消えたコンビニ商品の謎
珍しく形を残していたコンビニがあったのに、中に入ってみると商品がなくなっていた。
「せっかくコンビニが残ってたのに! 物資が何も残ってないなんてガッカリもいいところよ。魔獣が全部食い荒らしたの?」
天音がレジカウンターをいらだたしげに指で叩いている。
俺は店内をぐるっと回ってみた。
商品棚も冷蔵コーナーからも商品はなくなっている。
「いや……魔獣にしてはおかしい。獣が食い荒らすならもっとこの場が散らかってるだろうけど、きれいになくなってる。この場で開けたんじゃなく、持ち去ったって感じだ」
「それはつまり……人間が持っていったってことですね!?」
「おそらくは」
店内の状況からしたら、そうだろう。
生き残った人物が、ここを見つけて商品をごっそり持って行った。
「それにしても店内まるごと? 魔法の鞄だって入りきらないんじゃないそんな量」
「長期間にわたってずっとここを食料庫にしてたのかもしれませんね」
「あるいは、大人数で一気に持って行った可能性もあるな」
俺たちは店内の様子をしばし無言で眺め続けた。
あると思った商品がなかったのも残念だが、それをやったのが誰かというのもそれ以上に気にかかる。
大人数だとしたら、何人くらいいるのか、敵か味方か、今はどこにいるのか。
「まあ、いつまでもここで考えててもしかたないな。予定通りこっち方面の遠征を続けよう。少し注意しつつ」
俺たちは少しばかり後ろ髪を引かれながら、コンビニをあとにした。
その後もさらに東へと歩を進めていく。
しばらく進むと半壊した駄菓子屋があったが、そこも。
「ここもお菓子が全て無くなっています!」
「えー! キャベツ太郎食べたかったのにー!」
残念なことに、駄菓子がなかった。俺はビッグカツが食べられると少しだけテンションがあがったのに。
ここもコンビニと同じで、何者かが商品を全て持ち去っている。
間違いなく誰かがここを探索した結果だ。
天音が腰をおろしてため息をついた。
「はあ。せっかく遠征したのにこれじゃあなんのためなのかわからないじゃない。やる気なくなるわね」
「テンションは下がるな。だけど魔石は手に入ってるから最低限の成果はある」
「それはそうなんだけどね。まったく、どこのどいつが天音の物資をとっていったの」
天音のではない。
しかし、ずっとこの調子だとせっかく遠征したのにって気分になるのは、その通り。
……方角を変えてみるのも一つか?
少し考えたが、結局もう少しだけこのまま東へ進んでみることにした。
もう一度こういう事態が起きたら、その時は進む方角を変えてみよう。
そして数百メートル歩くと、再び無事な――といっても、今回は一部崩れてはいるが――店舗があった。
「今度こそ頼むわよー」
「神様お願いしますよ!」
さて、どうなるか――そう思いながら店に入ると。
「無事だ、商品はしっかり残ってる」
「ついにですね! でもこれは……?」
半壊した店舗の中には、衝撃で地面に散らばったCDのケースが大量にあった。
ここはCDショップだったらしい。
「へー、CDなんて珍しいわね、久しぶりに見たかも」
看板も壊れていたため外からではなんの店かわからなかったけれど、CDだったのか。
俺は地面に散らばっているCDを手に取り、なんの曲かを確かめた。
色々な世代・ジャンルの曲があるが、その中には俺の好きな歌手の歌もあった。
これは最高のものを見つけた。
マンション作曲の曲だけじゃなく、自分が好きだった曲を聴けるようになる。
俺が次々に左手にCDを重ねていくと、それを見た天音も身をかがめる。
「そんなに熱心にCDなんて集めてるの?」
「CDプレイヤーを通販で買ったからな。天音も日出も、買う予定があるなら今CD集めておいた方がいいぞ、通販に普通の曲ないから」
「普通の曲がない? どういうことでしょう?」
俺は二人に音楽を聴こうとしたときの顛末を教えた。
まだ音楽関係に手を出してなかった二人は、当然通販に普通の曲があると思っていたので驚き、そして今後の音楽のために自分の好きな歌手のCDを回収していった。
それからしばらくは平和な一時だった。
CDを集めつつ、お互いの好きな曲について話したり、実は日出と同じアーティストが好きだったことが判明したり、世界崩壊後初めてするような話題で盛り上がった。
だが、そんな時間に。
ガリッ、ガリッ、――。
外から砂利を蹴っ飛ばすような音が聞こえてきた。
俺たちは即座に声を潜め、アイコンタクトをとり店の奥へ行き棚と瓦礫の影に身を隠す。
誰かが来た?
魔獣か? 人間か?
方角は南の方からだが……。
「おい! 全然ねえなこの辺は! キリキリ探せや!」
人間だ。しかも威圧的、あまり関わりたくない雰囲気がしている。
このまま身を潜めてやり過ごすか……。
ガリッ、ガリッ、――。
またもや足音?
しかも……違う、聞こえてくる方角が違うぞ、東の方から聞こえてくる。
そして、足音に続いて。
「お前達だな、この辺りで横暴を振るっているのは」
落ち着いた、しかし断固とした調子の声が聞こえてきた。
それは間違いなく、さっきの威圧的な声とは別人で、つまり。
まさか、だが――。
二組の別グループの人間達がこの店の前で出会ったのだ。




