第91話 超能力で事件の真相を透視するFBI捜査官が見えたもの説明できなくて普通に邪魔
超能力で犯人見つけたりする人たちにお願いがあるんですけど、超能力発揮してる時には頭が光るとか分かりやすくしてもらえませんかね? 地響き起こしたり空暗くしたりとか、やりやすいやつでいいんで。そうしてもらいたいくらい、いま超能力やってんのか分かりづらいんです。
あと、ちゃんと役に立って超能力で世に出てきてほしいんで、中途半端な力持ってる場合は大人しくしててもらえるとありがたいです。
というのも、この前会った超能力者がめちゃくちゃポンコツで……。
〜 〜 〜
大阪出張2日目。仕事が終わって、みんなでご飯行きましょうって時に急に刑事が来たんです。
「鈴木さんですね? 数々の事件を解決に導いてきたその手腕を見込んで、見ていただきたいものがあります」
仕事仲間たちが「ああ、またなんかあったのね」みたいな顔で私を送り出します。私も大阪の夜を楽しみたかったんですけど、警察に行くことになりました。
※ ※ ※
「鈴木さんは全国各地で発生している、遺体から脳を抜き取る事件をご存知ですか?」
警察署に着くなり、刑事が訊いてきます。なので、質問を質問で返しました。
「逆にこの警察署の近くでこれ終わった後に飲めそうないい店知りません?」
「さすが鈴木さんですね。よくご存知ですね」
「いや、何も言ってないのよ、私。勝手に話進めないでもらえます?」
「一連の事件と思われる事案がここ大阪でも発生し、我々はFBIから捜査協力を得ることになったのです」
「自分でなんとかした方がいいと思いますよ」
皮肉を込めて言ったつもりなんですけど、刑事が真面目な顔で私を見るんです。話通じないタイプだ、この人。
「鈴木さんはジョン・マクナマンをご存知ですか?」
「なんですか、その昭和の超能力者みたいな名前は?」
そしたら、刑事が目を丸くするんです。
「なぜジョン・マクナマンが超能力捜査官だとご存知なのですか?」
なんかテキトー言ったら当たってたみたいです。
※ ※ ※
「あ、おばんですー。ジョン・マクナマンっていいますねん」
アメリカのビジネスマンみたいな見た目の人がコテコテの関西弁で挨拶してきました。またなんか変な奴が現れたなーって思ってたら、ジョン・マクナマンが言います。
「あ、わし、子供の頃、門真で育ってんねん。せやから日本語OKよ。大阪弁オンリーやけどね、ハハハ」
めちゃくちゃ帰りたくなってると、刑事が言うんです。
「これからジョン・マクナマンには脳の抜き取り事件について透視してもらいます」
「…………なんで夜遅くにやるんですか。そのせいで私の大阪の夜が消滅しちゃったじゃないですか。楽しみにしてたんですよ」
いつもはこんなクレーム言わないんですけど、この時ばかりはベーコンみたいにカリカリしてたんで大目に見てください。そしたら、刑事が言うんです。
「そんなに楽しみにして頂いていたとは……。それでは早めに透視に参りましょう」
「楽しみにしてたのは飲み会だよアホ」
※ ※ ※
ジョン・マクナマンが警察署の会議室で集中してます。なにが楽しくてアメリカ人のおじさんがうんうん唸ってるのを見なきゃならんのよ?
しばらくして、ジョン・マクナマンが閉じていた目を開きます。
「事件現場が見えたでー」
コテコテの大阪弁で雰囲気がぶち壊しなんだよな……。
「生駒山ん中やね……。木々が生い茂ってんねん……。まあ、さっき捜査資料見さしてもろたから分かってんねんけどな、ハハハ」
「帰らせてください」
私が頼み込むと、刑事が慌てて止めに入ってきます。
「ジョン・マクナマンはお茶目なんです。なんというか、ジャパニーズ・ジョークが好きなんです」
「アメリカ人ならアメリカン・ジョークにしろよ」
そしたら、刑事が言うんです。
「ジョン・マクナマン、犯人について透視してください! このままじゃ面白い外国人になってしまいますよ!」
「心配せんでええよ」
ジョン・マクナマンが親指を立てます。面白い外国人って言ってるけど、面白くもないけどね。
※ ※ ※
「ああー、見えるわ、犯人、めっちゃ見える」
ジョン・マクナマンが目を閉じたままそう言います。それだけなのに刑事が得意げな顔するんです。
「どうです、ジョン・マクナマンの力は?」
「いや、見えるって言ってるだけじゃん……」
埒が明かないんでジョン・マクナマンに訊きました。
「何が見えるんですか?」
「犯人や」
「それは聞いたんですよ。どんな人なんですか?」
「それも見えとるよー」
「見えてるかどうか訊いてんじゃなくて、どんな人なのか訊いてんですよ」
「うん、見えとる、見えとる」
「だからー! 何が見えてんのかって言ってんでしょ」
「口下手やねん、わし」
「ちょっとでも努力しようとしろ! 性別とか服装とかなんかあるでしょ!」
「わし、アメリカンやん? アメリカっちゅーのは、ジェンダー厳しいねん。せやから、性別どうこういうんはひと口には答えられへんねん」
「そんな配慮いらねーのよ。じゃあ、描いてください」
刑事にスケッチブックとペンを持ってきてもらったんですけど、幼稚園児の絵みたいなの描かれてなんの参考にもなりませんでした。
「分かりました。じゃあ、犯人はどこに逃げたんですか?」
「あのー、あっこや、わしが小2の時にけんちゃんとはぐれてもうた、あの沢のところの……」
「あんたの少年時代のこと知らないんだよ。伝わる説明しろっつーの!」
「あ、犯人が満足そうな顔しとるわ」
「どうでもいいわ、そんなの。犯人が考えてること分かんないんですか?」
「姉ちゃん、そないな超能力、わしが持っとるわけないやないかー。あ、わし、超能力者やったかー、ハハハ」
超能力者ジョーク放り込んできました、このバカ。
「あー、分かりました。じゃあ、凶器とか見えないんですか? それくらい分かるでしょ」
「あー、これはな……2800円くらいしそうやね」
「値段なんか訊いてねーよ。物自体がなんなのか訊いてんだよ。本当に見えてんのか?」
「見えとる、見えとる。見えすぎて見なくても見えるわ。見えすぎて逆に見えとらんって説もあるわな」
「どっちだよ」
刑事がため息をついてます。さすがにこの胡散臭いアメリカ人に愛想尽かしたのかと思ってたら、
「ジョン・マクナマンの能力を持ってしても解決が難しい事件だとは……。鈴木さんが言う通り、誰かの手を借りずに自力にコツコツと捜査をしていかなければ……」
とか言って勝手に反省してんです。ジョン・マクナマンの能力をまずは疑えよ。
結局、よく分からないねーみたいなクソみたいな結論に至ったんですけど、ジョン・マクナマンが連れて行ってくれた飲み屋がめちゃくちゃよかったんで許しました。




