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慈水竜の趣味

「ちょっと! せっかく直した屋根がめちゃくちゃじゃん! なにしてくれるのさ!」

「それはこっちのセリフよ!」


 エキドゥニルは髪を逆立てて、僕の胸ぐらをむんずと掴む。

 そのまま乱暴に揺さぶりながら、片手でびしっとオケアニルを指さした。


「なんでこんなやつを招き入れたのよ! 千年ぶりにこの忌々しい腑抜け面を見ちゃったじゃないの! 我ちゃんの目を汚した責任、ちゃんと取ってもらうからね!?」

「やっぱり仲が悪いんだね……」


 ぼんやりさんのオケアニルと、苛烈で気分屋なエキドゥニル。

 水と炎というよりも、水と油だ。


 属性の相性も関係しているのかもしれない。炎は水に弱いしね。

 ともかく僕はエキドゥニルの手を振り払い、肩をすくめて言う。


「いろいろあって、宝箱に入っていたのを見つけたんだ」

「宝箱ぉ!?」


 エキドゥニルは裏返った声で叫んだあと、そっと視線を下にずらす。

 そうして僕の持っている宝の地図を見て思いっきり顔をしかめてみせた。


「かわいそうに。あんた、こいつの悪ふざけに巻き込まれたのね」

「悪ふざけ……?」


 僕は目を白黒させるしかない。

 一方で、エキドゥニルは心底辟易したとばかりにオケアニルを指し示すのだ。


「こいつはね、基本はぼーっと無害な存在なの。だけどひとつだけ、厄介な趣味がある」

「それってまさか、この地図が関係してる?」

「そう。オケアニルは自分で宝を仕込んだあと、その宝の地図を世界中にばら撒くの」


 自らの手で宝を隠す慈水竜。

 その姿はなにか神秘を感じさせる。

 だけどエキドゥニルが続けた言葉で全部が台無しになった。


「それで宝探しに右往左往する人間たちを、ニヤニヤと観察するのが趣味なのよ」

「ギャンブル漫画の暗黒金持ちじゃん!?」


 非合法な賭場で、ワイン片手に見物するオケアニルの姿が脳裏に浮かんだ。

 思ってた展開とちょっと違った。

 僕はオケアニルに半眼を向ける。


「しかも自分で主催するって、その熱量はなんなのさ」

「だって、人間って……かわいい……じゃん?」

「かわいい……?」

「そう」


 オケアニルはしみじみと頷いてから、ほうっと熱い吐息をこぼす。

 ほんのり赤らんだ頬に両手を添え、うっとりするように言うことには。


「矮小な存在でちょこまかと動き回るの……いつまででも、見てられる……よね……」

「上位存在の愛で方だ……」


 回し車で走るハムスターを見てきゅんっとするとか、そんな感じかな……?

 それを見るためだけに、飼育小屋を一から作るのがオケアニルってことか。


(思ってたのより数段ヤバい神様だった!?)


 なんていうか、暗黒竜の僕より邪竜って感じだ。

 いやでも、人間に宝を授けるわけだから、恩恵はあるのか……?

 それとも、暗黒竜の方がもっと悪逆非道だと思われているとか……?

 それはそれでショックだな……。


 黄昏れる僕の横で、エキドゥニルはしみじみと言う。


「でももうそんな時期か。たしか百年に一度よね」

「うん……あんまり期間が短いと……同じ人が取っちゃって、面白くない……から」

「それで、宝箱に入ってた理由は……?」

「最前線で人間たちの動向を見るためよ」


 エキドゥニルは呆れたように言う。


「こいつは分霊体。いわばオケアニルの分身ね。本体は神殿にいるわ」

「えっ、じゃあまさか地図と一緒に分身もたくさんばら撒いてるの?」

「うー……ん……今回はざっと……百体くらい……かな?」

「神様がそんな動機で大量分裂しないでよ!」


 あまりにも労力がかかりすぎている、

 宝探しって、そこまでして見るものだろうか……いや、ロマンだとは思うけどさ。

 オケアニルはちょっぴり胸を張ってピースする。


「全部本体と繋がっている……だから、我氏はすべてを漏れなく観察できる……いえーい」

「お、おめでとう……?」


 今度は僕の頭の中に、デイトレーダーよろしく大量のディスプレイに囲まれたオケアニルが浮かぶ。

 それらすべての画面には、苦難に挑む人間たちが映し出されていて、オケアニルはそれを食い入るように見つめていて……デスゲームの管理人かな?


