第99話 リニア新幹線の初日に注目を集めたい犯罪者が集まって犯罪発表会みたいになってた
目立ちたがり屋の犯罪者さんの皆さん、せめて劇場型犯罪するならもうちょっとマーケティングとかしっかりやって世間が求めてる犯罪をやってください。
いつまでも行き当たりばったりの犯罪やってても進歩ないからナメられますし、今の世の中、ネットでネタにされまくりますからね……。
〜 〜 〜
私には10年来の女友達である頼光寺ってのがいるんですけど、Uberで出前頼んでパーティー的なことしてたんですよ。テレビを観てた頼光寺が言います。
「すごい人だよ、鈴木。リニア新幹線の開通式だってさ」
「変な事件起こらなきゃいいけど」
って言った瞬間にテレビの中でレポーターが叫び出しました。
『今、警察の機動隊が駅構内に突入しました! 爆弾が設置されているとの情報です!』
なんか普通に事件起こりました。でかいイベントってこういうこと起こりがちですもんね。頼光寺がニヤニヤして私を見てます。
「鈴木ってさ、どこでも事件起こすよね」
「私が起こしたんじゃないんだけど」
※ ※ ※
『ご覧ください! いま、機動隊員たちが爆弾を設置したと思われる犯人を確保して出てきました!』
レポーターが叫んでます。マスコミたちが大挙して警察の元に押し寄せると、リーダーみたいな人がカメラを手で押さえました。
『撮らないで! 近寄らないでください、危ないから!』
テレビ観てた頼光寺が小籠包頬張りながら笑ってます。
「爆弾犯捕まるの早すぎ」
「爆弾犯だけに爆発するところ見たかったんでしょ」
「やっぱり新幹線大爆破とか好きなのかな」
機動隊のリーダーの人、確か私が以前巻き込まれた事件でも捜査本部にいた人だよななんて思いながら爆弾犯が連れていかれる中継を観てました。
『なぜ爆弾を仕掛けたんですか!』
リポーターが大きな声で質問してます。答えるわけないでしょって思ってたら、爆弾犯が言うんです。
『爆発は芸術だ!』
思わずテレビにツッコミ入れちゃいましたよ。
「渾身の一言がパロディってセンスないよね」
頼光寺もうなずいてます。
「せっかく自分を出せるチャンスだったのにね。オリジナルじゃないんかいってなるよね」
「所詮その程度だから捕まってんだよ」
「三流犯罪者だね」
※ ※ ※
『今、開通式の行われている駅構内で切りつけ事件が発生したそうです!』
リポーターがまた叫んでます。頼光寺がテレビ観ながらなんか嬉しそうに笑ってます。
「お、飽きさせない展開だね」
「犯罪者もエンタメ精神ではやってないでしょ」
すぐに警官たちに取り囲まれて犯人が出てきました。すかさずリポーターがマイクを向けます。このリポーターどんだけ犯人に話聞きたいんだよ。
『なぜこんな事件を起こしたんですか!』
そしたら、犯人が血走った目で言うんですよ。
『鈴木はいないのか! ≪死神の王≫と呼ばれる鈴木って女は!』
頼光寺がこっちを見ます。
「呼んでるよ、鈴木」
いつも事件に巻き込まれたくないって言ってんのに事件の渦中にいるんですよ、私。今日ばかりは第三者として事件が起きてんのを楽しんでたのに。
「チャンネル変えて」
頼光寺が別のチャンネルに変えても、どの局も同じような中継やってました。犯人がなんか叫んでます。
『自分が起こした事件で鈴木と関われば犯罪者としての箔がつくってもんだ! ムショでも一目置かれるって噂だ! 鈴木はどこだ!』
誰だよ、そんな迷惑な噂流してる奴。だから私って事件に巻き込まれてきたの? っていうか、なんで刑務所の中で過ごすことが前提になってんだよ。リポーターが真剣な表情でカメラを見ます。
『犯人は精神が錯乱している模様です』
