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第98話 事件が解決したと思ってホッとしてたら死ぬほどどんでん返しされて全然帰らせてくれない

 真相が明らかになったと思ったら実は隠された真実が……なんていう事件に皆さんも遭遇したことあると思うんですけど、あれ正直ダルいんで一発で終わらせてほしいですよね。


 なんか最近じゃどれくらいのどんでん返しできるかチャレンジしてる奴らもいるらしいです。まさにこの前その被害に遭ってきましたよ……。



〜 〜 〜



 事件解決した後、警察の車で送ってもらってたんです。今回もたくさん死にましたねーなんてことを刑事の人たちと喋ってたんですけど、事件を解決した張本人の探偵がなんかずっと難しい顔してんです。


 私、事件に巻き込まれることが多いんですけど、そのせいで色々察しがよくなっちゃったんです。だから、なんとなく分かっちゃったんですよね。この探偵、絶対にさっきの推理になんか抜けがあるの見つけたんですよ。


 さすがに事件の連続で疲れたし、さっさと帰りたいのにまた時間取られるの嫌だったんで、余計なこと言うなよって思ってたら、探偵が言うんです。


「そうか……、そうだったんだ……!」


 あー、閃きやがったよ、この探偵。刑事が尋ねます。


「どうされました、返田(かえしだ)探偵?


「……おかしいと思っていたんだ。死体発見時に犯人が現場にいたことをあの人が知り得たはずなんてなかったんだから……」


 どんでん返ししようとしてるんです、この探偵。マジでやめて。早く帰りたいんだよ。


「刑事さん、犯人は別にいます! 犯人を庇おうとした人物がいるんです!」


「え、でも、犯人はすでに別の車両で連行されて──」


「追いかけてください!」


 車がスピードを上げます。せっかく早めに事件終わったから帰って溜まった洗濯物片付けようとしてたのにどんでん返しのせいで無理かもしれません。せめて私だけ別の車に乗せてほしいんですけど、なんか車内が盛り上がっててそんなこと言えませんでした。



※ ※ ※



 警察署に着いて事件関係者が集められると、返田探偵が神妙な面持ちになって、さっき捕まった犯人を見つめてます。早く帰りたいんだけど、私。


「あなたは犯人ではなかったんですね……」


「違う、わたしが犯人なのよ!」


 犯人の女性が必死で言い返してきます。でもこの雰囲気、明らかに真犯人を庇ってる感じバンバン出てますよね。とか思ってたら、探偵が事件関係者のひとりを指さしました。


「本当の犯人はあなただ、静哉(せいや)さん!」


 そう言われた静哉さんは首を振ります。クール系の青年って感じの人なんです。


「やれやれ、何を言うかと思えば……」


 刑事も言います。


「待ってください、返田探偵! 静哉さんは男性です。第1の事件の際、被害者は殺されるかもしれないと言ってあらゆる男性を警戒していた。だから、静哉さんが被害者に近づけたはずがないんですよ」


 あー、ってことは静哉さんは実は女ってパターンのどんでん返し来そうだな……とか思ってたら、返田探偵が言うんです。


「静哉さんが犯人だと分かってから、あることに気づいたのです。この事件の犯人は復讐に駆られている、と。静哉さんはそのために自分を偽ったのです。そう、彼は……いや、彼女は女性なのです!」


 その後、なんか長々と静哉さんが身の上話をしてました。なんか色々あったらしいです。で、復讐を決めたんだって。そりゃ大変だね。でも、これで全部終わったから早く帰れると思って、返田探偵に言いましたよ、私。


「ということは、これで事件は無事解決ってことですよね。じゃあここで解散ということにしましょう」


 とか言ってたら、刑事が首を捻るんです。なんか嫌な予感がしました。


「そうなると、第1の事件の被害者が持っていた荷物が気になりますね。確か、2日後の映画のチケットを予約したWEBページを印刷した紙が入っていました。殺されるかもと警戒していた人がそんなことをするでしょうか……」


 なんかまたもうひと展開するきっかけ作りしようとしてるよ、この刑事。やめろよ。っていうか、そんな初歩的なこともっと早く気づけよ。とか思ってたら、事件が起こった屋敷の使用人たちが喋りだしました。


(ともえ)さまが心配だな」

「今は屋敷でひとりきりですものね……」


 巴さんっていうのは、ちょっと病気がちの女性で、屋敷の主なんです。そしたら、返田探偵がハッと息を飲みます。


「巴さんが危険だ! 屋敷に戻りましょう!」


 もう帰れると思ってたから、思わず言っちゃいました。


「え、今から?!」


 さっさと帰りましょうって言葉を飲み込んだ私は偉いと思うよ。自分を自分で褒めてあげたい。



※ ※ ※



 屋敷に着くなり、みんなが走り出していきます。どんでん返しパートってなんでみんな元気になるんでしょうね。アドレナリン出てんのかな?


 巴さんがいる部屋に行ったら、巴さんが横になってるベッドのそばに、死んだと思ってた第1の事件の被害者が立ってました。たぶん、死んだと思ってた奴が死んでなかったってどんでん返しがあったんでしょうね。


「なぜあなたはこんなことを……!」


 返田探偵が詰め寄ります。第1の事件の被害者・真斗(まさと)さんが笑います。この人は巴さんの旦那さんなんです。


「死んだと思われていれば自由に動き回れるからな」


「あなたの狙いはなんです?」


「巴が別の男と関係を持っているという証拠を掴むためさ。俺が死ねば、巴はその男と関係を深めるはずだ。そこを押さえれば……」


 巴さんもさぞかしびっくりしただろうなとか思ってたら、彼女が笑いだすんです。またなんかどんでん返ししようとしてないか、この女?


