乱戦観戦
知らない二つのグループが、俺たちが身を潜めている半壊したCDショップの前で一触即発の状態になっていた。
俺たちは、物陰から成り行きを見守っている。
(ねえ、どうするのこれ?)
(どうもこうも、どうしようもないだろう)
(とりあえず、隠れてる方がいいですよね!?)
こっそり見ると、南から来た荒っぽい奴らが6人、東から来た落ち着いた方も6人。
これだけの人数がもめてるところに、第三勢力俺たちまで出ていったら絶対にややこしいことになるに決まってる。
しかも。
(あいつこの前の……)
(え? 誰? 知り合いいたの?)
南の荒っぽい6人の中の一人に、この前、マンションを焼いて魔石を回収したときに絡んできた3人組の中の一人がいたのだ。
筋力増量して襲ってきた男で、額や腕や頬に結構大きな傷跡が残っていて、絆創膏を貼ってる場所もある。
魔獣に食われはしなかったようだが、手痛い代償は負ったらしい。そいつがいるってことは、南の6人にはなおさら見つからない方がいいということだ。
おとなしくことの成り行きを見守るのが賢い、と俺たち三人の見解は一致し、黙ってちらちら外の様子を見ることにした。
「なんだてめぇらは? 私らに喧嘩売ってんのかぁ?」
南のリーダーらしき、短髪の女がすごむ。
だが東のリーダーらしき、長髪の男は一歩も引かず、さっきと同じようなことを繰り返す。
「喧嘩を売っているのではない、治安を守っているのだ。誤魔化すな、お前達のやっていることはわかっている」
「はぁーん? わかってる? 私たちが雑魚から物資を奪ってることか? 雑魚を奴隷にしてることか?」
「両方だ。お前達に襲われたものの証言がある」
「だったら、私たちに逆らった奴がどんなめにあうかもわかってんよなぁ!? このいけすかねえ正義マンをぶっ殺すぞ!」
それが合図で、お互いの間で戦争が始まった。
南の6人は、筋肉を増強したり、炎を出したりといったマホウを使いまず攻撃を行った。これらは何度も見たことがある。うちのマンションにもいるし、以前も見た。
かなり所持者の多いマホウなのかもな。
さらに、手から木を生やして攻撃する人がいて、それは南のリーダーらしき女だったのだが、これは初めて見た。棍棒のようにして相手に殴りつけたり、あるいは木の幹で防御したりしている。なかなかワイルドな攻撃だ。
一方の東から来た者達もマホウを使って応戦する。
こちらにも筋力増強のマホウを使った人がいたが、それに加えて、東のリーダーの男はガレキを鷲づかみにして腕に黒い鎧を纏っている。
これは楓の鉄喰だ。これも、やはり使い手が他にもいるということだな。
他には初めて見る能力を使う人もいて、モグラみたいに穴を掘って地中を移動するマホウを使っている女がいた。
土の中に潜り、地中を泳ぐように移動できる能力のようだ。
そいつに向かって南のリーダーの女が木を生やして棍棒のように振り回して打ちのめそうとする。それに対してモグラのマホウで穴を掘って地中に逃れた女はそのまま地面を移動し、死角から地上に出て反撃しようとした。
だがそこを狙い澄ましたように、南の仲間が炎を出して攻撃してモグラ女を焼こうとし、これは決まったかと思いきや、さらにそれを察知した東のリーダーが、鉄喰の能力で黒い金属で覆った腕でガードして火の玉を弾き飛ばす。
(すごいですね! いろんな能力を使って暴れ回って、マホウ大戦じゃないですか!)
互いにマホウを使って入り乱れて戦う様子に、日出が小声ながら興奮した早口でまくし立てている。
(なによその造語。でも、こうやって傍目から観戦してる分には面白いわ。もっとやりあいなさい、ふふふ)
天音もマホウ大戦を面白がって観戦している。自分たちに火の粉がかからないからといって、二人とものんきなものだ。
もっとも、俺も観客気分で観察していたので人のことは言えないか。
よく見ると、マホウ大戦の中でもナイフや鉄パイプを持って戦ってるだけの人もいるな。多分、戦闘向きじゃないマホウの使い手なんだろうな、日出みたいな。
そうやってしばらく観戦していると、最初は拮抗していた戦況が傾き始めた。
天秤が傾いた方は……落ち着いた東勢力だ。
南勢力は徐々に押されていき、ついにリーダーの女が、相手のリーダーの男の鉄の腕をつきつけられた。
「勝負あったな」
「くっ……そが、舐めてんじゃねぇぇぇぇ!」
叫びながらその日最大のマホウを発動すると、足元から生えた木が女を乗せてぐんぐん生長していく。
その枝が横に凄い勢いで広がり、それにあわせて女と仲間達も一気に数十メートル後退し、そのまま逃走していく。
「覚えてろや! 次に会ったらぶち殺す!」
「追え! 悪を逃がすな!」
東のリーダーの言葉で、仲間達が走り出す。
逃げる南勢力を東勢力が追いかけていく。
(勝負ありみたいね。なかなか強いじゃない)
(ああ。それで……どうする?)
CDショップの前には東のリーダーだけが残っていて、戦場跡に落ちている武器などを集めているが。
(今なら話せるかもしれないわね。落ち着いてるし、一人だし)
(こっちの人達は誰彼構わず喧嘩を売ってる感じじゃないしな)
(それじゃあ、声をかけてみましょうか!)
万が一敵対されても、今なら3対1。
という計算もあり、俺たちは3人そろって、CDショップから出て行った。
「こんにちは」
「っ! 何者だ!」
声をかけると素早く反応しバックステップをとり構える東のリーダー。
俺たち三人の顔を鋭い目つきで代わる代わる見ている。
「俺たちは敵じゃないです。たまたま通りがかっただけの者で」
「そうそう、それで珍しく人がいるから声かけたのよ」
東のリーダーは眉根を寄せてしばし考えた。
その後、
「どうやらさっきの奴らの仲間というわけじゃなさそうだ。俺は自警団のリーダーをやっている田茂。この世界で生き残ってる正しい人間と会えて嬉しい。よろしく」
田茂は、握手の手を差し出した。
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