毒も薬も使いよう
「自警団、ですか?」
田茂と名乗った男の手を握りながら俺は尋ねる。
「ああ。世界がこんなことになってしまって、警察ももう存在していないからね。そのせいで、力で無理矢理奪うさっきの奴らみたいな無法者が幅をきかせている。それに、魔獣も脅威だ。だから、善良な生き残りで協力してそれらを排除して、この地域に平和をもたらそうと協力しているんだ」
「へえ、そんな人達がいたのね」
「ご立派ですねえ! みんなのために頑張ってらっしゃるなんて!」
「ああ。すごいですね、さっきここにいた皆さんでですか?」
田茂は首を横に振る。
「いや、このあたりをパトロールしているのが今の六人というだけで、もっと大勢いる。ここよりもっと南東に行ったところに拠点があるんだ。小学校の体育館が運良く無事で、そこで数十人で集団生活を送っている」
数十人という言葉に俺は、そして日出も天音も驚いた。
思ったよりずっと多い。それほどの人数がいるとは驚きだな、うちのマンションよりも大人数じゃないか。
「リーダー! 誰ですかそいつら!」
その時、自警団の仲間が戻ってきた。
怪訝な表情で俺たち3人を見ている。
「ああ、彼らは――」と田茂がこちらを見る。
ああ、そう言えばまだ名乗ってなかったか。
「九重です」
「天音よ」
「日出と申します」
名乗ると田茂が続ける。
「あのショップの中に隠れてたんだ。俺たちとあいつらが戦闘してたからな。それで、戦闘が終わったので出てきた」
田茂が説明したが、しかし中には納得してない様子の者もいる。
特に五人の中の一人の、オールバックの男は、胡乱な視線を隠さずに俺たちに向けている。
「そんな都合よくこんな場所にいるもんかね。実はあいつらの仲間なんじゃねえのか? 旗色が悪くなったからごまかしてるとかよ」
「そうだとしたら、戦闘中にもずっと隠れているのは妙だろう。そうだ、あいつらはどうした? 追っていたんじゃなかったのか」
田茂に尋ねかえされたオールバックの男は、ほこりっぽくなった髪の毛をかきながら。
「あー、わりぃ、逃がしちまった。つーか、追いかけられなくなった」
「何かあったのか? ……山根? 顔色が悪いようだがまさか!」
オールバックの男の後ろにいた別の男が腕を押さえて青ざめていることに俺たちは気づいた。
山根と呼ばれたその人の腕は赤黒くはれていて、息が荒い。
「やつら毒を使ったんだ。山根を斬った奴が仕込んでたみたいだ」オールバックの男が忌々しげに手のひらを打った。「汚ねえマネしやがる! そんな汚ねえマネするなら、だまし討ちだってするだろうよ! そいつらだってきっと――」
「あの、よろしければ僕が治療いたしましょうか?」
日出が小さく手をあげると、一瞬時が止まった。
「………………何適当なこと言ってやがる!? てめえあんまふざけると!」
「いえ、僕のマホウ――特殊能力が解毒なんですね。だから多分その毒も消せるんじゃないかと思いまして」
日出の言葉を聞くと、オールバックの男は眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。信じるべきか、疑うべきか、判断に迷っているようだ。
代わりに口を開いたのは田茂で。
「その話、本当か?」
「人間から毒を盛られたケースの解毒はしたことありませんから、絶対できると断言はできませんが。でも、毒ということには変わらないと思うんですよ」
「そうか、たしかにそんな異能もあっておかしくはない。頼む、治してやってくれないか!」
「リーダー! いいのかよそんな奴らに頼んで!?」
「なら聞くが、他に毒を治すアテがあるのか?」
「それは……」
「自警団は、悪人を倒し善人を守る団だ。それが人を見るたび疑っていては守るべき善人も見失うぞ。……日出さんと言ったか、頼む」
「おまかせください!」
日出は毒に冒されている自警団員の腕に手を添える。
そして目を閉じ集中すると、両の手のひらから陽炎のように波紋が広がっていく。
波紋が一つ通り過ぎるたびに、腕の腫れが少しずつ引いていく。
同時に青ざめた顔にも血の気が戻り、呼吸が落ち着いていく。
三分ほどそうしていると、すっかりと彼の体調は元に戻った。
「す……すごい、苦しさが完全に消えた……」
「うまくいってよかったです! こういったケースは初めてのことでしたが、毒ならなんでもいけるものですねえ!」
「へえ、やるじゃない日出くん。こんな力があったのね」
天音も、
「あなたすごいじゃない! ありがとう!」
「おいおいうちに欲しいくらいの人材だな!」
自警団の面々も、日出を口々に讃えている。ちょっとした今日のヒーローだ。
疑っていた男も、これを目の当たりにしては形無しだった。
「…………あー……悪かったな、因縁付けて。ありがとう、こいつを助けてくれて」
「気にしないでください、困った時はお互い様ですから」
日出と男はがっちりと握手をして、和解した。
他の自警団員も、日出の肩を叩いたり、手のひらを見せてもらったりとすっかり気を許した様子だ。
日出のお陰で信頼を勝ち取れたな、ありがとう日出。
そう思っていると、リーダーの田茂と目があった。
「信用していただけたみたいでよかったです」
「こちらこそ、君達がここにいてくれて助かった。もしいなければ山根はどうなっていたことか。お互いこれからも助け合っていけるとありがたい」
「もちろん、こっちこそ。こんな世界じゃ信用できる人間ほど貴重なものはないですから」
自警団に信頼されたのはよかったな。
あの俺たちにちょっかいかけてきた奴らと自警団は敵対してるようだし、敵の敵は味方。俺たちを守って奴らを駆逐してくれたら願ったり叶ったりだ。
「そういえば」と田茂が今思い出したように口を開いた。「君達は3人で助け合って生きているのか? それなら、我々の拠点に来てはどうだ?」
なるほど勧誘か。
たしかに、勢力を拡大させる方が魔獣とかに対抗するのには便利だろうし、俺たちを取り込むにはちょうどいいタイミングだ。
だがしかし……。
「あー、それはちょっとねー」と答えたのは天音だった。「だって天音達はマ――」
「ありがたい申し出なんですけど、俺たちはそれは少し難しいかもしれません」
俺は、天音の言葉を遮った。
マンションのことを話すのは、少し待つべきだ。
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