9 二大派閥と夜霧
今日も投稿です。
とある貴族の家での舞踏会。
私の周りには多くの貴族令嬢が集まっている。
王城での面会後、公式に第三王子から各貴族に連絡が行き、私が第三王子派であることが周知された。私はそれまた忙しく多くの貴族と交流を持った。第三王子、そして夫人のマリー様の推薦もあり、私は瞬く間に派閥の中心へと押し上げられていった。
そして今に至る。
会場には、二つのグループがある。
会場の東側で、仮面を被った私を中心としたグループ。通称仮面派。
第三王子の派閥。
会場の西側で、真紅のドレスを着た紅の姫を中心としたグループ。通称紅派。
第二王子の派閥。
私たちは互いに距離をとったまま、お互いを見つめている。
二つのグループ以外にもちらほら人がいるが、彼女達は目立たないようにひっそりとしている。時折、二つのグループから数人がどちらのグループにも属さない彼女たちの元に行き話しかける。仮面派が話しかけに行くと、すかさず紅派もその場所にくる。華やかな貴族令嬢同士なので、見た目は華やかに見える。だが、話しかけられた令嬢は皆、余裕のない表情をしていた。
「アリスお嬢様。聞きましたか、紅の姫の事」
「えぇ、聞き及んでいます」
私の周りでは、口々に紅の姫の悪事を囁く人々。
何故か皆、私に報告?してくる。
報告されても困るのだけど・・・私は「うんうん」と言って頷く。
いつのまにかこのポジションになっていた。
本来は、第三王子夫人であるマリー様がこの位置にいるはずだが、マリー様はお城からめったに出てこない。
そのため、マリー様の強い推薦がある私が中心となっている。
私は皆の報告?を聞きながら、紅の姫こと藍花を見る。
藍花も同じようにとりまきの話を聞きながらこちらを見ていた。
すると、紅の姫がこちらに移動してくる。
藍花が移動することで、紅派が一斉に動き出す。
「アリス様。きます」
それを聞いて。
「私達も行きましょうか」
私が動くとグループ全体が動く。
二つのグループが会場の中央付近で相対する。
私は真紅のドレスを身にまとった藍花を見て微笑む。
藍花も同様に微笑んでいる。
「あら、ごきげんよう」
藍花は私を見てにっこりと挨拶する。
「こちらこそ、ごきげんよう」
私も笑顔で返す。
周囲では双方の取り巻き気が相手方を睨みつけている。
藍花は余裕がある表情で私とその周りを見る。
「あらあら、ずいぶんお友達が増えたんですね」
「はい。いつのまにか増えていました」
「そうですか。それはまた大層なことですね。一体いくら使ったのですか?」
「何を存じているか分かません。私は、とある方と違いますから」
藍花は笑顔のままだ。
私も笑顔を崩さない。
「今ならまだ、私のお友達になれますよ。なんなら一番の親友になってもかまいませんよ。どうですか?」
藍花は自分のすぐ横の場所を見てから、私に手を差し伸べる。
親友?
一番の?
その言葉に思わず笑いそうになった。
藍花の親友。
それがどういう意味か私は分かっていた。
私は笑いそうになるのをこらえる。
「私、友達はたくさんいますから結構です。紅の姫様が私のお友達になってくれるのなら話は別ですが」
私は藍花と同じように自分の隣を見てから、藍花に手を差し伸べる。
藍花は伸ばしていた手を降ろす。
私も同様にする。
「残念です。私、仮面をかぶって姿を偽るような趣味はございませんの。私の顔を多くの方に見て頂きたいのです」
そうして藍花は私から視線を逸らし、私の取り巻き達を見る。
「私は来るものは拒みませんよ。例え、可笑しな趣味を持っていようとも、いつでも歓迎します」
そういって彼女は会場の西側に戻っていく。
◆◇◆
夜。
私は黒いローブを着、黒薔薇の仮面を被る。
私はいつものように路地裏で待機する。
陰はさけ、月光が当たる場所で待機する。
月明かりで照らされた木箱の上に座りながら、私は願っていた。
第三王子夫人マリー様との約束通り、私は時折世界の平和を願っていた。
だが、霧はますます濃くなっているように思える。
今も月光が届かない場所で霧が蠢いている。
路地の先で、まるで意思を持っているかのように霧が動き、こちらを見つめている。
私はその霧を睨みかえす。
僅かに感じる視線。
これがなんなのか分からない。
だが、この霧に惹かれるものがある。
気づくと私は木箱から腰を上げ、霧に向かって歩きだし、手を伸ばしていた。
すると、霧が伸びてきて私の手を掴む。
「!!!」
私は咄嗟に手を引く。
追いすがるように追ってくる霧だが、月光の光にふれるとそれは霧散していった。
今のはなんだろう?
確かに感触があった。
霧ではない何か。
私が月光に照らされた自分の手を見ていると、
「きゃあああああああ」
悲鳴が聞こえる。
声からしてこの近くだ。
私は一瞬躊躇したがその声の元に走った。
すると濃い霧に飲み込まれていく一人の少女。
私は杖を取り出し、杖の先に意識を集中する。
私が練習していたのは回復魔法だけではない。
ロイスは、私には治癒魔法と光系統魔法の適性があると言っていた。
光系統魔法、祈りの力で聖なる神秘を扱う魔法。
神に祈り、祈りを魔力に変換する。
杖を少女を捉える霧に向ける。
そして呪文を唱える。
光の矢が飛んでいき、霧を切り刻む。
少女を放し、霧は霧散していく。
私は少女にかけより、体を確認する。
意識が薄い。
それに生命力が著しく低下している。
私は少女を担ぎ、月光が届く場所に移動し、治癒魔法を付加する。
すると少女の顔色は良くなり目覚めた。
話を聞くと、少女は家に帰る途中、霧に呼ばれたとのことだった。
なんとなく霧が気になって近づくと、いきなり体中に霧がまとわりついてきた。
そして徐々に元気がなくなって、意識が消えて行ったと。
家が近くということも有り、私は少女を送った。
黒薔薇の仮面を被った私に最初は驚いていた少女だったが、すぐに懐いた。
そうこうして元の路地裏に戻ってみると、そこにはロイスがいた。
仮面越しだから表情は分からないが、雰囲気からして怒っているようだった。
あ、またやっちゃった・・・
私は持ち場を離れたのだ。
私はロイスに事情を説明した。
霧が少女を襲ったと。
ロイスは初め怒っているようだったが、徐々に冷静になり真剣に聞いていた。ロイス自身は霧に何も感じないようだが、噂を聞いた事があると。私はマリー様から聞いていた話もロイスに話した。人を浚う霧の話。ロイスは考え込み、その日は帰ることとなった。