頼光寺がニヤニヤしながら言います。
「面白そうだから開通式やってるところ行ってきたら?」
「絶対に嫌」
※ ※ ※
それから、開通式では日本刀を振り回すおじいさんだったり、油を撒いてるイカれたおっさんなんかが次々と現れてました。この開通式って犯罪者たちの発表会かなんかなの? っていうか、治安終わりすぎでしょ。
「あ、なんかまた捕まってる」
頼光寺がプリン食べながら開通式を観戦してます。開通式っていうか、犯罪者のバーゲンセールって感じになってますけど。さっきからリニア新幹線のこと誰もわだいにしてないからね。リニア新幹線も泣いてるよ。せっかくの晴れ舞台なのにね。
報道陣の前に肩で息をした男が歩み出てきます。リポーターが男にマイクを向けて、
『お疲れ様でした。今回は開通式の混雑に紛れてスリを働いたとのことですが、まずは動機をお聞かせください』
って質問し始めました。なんでちょっとヒーローインタビューみたいなフォーマットなんだよ? スリの男も軽く空見上げながら答えてます。なにカッコつけてんだよ。カッコついてねーよ。
『えー、そうですね。開通式ということで人がたくさん集まるので、いい稼ぎになるかな、と』
頼光寺を見ると、犯罪者の発表会に興味失い始めてスマホ片手にながら見してます。まあ、犯罪のレベルも右肩下がりだからね。
『いくらほど稼いだんでしょうか?』
『えー、そうですね。捕まる直前では7万2000円までいってましたね』
『そこで警察に逮捕された、と』
『そうですね。あと2、3人は行きたかったんですけど、終盤は少し冷静さを欠いてしまったかなと思ってます』
なんでスポーツ選手みたいなスタンスでいられるんだよ、こいつ。リポーターも、
『次回の目標は?』
とか聞いてんです。誰が興味あるんだよ。
「そうですね。10万円の大台を超えたいと思います。応援よろしくお願いします!』
『自称会社員の大原容疑者でした。お疲れ様でした』
疲れてんのは警察の方でしょ。とか思ってたら、リポーターが真面目な顔でカメラを向きます。
『今回の開通式での数々の事件なんですが、実は裏でブラックマンバという犯罪組織が暗躍しているという情報が入ってきています。では、ブラックマンバとはどのような組織なのかVTRにまとめていますので、ご覧ください』
なんかおどろおどろしい映像が始まりました。頼光寺がカフェラテ飲みながら訊いてきます。
「マツケンの話?」
「それはマツケンサンバでしょ。ブラックマンバだよ」
「なにそれ?」
「テレビ観てたんじゃないの?」
※ ※ ※
それから出てくる犯罪者もめちゃくちゃ低レベル化が著しくて、リニア新幹線に無賃乗車したとか警備員土下座させるために開通式に来たとか抜かすカスみたいな奴までインタビュー受けてました。
「さすがに最初の方にでかい事件起こったらそれを超えてくんの難しいよね。警察も人員増やしてるからね」
「そんな分析しても人生になんのメリットもないからやめなよ、頼光寺」
っていうか、マスコミも無理やり犯罪者を見つけ出そうとして必死だから低レベル化からは逃れられないんですよね。…………私もなんのメリットもない分析してるわ。さすがにテレビ消そうと思ったら、報道陣の前にめちゃくちゃ汚い身なりのおじさんが現れました。
『うっ……! お疲れ様でした……。あなたは、異臭騒ぎの原因として逮捕されたたようですが……』
リポーターが鼻をつまみながら質問してます。そしたら、おじさんが怒鳴りました。
『俺はただのホームレスだよ!』
ただ風呂入ってないだけで捕まったみたいです、おじさん。アホらしくなってテレビ消しました。頼光寺が首を傾げてます。
「なんの番組観てたんだっけ?」
「分かんない」