 うーむ……やっぱりろくでもない。


(でもなあ。宝探し自体は魅力的なんだよね)


 僕は地図を広げて嘆息する。


 広い海に繰り出して宝探しをする。

 そんなの絶対に楽しいに決まっていた。


 宝が見つかったら、リタたちみんなとパーティしてぱーっと使っちゃってもいいしね。きっと皆喜ぶし……僕はちらっと天井を見上げる。

 エキドゥニルがさっき開けたばかりの大穴からは、突き抜けるような青空が覗いていた。


(この神殿を、もっと立派にできるかも!)


 夢は広がる一方だった。

 そんなふうにして僕はタヌキの皮算用に忙しかったのだけど。

 そこで、エキドゥニルがふっと意味深な笑みを浮かべてみせた。


「そう。こいつは分霊体だから、本体ほど強くはないのよね」


 そう言って、エキドゥニルはカッと目を見開いた。

 体から火傷しそうなほどの熱気が迸り、炎のように髪が揺らめく。


「我ちゃんがそのだらけたツラ、燃やし尽くしてあげるわっ!」

「ちょっと!?」


 エキドゥニルが炎の弾をドカドカと撃ち出す。

 だけどそれらの攻撃は、オケアニルが張った水の幕に阻まれて、ジュッと音を立てて消えてしまった。きょとんとするオケアニルに、エキドゥニルは声を荒らげる。


「三百年前の宝探し事件、忘れたとは言わせないわよ! 勝手に我ちゃんの領海を宝探しの舞台にしたせいで、ガラの悪い人間どもが押し掛けて……すっごく迷惑したんだからね!」

「そんなことあった……け?」

「あったわよ! おかげでうちの信徒どもが大勢泣き付いてきたんだから! 我ちゃんの信徒を怖がらせた罪、ここで贖ってもらうわ!」

「正当な理由すぎる……」


 再会早々ブチ切れて当然だった。

 呆れる僕だけど、そこでふと気になることがあった。

 三百年前はエキドゥニルの海域。今回は僕の海域だ。

 つまり宝探しは、毎回場所が違うということで……。


(だったら今回は、うちの海域に宝探しハンターたちが押し寄せてくるの……?)


 えっ、それはちょっと困るかも……。

 胸がざわつく僕同様、オケアニルもムスッとした顔をする。


「むう……ケンカはあとで……ね。まだレインに、大事な説明が終わってない……から」

「大事な説明?」

「う……ん」


 オケアニルはこくんとうなずく。


「宝の地図や、宝物……それぞれを、一番早く手に入れたひとには……我氏から、特別なプレゼントがあるんだ……よー」

「なにそれ気になる……けどね、まず先にケンカをやめてくれるかな!?」


 神殿内には炎の弾と水の弾が飛び交っていた。

 オケアニルが僕に言葉をかける傍ら、全力で応戦しだしたからだ。

 見た目おっとりキャラでも、中身がおっとりしているとは限らない。勉強になった。


 あちこちに被弾して柱が崩れ、壁に穴が空き、轟音が神殿を揺らす。

 そんななかでも、チビニルはお構いなしで鼻提灯を膨らませてぐっすり寝ていた。

 今世もかなりの大物に育ちそうだ。その前に神殿が跡形もなくなるかもだけどね!


「ケンカはどっかよそでやってよ! 僕の神殿がめちゃくちゃに――」


 地図を丸めてズボンに押し込め、ひときわ声を張り上げた、そのときだった。

 エキドゥニルが開け放ったままの扉から、リタがそっと顔を覗かせた。


「レインくん、もう海から戻って……ひっ!?」

「リタ!?」


 間の悪いことに、ちょうどその真上から特大級の火球と水球が降り注いでいて――

一巻好評発売中!ぜひともお買い求めください!

次回は明日の夕方ごろ更新予定です。

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