第90話 関西の刑事がMCみたいに事情聴取してるし相手がアイドルすぎて劣化バラエティ番組みたいになってる
慎ましく生きたいと思っている関西人の皆さんは、関西のお笑い芸人とどこであろうと関西弁を使う人たちに反旗を翻した方がいいんじゃないでしょうか。
慎ましく生きたいと思ってる人は慎ましく生きたいからこそ反旗を翻すつもりはないかもしれませんけど、彼らのせいで皆さんは関西弁を使う面白い存在であり続けなければならなくなってますよ。
〜 〜 〜
大阪に2日間の出張に来た初日に殺人の目撃者になって刑事から話を聞かれるハメになりました。事件は私を巻き込まずにいられないの?
事件関係者が集まる部屋に刑事が入ってきました。ドア開く前からなんか騒がしいなと思ってたら、この刑事がでかい声で喋ってたみたいです。
「ほいほい、こんちわ〜! なんやみんな辛気臭い顔してからに〜!」
人死んでるからだよって思いましたけど、変に目つけられたら面倒なんで黙っときました。どこから持ってきたのか分からない背の高い小さな丸テーブルに資料を広げて、刑事が私たちを見ます。
「君ら事件の容疑者やで、ホンマに〜。はよ終わらせたいんやったら犯人さん、手ぇ挙げて〜」
妙なノリの刑事を前にみんな黙ってると、刑事がボケました顔するんです。
「冗談やがな! ハハハ! 手ぇ挙げるわけないもんなぁ! 君らボサっとしとらんとツッコミ入れんかい!」
めんどくさそうなMC刑事です。明石家さんまをリスペクトしてそう。なんて思ってたら、MC刑事が言います。
「アホなこと言うとりますけど、じゃあまずはゲスト陣、自己紹介頼んます〜」
なんのバラエティ番組だよ。私たちゲストだったのかよ?
※ ※ ※
変なキャラを見せつけなければMC刑事も大人しくしてるだろうと思ってたら、事件関係者の若い女の子が自己紹介し始めるんです。
「はい、ぽわぽわピンクでみんなを包み込んじゃうぞ! ラブプリンセスことショッキングピンク担当、スイートプラネットのまちゅたんです! メロメロぽわ〜ん!」
「なんてかわいらしい〜!」
MC刑事がニコニコしたかと思えば、すぐにまちゅたんに鋭い目を向けます。
「なんやねん、君は! けったいな奴やなぁ!」
「わたし、アイドルやってるんです〜」
まちゅたんはどうやらオフの日だったらしく私服なんですけど、だったら一般人としてやり過ごしてほしかったですね。現にMC刑事が目キラキラさせちゃってんです。
「何歳や、君?」
「ええとぉ、まちゅたんは永遠の3歳なのですぅ〜」
「ええねん、そんなん! 何歳やっちゅうてんねん!」
「3歳です❤︎」
「ならしゃーないなぁ。ってアホか、お前!」
めちゃくちゃしんどい空間だよ、ここ。いつまで耐えなきゃいけないんだよ。早くホテルに帰りたいよ。ホテルのビュッフェ20時までなんだよ。
※ ※ ※
よくよく話聞いてると、まちゅたん、殺された人と金銭的なトラブルがあったらしいんですよ。もうこいつ犯人でいいから早くホテル帰らせてほしいなんてことは言いませんでしたよ。私、大人なんでね。
「なんや君、怪しいなぁ」
さすがのMC刑事もついに疑い出したんですけど、まちゅたんはシラを切ります。
「もぉ〜、そんな怖い顔したらまちゅたん、えーんえーんだよぉ〜!」
「泣いてへんやないかい!」
「心が泣いてるの……。きっと今頃まちゅたん王国は雨模様だよぉ……」
「なんやそれは! なら定期的に泣かんと乾燥してまうやないか!」
MC刑事がよく分からないツッコミ入れてます。まちゅたんにはなんか細かい設定があるみたいです。容疑者として疑われてるのにその設定は守ろうとするんかい。とか思ってたら、MC刑事が本題に戻ります。
「ええねん、そんなん今は! あのな、犯人はトイレに凶器隠してんねん、しかも女子トイレに。君が犯人やったら問題ないやろ!」
「まちゅたん、トイレ行かな〜い! 行ったことないよぉ〜! だってアイドルだもん!」
「ウンコしたことないんか? ウソやん!」
