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イエリア王国物語(仮)  作者: 志染
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「んーと、地図地図~」


取り出したのは、ジート作、なんちゃって南エリアの地図だった。

王都は円形の城壁に囲まれている。中央に中央エリアと呼ばれる円形の土地があり、そこに王様や行政、魔法学校がある。そこから東西南北に扇状に広がっているのが各エリアである。


現在レティスがいるのは、南エリアの東側に近い場所だ。近くの大通りから、規則正しく直角の道が伸びている場所であり、雑然とした南エリアとしては珍しく、キッチリとした街並みとなっている場所である。


ジートから渡された地図には、おおまかな道の目印のようなものが書いてあった。


「赤い建物……」


ざっくりした説明だけを頼りに、少し広い通りに沿って、レティスはテクテクと街を歩いて行く。

行き交う人の数も多い。さすが王都といったところだろうか。


東にルーティア、南にアルノード、北にシーラと呼ばれる国があり、それらの交易となっているのが、ここ、王都バルディウスである。

ルーティアの民は碧髪碧眼が特徴で湖一帯を支配する民であり、比較的この国でも数が多い。次にいるのはアルノードで、彼らは服装がお洒落な……たまに独特な者が多く、大体が金色の瞳をしているのが特徴だ。シーラと呼ばれる人達は、雪のような白い肌と赤い瞳をしている。あまり友好的ではないようで、彼らの姿をこの国で見ることは滅多に無いらしい。


通りを行き交う荷馬車には、野菜が入った木箱が載せられていた。あれはこれから市場にでも行くのか、はたまた帰りなのか、幌付きの馬車は人も乗せて走っているらしい。もしかしたら、レティスも乗ることが出来るのかもしれない。


そんなことをぼんやり思いながら歩いていると、武器を持った男たちを見つけた。


「あ、冒険者っぽい」


ひと目でそうと分かる、三人組の男たちだった。剣を携えた軽装備の男、黒いローブを纏った魔法師風の男に、隆々な筋肉を持った格闘家のような男。互いに話し合いながら、とある建物へと入っていく。


南エリアにおいて比較的珍しい、石造り建物だった。重厚感があり小さな四角い城の砦のようにも見える。

何となく中を覗いてみると、壁に立てかけられるように置いてある武器や、依頼ボードのような紙切れが貼り付けられた掲示板、木製のテーブルにイス、酒樽と、武装している人達が見えた。


おお。ここはどうやらギルドと呼ばれる人達の集まりのようだ。


「お。子供がいるぜ?おう、嬢ちゃんもギルドに入るか?」


ちょっと感動していたレティスがビクリとすれば、先ほどの剣を携えた男にニヤニヤと笑いならが見下ろされていた。


「あ、いえ。初めて王都へ来たのでちょっと物珍しかっただけです。すいません」


足早に逃げ出そうとしたが、多少強引に持ち上げられて、あっさりと捕まった。


「まぁ、せっかくだし見てけよ。おーいお前ら可愛がってやれや」


まるで子供のように両脇を抱きかかえられて、建物の中央ホール、木製のテーブルやイスがある一角に、レティスは連れて行かれた。


とっさに逃げ出そうと視線を走らせた時、すでに用意してあったと思われるようなタイミングで、ミルクの入ったコップがコトリとレティスの前に差し出された。

そのせいでレティスは出て行くタイミングを失った。


「ちょっと、ロイド。どこの子供連れ込んでんだよ」


完全に子供扱いだった。

ミルクを用意してくれたのは、えらく口調の悪いおねえさんだ。派手に露出した肩には黒い文様が入っている。腰に付けられた黒鞘の短刀は少し大ぶりで、攻撃力がありそうだった。


ロイドと呼ばれたのは先ほどの剣士風の男で、年は中ほどか、目つきが悪く、いけいけのワル親父のオーラをひしひしと感じた。


見渡せばギルドにいるのは八名ほどだ。

先ほど外で見かけた三名の男たちに加えて、奥のテーブルにも四人ほどいる。テーブルには薬草やらキノコみたいなものがぶち撒けられており、それを取り囲んでなにやら相談していた。


