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第89話 幼馴染同士が探偵と犯人に別れて対決するのに憧れた犯人が私を勝手に幼馴染扱いしてきた

 ライバルとか生き別れの肉親とか道を違えた同志みたいな特殊な関係性に憧れてる人もいると思いますけど、自分のまわりにそういうのがないってことはそういう人間じゃないってことですから、諦めて自分の身の丈にあった生き方した方がいいですよ。


 間違ってもそういう特殊な関係を相手に頼み込まないでください。この前、それでめちゃくちゃイラついたんですよ……。



〜 〜 〜



 出くわした殺人事件になんか成り行きで関わることになって探偵役を押しつけられたんです。ただまあ、大した事件じゃなくて犯人丸わかりだったんで、さっさと犯人指摘して帰ろうとしたんです。そしたら、私が犯人だと思ってた男がこっち来て、コソッと言うんです。


「あの、鈴木さん、驚かないでくださいね。この事件、ボクが犯人なんです」


「そう思ってたんで心配しないでください」


 犯人の男はなんかちょっと嬉しそうなんです。なんだこいつとか思ってたら、図々しいこと頼んできました。


「ボク、友達いないんです。でも、ここは鈴木さんにかつての親友ってテイでボクを追い詰めてほしいんです」


 そりゃあ友達もいないだろうよって思いながら答えました。


「そういうのめんどくさいんで嫌です」


「鈴木さんとボクはかつて親友で、そんなボクが犯人だと知りながらも、苦悩してボクを追い詰めてください」


「そういうのやってないんで、今度犯人になった時に別の人に頼んでください」


「いや、対決みたいな感じにしたいんですよ。事件に華を添えたいっていうか……」


「華じゃなくてゲロ添えてどうすんですか。そんなクソみたいな演出いらないんですよ」


「いやいや、こうすることで鈴木さんもなんか深みのある探偵としていい感じに見られると思うんですよ」


「どこ目線で言ってんだよ。ふざけたこと考えてる暇あったらさっさと自首しろバカ。こっちはやりたくないのにこんなカスみたいな事件に関わらされてんですよ」


 男は肩を落としてため息を吐きます。やっと諦めたかとか思ってたら、急に叫び出すんです、こいつ。


「ち、違う! ボクは犯人じゃない!!」


 みんなの視線が私たちに集まりました。チラッと見たら、ニヤッとしてんです、この男。最悪な形で解決編がスタートしました。



※ ※ ※



「どういうことですか、鈴木さん?」


 事件に居合わせてた刑事が訊いてきます。どういうことじゃないよ。あんたが刑事らしくさっさと事件解決してりゃあこんなことになってないんだよ。どうしたもんかと思ってたら、犯人の男が言うんです。


「ボ、ボクたちは親友だったはずだろ、それも幼馴染の……! そんなボクを疑うなんて……!」


 なんか幼馴染って設定トッピングしてきたんだけど、こいつ。


「お、幼馴染だったんですか、鈴木さん?」


 刑事が驚いてます。そっちじゃなくて、まずはこの男が犯人ってことに反応しろよ。違うって言おうとしたら、犯人がすかさず返します。


「そうなんです……。あの頃はいつもボクたちは一緒だった……。そうだよな?」


 そう言ってきたんで、イラついて言い返してやりました。


「どの頃だよ」


 刑事が怪訝そうに目を細めます。


「……幼馴染じゃないんですか?」


 なんで幼馴染かどうか確認してくるんだよ、この刑事。だから事件も解決できないんだよ。そしたら、犯人が言うんです。


「ふふ、まあ、あの頃はお互いのことを当たり前の存在だと思っていたから、特別な存在だと思っていなかったからね……」


 それだけで刑事が納得したような顔してんです。ちょっとは疑えよとか思ってイラついてたら、犯人が私を見てさらに続けます。


「え? 『私を意識してなかったのはそっちでしょ』って? じゃあ、あの頃から君はボクのことを意識してたってこと?」


「勝手に私のセリフねじ込もうとしてんじゃねーよ」


 私のツッコミも無視して、犯人がちょっとだけ歩いて遠くを見つめます。安い劇団みたいな芝居するなよ。


「君とボクは男と女……。いつしか君のことを大切な存在だと思ようになってたんだ」


「なんで恋愛関係に発展したことになってんだよ」


「だから違う高校に行くってなった時、本当の思いを告げて一緒になれて嬉しかった」


「ベタな展開入れ込むのやめて。っていうか、お前なんかとは付き合わねーよ、たとえ幼馴染でもな」


 架空の過去思い出して微笑んでんです、この男。めちゃくちゃ腹立つな、こいつ。とか思って事件関係者見たら、女性陣がうっとりしてんです。今までの話だけでなにちょっと感情移入してんだよ。


「本当に事件の犯人なんですか、鈴木さん?」


 刑事が訊いてくるんで速攻で終わらせようと思って言いました。


「あ、はい。そうですよ」


 そしたら、刑事が顔を強張らせるんです。


「幼馴染であり、恋人でもあった彼を告発するなんて……心苦しかったでしょう……」


「心苦しくねーから。むしろ晴れ晴れとしてるよ」


 って言ったんですけど、事件関係者たちが口々に呟くんです。


「あんなに気丈に振る舞って……」

「心の中では葛藤が……」

「罪を償わせることが真実の愛なんだよ……」


 なんなの、こいつら。なんでそこまで感情移入できるんだよ。っていうか、この男が犯人って受け入れるの早すぎだろ。もはや全員気づいてたでしょ、これ。そしたら、犯人がこっち見るんです。


「あの時の約束、果たせなくてごめん……」


「なんの約束だよ。知らないんだよ。っていうか色々付け足しすぎなんだよ、お前。欲張りセットか」


 刑事が間に入ってきて言います。


「色々と手続きがあって、連行までにはまだ時間がかかりそうです」


 とか言って、ふたりだけの時間をどうぞみたいな顔するんです、このアホ刑事。なんの気遣いなんだよ。ドラマの観すぎなんだよ。


「さっさと連れて行ってください。早く帰って出張の準備したいんですよ。明日から大阪だから」


 みんなから、私がわざとそっけない態度で相手が悲しまないようにしてると思われてる空気をバンバン感じます。ただ単にさっさと帰りたいだけなんだよ。


 パトカーに乗せられる前に犯人がこっちをゆっくりと振り向きます。間をたっぷり使ってないで早く行けよ。


「いつかボクが戻ってきたら、あの約束の場所で待ってるよ……」


「死ぬまで待ってろ」


 パトカーを見送ると、事件関係者が集まってきて、涙を浮かべながら慰めてくれます。別の意味で泣きそうだよ。なんなんだよ、このクソみたいな時間は。


 それからというもの、刑事から犯人の状況を知らせる電話が何度も来たんで普通に着拒しました。

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