「まちゅたん分かんなぁい」
他人のトイレ事情なんて知りたくないんで、まちゅたんがトイレ行かないみたいなのは助かりました。とか思ってたら、まちゅたんがMC刑事に上目遣いしてるんです。
「え〜、刑事さんはぁ、まちゅたんが犯人だったら悲しくならないのぉ〜?」
そしたら、MC刑事がニコ〜っするんですよ。
「う〜ん、どうやろなあ〜?」
「刑事さんがまちゅたんを疑わなくなってくれたらぁ、まちゅたん、刑事さんにいいことしてあげたいなぁ〜……」
なんか急に色仕掛けしてます、この女。明らかに犯人じゃん。言い逃れできないと思って作戦変えてんじゃん。MC刑事がニコニコしてます。
「なんやええことって? 考えてみてもええかもな〜……ってアホか! そんなんアカンで自分!」
しんどいノリツッコミが炸裂して、私はもうホントにさっさと帰りたくなって、MC刑事に訊いてみました。
「まちゅたんが犯人だって、なんか証拠あるんですか? なんの罪でもいいんで早く逮捕してあげてください」
「ええ〜、お姉さん、ひどぉ〜い! まちゅたん泣いちゃう」
「泣いてるかどうかは私が決めるから」
って返したら、まちゅたんがびっくりした顔してました。ちょっと棘がありすぎたかもしれません。MC刑事が言います。
「あのな、実はあんねん、証拠」
「あるんだったら先に出してくださいよ。なんの時間だったんですか」
「フリがあって初めてオチが活きるんやで」
「そんなセオリー要らないんだよ。さっさと出してください、証拠」
「なんや自分、カリカリしてからに……。ベーコンかっちゅうねん! ハハハ!」
MC刑事の誘い笑いがイラつきます。
※ ※ ※
「まちゅたん、君、ホストの彼氏おるよな? そいつに貢ぐ金欲しさにやったんやろ?」
ってMC刑事が言ったら、まちゅたんが慌てた顔して首を振るんです。
「まちゅたんはみんなの恋人だからぁ、そんな人いないよぉ〜!」
ノータイムでMC刑事がふたりの写真出してきて、まちゅたんが沈黙してました。もうすぐ帰れそうで、私はちょっと笑ってしまいました。まちゅたんが真顔になってなんか喋ってます。
「この度はプライベートの写真が撮られてしまい、ファンの皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです」
恋愛禁止のアイドルの謝罪が勝手に始まりました。そしたら、MC刑事が言うんです。
「ええねん、そんなんはな。君かてアイドルで大変なんやし、心の支えっちゅうのが欲しかったんやな」
なんか人情味のあること言って、それを聞いたまちゅたんが泣き出しました。私は何を見せられてるの? さっさとこの女逮捕してくれればビュッフェに間に合うんだよ、私は。
それからまちゅたんが長々と時間をかけて自白しました。
「ほんなら、調書にサインしてもらうから」
ってMC刑事が言ったらまちゅたんが、
「あ、サインは事務所NGなんで」
って真顔で返しました。
「なんやねん! そっちのサインちゃうわ! 調書を取り調べ室の壁にブワーって貼り出す思てんのかい、芸能人のサイン置いてある居酒屋みたいに!」
MC刑事がまちゅたんのボケ拾いましたよみたいな顔してこっちをチラ見してきました。目合わないようにしときました。そしたら、まだ何か付け足したいのか、MC刑事がまちゅたんに言うんです。
「そんなことも分からんのかい! 何歳やねん、君は!」
「あ、26です」
ってまちゅたんがマジレスしたら、MC刑事が新喜劇みたいにコケました。
「ちゃうちゃう! そこは『3歳です』でええねん! せっかくできた流れを壊すな!」
ってお笑いの指導し始めました。得意げに私の方見て、
「どう思う、君は?」
って訊いてきたんで思いっきり、
「早く調書取らんかい!」
ってツッコミ入れたらめっちゃびっくりした顔してきました。お笑いの基礎どこいったんだよ。
ちなみに、ホテルのビュッフェには間に合いませんでした。クソが。