「おめえだって、ミルクあげてんじゃねーか」

「うっせぇ。条件反射だ。黙れボケッ」


剣士男とミルクおねえさんの殴り合いの喧嘩が始まった。それが日常風景であるのか誰も止めようとしない。


レティスと言えば、半ば拉致同様に連れ込まれて茫然自失中。

そこへ、比較的若い男の声で話しかけられた。


「ようこそ。ギルド叢雲へ。お嬢さんを歓迎いたしますよ」


落ち着いた物腰の、ローブを纏った魔法使いの男だった。少しコゲ茶色の髪に、茶色の瞳。どこか童顔の顔立ちで、メガネとソバカスが特徴的だ。少し冒険者にしては線が細いようだが、魔法を主体として戦うならばよく似合っている格好だった。


「私達の自己紹介がまだでしたね。あそこでケンカしているのが、ギルドマスターのロイド、女性のほうがレイチェルです。私がハウル、そこにいる武道家がチェイスで、奥の四名は、ギリ、ウロイティル、センス、ホワインルーガーです」

「……レティス。男です。よろしくおねがいします……」


思わず自己紹介をしてしまったが、レティスは何をして良いものやら分からない。分からないので、差し出されたミルクを飲んでみた。冷たくて濃厚かつほどよい甘さ……。美味しい……。ちょっと落ち着いた。


魔法師風のハウルと名乗った男が、それをじっくり見てくる。

視線が合っても微動だにしない。なんとも小動物でも観察されているようで、ミルクを口から離しづらかった。ヒゲでもできていたら恥ずかしい。


「ところでレティス君は今なん歳なのかな?」

「あ、っと。14歳です。魔法学校に入るためにノルマンから来たばかりなのですが……」

「「えー、14歳!?」」


驚きのダブル声を張り上げたのは、殴りあっていたロイドとレイチェルだ。殴りあっていてもこちらに聞き耳を立てていたらしい。奥のテーブルでは、レティスが男か女かかけていたようで、一人の女声が無事に当てたらしく、他の三名から嬉しそうに金を巻き上げていた。何をしているんだあの人達は。


「もう少し幼いと思ってました。なるほど魔法学校へ」


ふむふむと頷くハウル。特に周囲の反応を気にしていないのは、これがいつもの光景だからだろうか?ちなみに武道っぽい、チェイスと呼ばれた男は奥の酒樽の上で横になって寝ている。自由な人達だった。


「レティス君を半ば拉致同然に連れ込んだのは、もちろん理由があります」

「やっぱり拉致なんですね」

「はい。ここらは弱小ギルドの集まりです。常にギルドメンバーを求めて飢えています。ギルドを覗くということは、興味があるということ。つまり、入りたいかもしれないということです。それはもう大義名分のもと連れ込まれても文句は言えないのです。地元ルールですが、よく覚えておいて下さい」

「……よい勉強になりました」


わりと連れ込まれた理由は正当なものだったらしい。

地元ルールというのはどこの世界にもあるものなのだ。


聞けば、うっかりしていると攫われてしまうような悪質なギルドもあるらしい。最も、王都の内部であれば治安は良いので、そういった心配はあまりしなくて良いらしいが……。


「しっかし、14か……驚きだぜ。男かほんと?」

「女の子にしか見えないねぇ。たしかに」


どうやら殴り合いも終わったらしい。

それぞれがレティスの近くに、取り囲むようにして座った。


「イエリア王国の魔法学校か……レティス君が実に羨ましい」

「ハウルからすればそうなるだろうなぁ。俺はごめんだ」

「ロイドじゃ入る前に退学だろうな、イシシ」

「だとぉ」「はんっ」


再びいがみ合う二人を全く気にせず、ハウルがじーっとレティスを見ていた。

どうやらこの人は、人の瞳を凝視するクセがあるらしい。


「魔法学校の入学条件は、国に認められて、この地で生まれた子供であること。というのがあるらしくてね。他の国の出身者は中々入ることが出来ないんだ」

「でも徴兵ですよ。兵士としての技術を学ぶ学校じゃないですか?」

「まぁ、昔であればそういった側面だったろうけど、今は違うと思うね。高度な知識や訓練をした魔法学校の卒業生は質がいい。大手ギルドが、わざわざ遠方のこの国に支店を置くくらい評判がいいところなんだよ」

