6 舞踏会デビュー
とうとう来ました。
舞踏会当日。
私のデビューの日です。
舞踏会はとある貴族の屋敷で開かれます。
馬車に乗り、その会場を訪れます。
会場の入り口では、多くの馬車が順番待ちしています。
ゆっくりと進む馬車の列。
順番が来ると、ロイスに手を差し伸べられ、舞踏会会場である大ホールに向かいます。
既に多くの方々がきていました。
男性はスーツ、女性はドレス。皆着飾っています。
私がホールに入ると、会場が僅かにどよめきます。
皆、私を見つめます。
それもそのはず。私は仮面をつけたままです。
この会場で仮面をつけているのは私のみ。
その視線の圧力を受け、思わず足が止まります。
「立ち止まるな。気にするな」
ロイスが横で小声でつぶやきます。
「分かってるわ」
私は再び歩き出します。
初めは遠巻きに見ていた貴族たちですが、顔見知りの人たちが私に話しかけてきます。
貴族家巡りをした成果です。
彼らと普通に話している私を見て安心したのか、その後は初めて会った方々とも会話をします。
私の姿に安心したのか、途中からロイスとは別行動になります。
すると、ホールの入り口が騒がしくなります。
そちらを見ると、第二王子こと一色君と紅の姫こと藍花がいました。
現実での私の彼氏と親友。
そして雑貨屋ミリーを殺した彼と彼女。
彼女たちは、多くのとりまき貴族をつれています。
そんな彼女が私の方をみます。
そしてこちらに近づいてきます。
真紅のドレスに身を包んだ彼女。
彼女は私に向け微笑み、貴族特有のしぐさをとります。
慣れているのか、彼女の礼儀作法は私の教師兼執事のセバス並に優雅でした。
「初めまして、私、レイナ・シルフィードと申します。といっても、紅の姫の名前の方が有名ですけど」
私も同じように返します。
「初めまして、私、アリス・ブラックと申します」
彼女は珍しく驚いた表情をする。
「あら、あのブラック家の方にお会いできるとは光栄ですわ」
彼女は興味深そうに私を見ます。
ロイスの家名のブラック家。
私はその親戚筋ということになっています。
彼女はブラックという言葉に強く興味を惹かれている様でした。
何やら頷くと、彼女は私を下から上まで見る。
足のつま先から頭のてっぺんまで
そして再び私の仮面を見ます。
「面白いつけ物をしているんですね?」
「はい。その・・・」
「別にいいですわ。事情があるのでしょう。外してほしいなんて野暮な事はいいません。もっとも、この会場には仮面をつけた方が殿方のためになる令嬢も幾らかいますからね。舞踏会なんだから楽しみましょう。そういえばアリス様、狙っている殿方はいますの?もしいるのなら、私が手助けしますわよ」
親しげに話す彼女。
一瞬自分の事がばれると思ったが、そうでもないらしい。
彼女は笑顔で私を見る。
「いいえ、特にいません」
「そう・・・でも、いつでもいってね。私、恋のキューピットは得意なの。それから、新人のあなたにいいこと教えてあげるわ。今日は早く帰ることね。きっと私に感謝すると思うわ」
彼女は私に向けて微笑むと、とりまきの元へ帰っていく。
少しして、第二王子が私の傍に来る。
「君が噂の仮面の姫か。合いたかったよ」
笑顔で私の手を取る第二王子。
私はいきなりのことに緊張して体が固まった。
初めて一色君に触れられたのだ。
現実で付き合っている時は、触れることさえなかった。
だが、すぐに気も取り直して彼を見る。
「殿下には、紅の姫がいるんでなくて?」
「彼女は少々怖くてね。僕は君みたいな優しそうな人が好きなんだよ」
「そうですか。残念ながら私はタイプではないと思われます。私は優しくないですから」
そういって王子の手を離す。
王子は茶目っ気のある笑顔で私を見る。
「これは手厳しいな。でも、いつでも待ってるから」
そうして去って行く第二王子。
結局、紅の姫である藍花にも、第二王子である一色君にも私が冬華であることがばれていないようだった。
髪の色が金から黒になり、仮面を被っているからだろう。
それに声も違う。
これで私に気付く方が普通じゃない。
でも、心のどこかで普通じゃないことを期待していたのかもしれない。
明日も投稿予定です。