「あなたはそうやって15年前も拓馬(たくま)を陥れて殺したのね」


 知らない名前出てきたと思ったら、巴さんが隠された過去を長々と語り出しました。要は、巴さんはその拓馬って人の復讐のために真斗さんと一緒になったらしいです。刑事が呟きます。


「そ、そんな過去があったなんて、驚きましたね」


 刑事が私に話を振ってきたんで、思わず本音を返しちゃいました。


「どんでん返しの最中にしては話長かったですね」


 そしたら、真斗さんがポツリポツリと話し出そうとするんで、つい口を挟んじゃいましたよ。


「あの、もうどんでん返ししないでくださいね。帰って洗濯したいんで」


 真斗さんは私を無視して喋り出します。どんでん返しするつもりかもしれません。やめろっつってんのに。


「あの日、拓馬は自分が引き起こした会社の損失を隠そうとしていたんだ。その証拠を持ち去ろうとして自動車事故を起こして……」


「それはお前がしくんだことだろ」


 突然部屋の外から声がして、知らない人が出てきました。巴さんが目を丸くしてます。


「た、拓馬……?! ど、どうして、あなたは死んだはずじゃ……」


「この機会を待っていたんだ」


 なんか拓馬がヒーロー気取りで言ってます。そんなどんでん返しいらないんだよ。そしたら、真斗さんが言います。


「巴、拓馬はお前の企みを知って死を装っていたんだよ。俺たちは結託して、お前の罪を暴こうとしていたんだ」


 関係性がコロコロ変わるんで、もう理解するのやめました。だから、お願いも込めて言ったんです。早く帰りたいからね。


「あの、どんでん返しで盛り上がってるところすいません。最終的な関係性だけ教えてもらえば一発で終わるんで、どんでん返しの余地残さないで正直に洗いざらい吐いてくれます? さっさと帰りたいんですよ、こっちは」


 そしたら、巴さんが渋々立ち上がりました。


「わたしは病気じゃないです」


「あー、そうでしょうね。怪しかったですもんね、あなた」


 そしたら、拓馬さんも白状し始めました。


「実は、僕は真斗の計画を知って、巴と密かに連絡取って、真斗を止めるために奔走してました」


「相手の裏をかくの好きすぎでしょ。今後は裏で密かにやらないで堂々と戦ってください。どんでん返しとか求めてないんで」


 返田探偵が手を挙げます。


「実はさっきの15年前の事件、私は真相知ってて拓馬さんたちを脅して今回の事件起こさせました」


「あんたが犯人かい!」


「だから、真斗さんが男性を警戒してたのは、本当なんですよ」


「そんな伏線回収いらないから。……他になんかどんでん返ししようとか思ってる人いたら正直に名乗り出てください。いま言えばまだ許しますから」


 いや、私だって普段はこんなことしないですよ。でもさすがにこんなどんでん返しされたら頭きますよね。そしたら、刑事が恐る恐る手を挙げます。


「実はボクは警察じゃないです」


「お前もかい! 誰を信じりゃいいのよ、私は」


「警察のフリしてこの屋敷に隠された資産を狙ってきた強盗団です」


 って刑事が言ったら、集まってた警察官がすいませんねみたいな感じでヘラヘラ笑い出したんでぶん殴りそうになりました。


 これで終わりかとか思ったら、巴さんが言います。


「あの、実は拓馬と一緒にこの屋敷の元の主人を閉じ込めて乗っ取ろうとしてました」


「へへ、そうなんです」


 巴と拓馬が揃ってヘコヘコ笑い出しました。ここまで来るともうどうでもいいというか、最初の事件なんだったっけ? ってなりました。


「じゃあ、もうこれで終わりですね? 他に用意してたどんでん返しないね? やり残しても後出ししないでくださいよ!」


 って言ったら、みんななんか悩んだ顔するんですよ。こいつらどんだけどんでん返し狙ってんだよ? どんでん返ししたからって主役になれるわけでもないのに。


 イラついてたら、真斗がニヤニヤ笑いかけてきます。


「そういう鈴木さん、あんたもどんでん返ししようとしてんじゃないのか?」


「するかバカ! 早く帰って洗濯したいんだよ、こっちは!」


 どんでん返しに夢見すぎでしょ、こいつら。


 本物の警察呼んで事件処理してもらうことにしました。事件関係者たちもなんかやってきた警察に対して、ちょっと怪しむそぶりとかしてんです。もう病気だよ。



※ ※ ※



 疲れ切って帰ってきたんですけど、マンションの私の部屋の電気がついてんです。消し忘れて出てきたんだっけ? とか思って部屋に入ったら、私そっくりな人が洗濯物と格闘してました。


「あ、帰ってきた。どう? めんどくさい事件だった?」


「あの、もうこんな生活やめたいんですけど……」


「なんで? あんた私の姿になれるから便利なのに。なんだっけ、アニョハセヨ星人だっけ?」


「そんな韓国感満載な名前じゃないです。ハンニョモポラ星人です……」


「そういえばさ、トイレットペーパー買い忘れちゃったから、買ってきて」


 この鈴木って女、私の扱いが荒過ぎるんです。いや、確かに、地球の因果律がこの女に収束してるから、この女になりすまして密かに因果律をハンニョモポラ星の地球支配って感じに書き換えようとしてたのは認めますけど、それを逆手に取ってここまでひどい扱いしてくるとは思わないじゃないですか。


 もう決めました。実家に帰らせてもらいます。書き置きでも残しておきますかね。

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