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第88話 探偵が失くし物を探すのに必死で目の前に死体があるのに推理してくれない

 エントリーシートとか履歴書とかの短所書くところって、長所に変換できるやつを書けって言われるじゃないですか。例えば、短所が「短気」だったら、長所は「感情豊か」とかね。


 この前会った探偵の短所は「視野が狭い」ってところですかね。長所は…………別に私が考える筋合いないんでパスしますけども。



〜 〜 〜



 とある資産家の屋敷で招待客が殺されたんです。でも、資産家が警察嫌いらしくて、通報させてくれないんですよ。


「ここには数々の事件解決に関わってきた鈴木さんがいる。彼女に事件を推理してもらおう」


 とか言って資産家が私を探偵役にするんです。私、探偵じゃないんですよ。なんでそんな面倒なことしなきゃいけないんだって思って言いました。


「さすがに警察呼びましょう。長引いて帰れなくなるの嫌なんで」


「解決できたら1000万円でも払おうじゃないか」


 ちょっと考えようかななんて思っちゃった自分を恥ずかしく思ってたら、この屋敷で飼われてるゴールデンレトリバーがやって来ました。資産家が頭を撫でます。


「おお、ディートリヒ・シュラウンベルク12世、どうした?」


 犬に変な名前つけてんです、この資産家。そしたら、資産家が首を傾げました。


「うん? いつも持ってるアレはどうした、ディートリヒ・シュラウンベルク12世?」


 なんかいつも12世が咥えてるおもちゃがないって資産家が言い出したんですよ。仕方ないからみんなである程度探したんですけど、見つからりませんでした。っていうか、そばに死体転がってんですけど、それ放置でいいのかよ? とか思ってたら、資産家が思い立ったような顔するんです。


「ディートリヒ・シュラウンベルク12世のおもちゃを見つけるために探偵を呼ぼう」


「いや、殺人どうすんですか」


 ってツッコミいれましたけと、さすがにその探偵が事件も考えてくれるかーなんて思ってました。皆さんはもうタイトルで分かってると思うんですけど、そんなことありませんでした。



※ ※ ※



 30分くらいでやって来たのは、ホームズみたいな格好してる嘘だろってくらい探偵っぽい探偵でした。絶対こいつ変な奴でしょ。


「ふむ、それで、その失くなった物とは?」


 探偵が客間で事情聴取してるんですけど、死体のある部屋見たらびっくりするだろうななんて思いながら話聞いてました。探偵の質問に資産家が答えます。


「ディートリヒ・シュラウンベルク12世のおもちゃなんだ。≪白い光玉(こうぎょく)≫という水晶玉みたいなやつだよ」


「ほうほう、さぞ貴重なものなのでしょうな」


 なんで貴重なものを犬のおもちゃにしてんですかね、この資産家は? イカれてますよ。


「以前、他の所有者から4000万ほどで買い受けたものだ。オーパーツらしいが、よく分からなかったんでディートリヒ・シュラウンベルク12世に与えてやったら喜んだものでね」


 せっかく買ったのに使い道雑すぎるだろ。ひと通り話を聞いて、探偵が立ち上がります。


「では、屋敷の中を拝見」


 とか言ってパイプ咥えるんです。いまどきホームズの真似してる奴なんかいないんだよ。



※ ※ ※



 死体のある部屋に入って、探偵が第一声を発します。


「ふむ、何か予感がする」


 まず死体見ろよって思いましたけど、もったいぶってんのかなって思って黙ってました。っていうか、部屋の真ん中に死体あるんで絶対見えてますからね、この探偵。


「≪白い光玉≫について知っている人は?」


 とか質問しながら、探偵がクローゼットの中とか覗いてます。いや、数メートル先の死体について質問しろよ。


「具体的に話をしたのは、データ分析会社のCEOくらいだな。なにやら、≪白い光玉≫について調べているようだった」


「名前は?」


 とか訊きながら探偵が死体を跨ぎました。もう見えてるよね? お父さん寝てんじゃないんだから雑に扱いすぎじゃない?


「テネシー高村という男だ」


「ふむ、昭和のネーミングセンスですな」


 探偵がふふって笑うんですけど、名前にツッコミ入れるより死体にツッコミ入れんかい。


「彼は≪白い光玉≫は水晶ストレージだと言っていた。どうやら内部にデータが保存されているらしい」


「ふむ、≪白い光玉≫はそのデータ目的で盗まれたのかもしれませんな」


「なんと……!」


「しかし、杞憂であるかもしれない。まずは探してみましょう」


 とか言ってる探偵が死体転がしてそこの床調べてんです。ずっこけそうになりましたよ、私。


「さすがに見えてんでしょ、死体!」


 って思わず言っちゃいました。そしたら探偵が、


「私は≪白い光玉≫を探し出すという使命を帯びているのだよ、お嬢さん」


「だからといってスルーしすぎでしょ。死体あるんだよ、目の前に」


「失くし物は比類なき集中力のもとに探し当てられるものなのだ」


「さっきからその言い回しイラつくんだよ。普通に喋れよ」


 っていうか、ホームズの真似してんのに殺人スルーってキャラ設定活かしきれてないだろ、こいつ。



※ ※ ※



 散々屋敷の中を探して、探偵と一緒に死体のある部屋に戻って来ました。なんでよりによってこの部屋に戻って来たんだよ。


「≪白い光玉≫は盗まれたのでしょうな」


 探偵が冷静に言います。ついて来てた12世が残念そうにくぅ〜んと鳴きます。この犬もなんで死体無視してんだよ。ちょっとは反応しろよ、犬だろ。とか思ってると、探偵が尋ねます。


「テネシー高村という男についてお聞かせください。その人物が持ち去った可能性が高い」


 殺人について質問しろよ。っていうか、普通気になるでしょ。気になれよ。


「いま非常に驚いているんだが、先日、テネシー高村についてそのデータ分析会社に問い合わせたのだ。そうしたところ、こう返ってきた。『そんな人物はいない』とね」


 そしたら、探偵が即答するんです。


「これはおばけですな」


「なんだよ、そのバカみたいな結論」


 思わずそう言っちゃいました。でも、探偵は全然動じないんです。


「霊媒師をお呼びになった方がよろしいでしょう。テネシー高村の霊を鎮めましょう」


 資産家も神妙にうなずいてんです。なんだ、こいつら。目の前にいる死体の霊も面倒見ろよ。


 呼ばれて来た霊媒師が死体見てビビってました。しかも、死体見て気分悪くなったらしくて横になってました。よくそれで霊媒師やれてるな。その後、トイレ行くふりして警察に通報しときました。バレて資産家に怒られるのも嫌だったんで、屋敷抜け出して家に帰ったんで、殺人事件のことはよく知らないです。

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