印象深い人だったのだ(五分ぐらいしたら顧問の先生が「帰ってから読め」と注意していた)。
瀬戸さんの方は、どうやらちょうど俺が用を足しているときに来てくれてたらしい。
――瀬戸さんの名前は『瀬戸結衣』。
彼女もまた、『キミだケに』の攻略キャラクターの一人だった。
以前にも記したように、彼女が文芸部に入部するような気は、なんとなくしていた。
ゲーム上の瀬戸さんは、とにかく文を読むのも書くのも好きと言う文学少女だった。
性格は引っ込み思案で、自分を卑下しやすいキャラだったのも覚えてる。
一年教室や、図書室によくいて、本の話題が喜びやすい、簡単に言えば攻略はしやすいキャラだった。
……ゲームの事はさておき、今日は二人の新入部員に部の説明をして終わった。
二人には、暇があれば、適当に短編でも書いてみるといいと言っておいた。
書くことになれてもらえると、今後の部の活動――小説の内容的にも幅が広がるというものだ。
部誌の感想も聞いてみると、しっかりどの話のどこが面白くどの話のどこがつまらなかったか答えてくれた。
予想以上にしっかりとした批評をもらえた。ありがたかった。
……しかし、瀬戸さん……瀬戸結衣か。
――……瀬戸結衣というキャラは、俺が『キミだケに』を購入して初めて攻略したキャラだったので、彼女の事はよく覚えてる。
文芸部がなくなっていたことに落ち込んでいたところ(『キミだケに』の学校では文芸部が廃部になっていた設定)で主人公と出会い、その中で少しずつ自分に自信が付いていくのがメインストーリーだったはず。
俺の中で、主人公に協力してもらいながらも、自らの力で文芸部を作る……なんてイベントが強く印象に残っていた。
だからこそ去年の俺は、文芸部を作るのを躊躇ったし、文芸部を作ったら、イベント関係なく瀬戸さんが入部するんだろうという予想を立てた。
ただ、去年の俺の考えや予想はどうあれ、今日、瀬戸さんが文芸部に入部したのは、『設定だから』なんてくだらない理由ではなく、自分の意志で入部したのだと思う。
うすうす感じていたことだが、この世界はあくまで『ゲームのキャラが生きている世界』であって『ゲームその物』ではない。
俺のようなイレギュラーも、ここを現実と認識していかないとダメなんだ。
…………自分でもそろそろ『ゲームでは』や『攻略キャラクター』なんて書き方や呼び方はよくないのは分かっている。
ただもう少し。少なくともゲームの期間が終わるまでは、この書き方を続けようと思う。
ゲームの期間が終われば、そこから先はただの高校生の恋模様。
俺が観察するのも『ゲームのキャラだから』ではなく、『知り合いの恋愛模様が面白そうだから』なのだ。
例えこの日記に『ゲーム』や『キャラ』と書いたとしても、それはただ書きやすいからと言う理由だけ。
その言葉に意味なんてないんだ。
今日改めて思う。
ここは――この世界は、俺が。
そしてみんなが生きている『現実』なんだ……と。
俺はこの『現実』が面白いから、観察日記をつけている。