「へーそうなんですか?」


イエリア王国に住んでいたとしても、レティスは田舎の森育ちである。

国の事情などはジートに聞いたのが最新情報であったといってもよい。


「ねえねえ、その子さ?さっきどこ出身って言ってたー?」

「そういあ、ノルマンって聞こえたな」

「おっ。ちょうどいけるじゃねーっすか」

「……チャンス到来」


奥の四人もテーブルによってくると、何やら人口密度が格段に上がったように感じる。

妙齢の両短刀を携えた女性冒険者はウロイティル。簡易レザーアーマーとつけた男はギルマスのロイドを若くした感じによく似ていて、ギリというらしい。軽薄そうな若い男は冒険者らしい装備を持っていないセンスという男。最後の無口な男はずんぐりどっしりとした体躯をしていて、ホワインルーガー。うーんミスマッチ。


ただでさえ狭い部屋に、これだけ集まると暑苦しく感じる。


「よう坊主ちょっとお願いがあるんだけどよ」

「ギリ。あんたねぇ、もう少し愛想よく誘いなよ。ね、お・と・こ・の・こ」

「色気はまだはえーっすよ。姉さん」

「……打草驚蛇」


やけに掛け合いがうまい四人組だった。


「だから採取系クエストは難しいってあれだけ言ったのに……」


それに嘆息したハウルは、呆れたような表情を浮かべていた。


「ハウル。私達だって頑張ったのよ。それはもう雑草を食べながら」

「そうだそうだ。貴重な食料も調達できて一石二鳥だと最初は考えてた」

「普通に腹下したし、採ってきたもんも毒とか有りそーっすよ。マジで」

「……以毒制毒」


うーんと唸ったのはロイドだった。


「毒を毒で制する場合どうなるんだろーな?」

「普通にダブルで死ぬんじゃないの?」


レイチェルのツッコミに、レティスも心の中で頷いた。


「という訳で、レティス君は弱小ギルドのお手伝いをすることにしたのでした」

「……」


微妙なナレーションに、ハウルを軽くにらみながら、ミルク分くらいは手伝う事にした。


レティスは奥に広げられた草とキノコを判定していく。得意分野であれば特に苦ではない。

ほとんど食べられない草や葉っぱだったが、食べられる物も混じっていた。

赤い木の実は大体食べられる物が多いが、美味しいとは限らない。おそらく途中から面倒になって、目ぼしい物を詰め込んだろう……。キノコは触るだけでも肌荒れするものがあるから注意が必要だ。レティスでも分からない物もあるので、それらは全て捨てていく。


「で、結局何を採りに行ってたんですか?」

「ヨル、カシオドキ、ビスの葉、カワネの根、スキギナ……だったかな」

「あ~野草茶の材料ですか」


村でもよく飲まれていた。大体が香りのよい葉っぱや小さな実や花のなる植物、木の根など、身の回りに多いものだ。村だと大体24種類くらいある野草から、7種類程度組み合わせて飲むのが普通だった。レティスの母リースもよく手作りしていたので、日干しにするのを手伝ったものである。


「とりあえず分けましたけど、このキノコは今度から注意してくださいね」

「縦に裂ければ食べれるんじゃないのか?」

「ある程度の見極めには有効ですが、これは毒がありますから無理です。内蔵からやられて死にますよ」

「うーむ……」


少し悔しそうなギリに、食毒テストの方法も伝授しておく。まずは肌に当てる。次に舌に載せる。次に噛む。少し飲み込む。しばらくして異常がなければ食べる……。

よほどの無味か遅効性の毒じゃないかぎり、判別は可能だ。


最も前人未到の不思議な植物だらけの場所にでも行かないかぎり、レティスがそれを試みることはないだろう。大体これは自分で出来る人体テストのようなものなのである。本来であれば最終手段だ。


一通り分類が終わり、それぞれを小袋に分けた。

採取クエストの指定品で足りない物もあったが、レティスが心配するものではない。

その後ろでは今夜はキノコ鍋とはしゃいでいる人達もいたが、あれらを全て混ぜたとしたら確実に阿鼻叫喚の地獄鍋になるだろう。食べられるだけの話で、レティスは一言も美味しいとは言っていない。


「いやぁ、思わぬ収穫にびっくりですね」

「そうだなぁ。うんうん」

「いつでもミルク用意しとくわ」


ハウルにギルマスのロイド、レイチェル。


「今度森に行くとき、声かけさせてもらうぜ」

「はーい、わたしもわたしもー」

「いやぁ、いい仲間が出来たっすね」

「……一蓮托生」


ギリ、ウロイティル、センス、ホワインルーガー。

個性豊かな仲間たち?ギルド叢雲は絶賛メンバー募集中であった。


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