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第87話 連続放火犯を炙り出すために火事現場の野次馬常連を集めたら誰が一番現場に来てるかで争いが始まった

 放火犯は現場に戻ってきて建物が燃えるのを見るから警察の人は野次馬を観察するっていうじゃないですか。


 でも世の中には暇な人が死ぬほどいるってこと、忘れない方がいいですよ……。



〜 〜 〜



 会社帰りに火事の現場に出くわしたんですよ。火事の現場ってなんであんなに野次馬いるんですかね? みんなキャンプファイヤー好きなのかな。そういえば、この辺りで放火が続いてるとか言って消防車がパトロールしてたの思い出しました。


「はいはい、皆さんこっちに来てくださーい!」


 警察の人が野次馬を集めてるんですけど、人の波に飲まれて私も連れてかれました。新しい入浴剤買ったから早く帰ってお風呂入りたいんですけど。



※ ※ ※



「一連の放火犯はこの中にいる!」


 私たちを集めた刑事が宣言します。ドラマの観すぎなんですよ。そんなに簡単にこの中に犯人いるわけないでしょとか思ってたら、刑事が言うんです。


「放火犯は野次馬となって現場に戻ってくる! だから、今から放火現場の野次馬常連を炙り出す!」


 なんか張り切ってます。昨日刑事ドラマでも観たんですかね?


「何度も放火現場を見にきたという者は正直に名乗り出ろ!」


 そんなんいるわけないでしょとか思ってたら、野次馬の中から手が挙がりました。キャップ被ったおじいさんです。


「たぶんワシが一番放火現場を見てると思うぞ」


 なんか自慢げなんです。みんなの前に歩み出ると、他にも手が挙がります。


「ボクも!」

「俺の方が見てる!」

「私も!」

「アタシの方が見てるわよ!」


 大人から子供までアピールしてます。みんな野次馬に誇り持ってそうで、この街から引っ越ししたくなりました。挙げ句の果てに、


「じゃあ、5回以上来てるよーって人!」


 とか言って刑事が野次馬をふるいにかけ始めたんです。映画の舞台挨拶で俳優が客席にこの映画何回観たか訊いてるみたいになってるよ。で、野次馬上位3人が最後まで勝ち上がって前に出てきました。しょうもない決勝戦だよ。



※ ※ ※



「やっぱりワシが一番だな」


 さっきのキャップ被ったおじいさんが決勝進出1人目です。真っ先に容疑者リストに載るって理解してんのか?


「アタシも負けません!」


 2人目、気合いの入ったおばさんがファイティングポーズ取ってます。どこから勝とうっていうモチベーション出てきてんだよ?


「俺が一番だから。なんてったって俺が犯人だからね」


 3人目のおじさんが意気込み言ってんですけど、もうそれ自白じゃん。でも、刑事は野次馬ナンバーワン決めようとしてて気づいてないんです。バカなの? とか思ってたら、刑事が私を指さしました。


「そこのお姉さん、目立たないようにしているが怪しいな。君もファイナリストとしてこっちに来なさい!」


「なんで私が……」


「君はこの混乱に紛れようとしている」


「あんたが混乱のど真ん中なんだよ。っていうか、さっき犯人自白してたでしょうが」


 なんか敗者復活みたいにしてみんなの前に出させられました。まわりの野次馬のみんなが盛り上がってます。何が楽しいんだよ。



※ ※ ※



「アタシはXにかじりついて近くで火事が起こってるの見たらすぐ出かけるようにしてますからね」


 ファイナリストのおばさんが得意げに言ってます。火事情報をXで拾ってるって人生終わってるよ、この人。もっと人生充実させろよ。


「ワシなんか去年免許返納したから自転車で火事起こってないか毎日探してるからね」


 おじいさんもなんかおばさんに対抗してんです。なんなの、この醜い争いは。早く帰りたいんだけど、私。そしたら、放火犯がニヤってしてんです。


「俺なんかこの前の2丁目の現場、一番乗りだったからな」


「あんたが犯人なんだからそりゃそうでしょ」


 って私がツッコミ入れたら、放火犯が訊いてきました。


「じゃあ、姉ちゃん、あんたはどんだけ現場経験してんだ?」


「してないんだよ。今日初めて通りがかったんだから」


「フン、ひよっこが出しゃばるんじゃない」


「放火犯に言われたくないんですけど」


「こっちは消防無線聞いて動いてるんだぞ。本気度が違う」


「捕まらないようにしてるだけでしょ、それ」


 とか言い合ってたら、横からファイナリストのおじいさんが口を挟んできます。


「無線を盗み聞きするなんて聞き捨てならんなぁ。自分の足で火事現場は探すもんだぞ」


「そうよ、ずるいわよ、あなた! 卑怯者!」


 おばさんも加勢して2対1の構図になりました。よく分かんないんですけど、火事の現場を探す美学みたいなのがあるらしいです。この世で最もくだらないこだわりだよ。おじいさんも攻勢を強めます。


「それに、2丁目のやつは放火じゃないってニュースで言ってたぞ。だから、一番乗りしてもノーカンだ」


「ふざけるな。あれは放火だ」


 放火犯がムキになって言い返してますけど、黙ってたら放火だってバレてなかったんじゃないの? なんで自分からバラしてんの、こいつ? とか思ってたら、刑事が言います。


「ただの火事の現場に野次馬しに行ったのはマイナスポイントだな」


 放火犯が放火だって言ってんですけどね。信じてあげろよ。


「それに、消防無線を聞くのはなんか卑怯だから……失格!」


 放火犯が野次馬ナンバーワンの決勝で脱落しました。放火犯なのに。っていうか、放火犯ならぶっちぎりで優勝してほしかったですね。


「全力でやったんですけど、力が及ばなかった……」


 とか負けコメント残して放火犯が帰っていきました。他の野次馬が強かったね。野次馬ナンバーワンを勝ち取ったのはおじいさんでした。優勝決まったら集まったみんななんか満足して解散ってなりました。なんだったの、このクソみたいな時間? 変な疲労感のまま家帰ったんで、新しい入浴剤が沁みましたよ。


 次の週にまた近くで放火事件起こったんで、警察に放火犯のことチクっときました。普通に捕まってました。放火犯としても失格って感じですね。

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