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第85話 爆弾解体で切る線の色が死ぬほど多くてブチ切れてもう爆死してもいいやって思った

 全国の爆弾犯の皆さん、今日も爆弾作りに精を出していることと思います。まあ、そんなことしてないで働けと言いたいところですけど。爆弾犯の皆さんは爆弾にオリジナリティを詰め込んでいるかと思いますけど、それ粉々になるからあまり意味ないですよ。


 オリジナリティも多少抑えめでもいいんじゃないでしょうかね。あまりにやりすぎると伝わんなくなりますよ……。



〜 〜 〜



『爆弾を解体してほしいんです』


 そんなアホな電話あると思います? しかも職場に。1回ガチャ切りしたんですけど、またかかってきました。


『私は警視庁の本郷(ほんごう)です。現在、とある事件の捜査本部を指揮しています。爆弾犯からの指名なんですよ。鈴木さん、あなたに爆弾を解体してほしい』


「あの、明日のプレゼン資料作んないといけないんですよ」


『多くの命がかかっているんですよ!』


「明日のプレゼンそこそこ大事なんですよ」


 色々ゴネたんですけど全然引かないから仕方なく行くことにしました。私の職場の電話番号を警察が共有してるらしいです。着拒設定してやろうかな。



※ ※ ※



 道具持たされてとある商業ビルの地下室に行かされました。無線で繋がった捜査本部の本郷さんの声がイヤホンの中で聞こえます。


『犯人はそのビルの人間を避難させれば仕掛けた爆弾を爆発させると言ってきています』


「そんなん無視しちゃえば大丈夫ですよ。できないと思って言ってんですから」


『そして、爆弾犯はあなたを指名し、我々に爆弾のマニュアルを送りつけてきました。無線で指示をし、解体させるように、と』


「よくもまあいちいち言うこと聞きますね……」


 ボイラー室に爆弾がありました。早めに片づいたら会社に戻って資料作らないとなとか思ってるとなんかめちゃくちゃ気が滅入ってきました。お腹も減ってきたし。


 とりあえず、爆弾のカバーを外して解体作業が始まりました。後輩に資料に使うデータ集め頼んどけばよかったなぁ……。



※ ※ ※



『では、まずは右上の装置の上部から出ているステーキブラウンの線を切ってください』


「え、なんですか? お腹減ってるんで変なこと言わないでください」


『いえ、爆弾のマニュアルに線の色が書いてあるんです。ステーキブラウン、と』


 よくよく見ると、なんか爆弾から出てる無数の線が見たことないくらいカラフルなんですよ。そんなバカなと思って、スマホでググってみました。確かにありました。普通にブラウンでいいでしょ。なんだよ、ステーキブラウンって。持たされたバッグからニッパー出して切りました。死ぬほど線があってめんどくさそうです。


「切りましたよ。さっさと終わらせたいんで、早く次教えてください」


『次は、その装置の裏側から出ているアズライトマラカイトの線を切ってください』


「いちいち調べないといけない色指定してくんの腹立つんですけど」


『いや、マニュアルに書いてあるんですよ……』


 色の名前も韻踏んでてなんかイラつきました。青っぽい色みたいでした。青でいいだろ。


『次はちょっと気をつけてください。その装置の側面からグリーンアベチュリンクォーツとグリーングロシュラライトガーネットの線が出てると思うんですけど──』


「分かんないんだよ、なんの呪文だよ」


『いや、ですから、グリーンアベチュリンクォーツとグリーングロシュラライトガーネットです』


 調べたらどっちも緑っぽい色でした。なんのこだわりなんだよ。緑に統一しろよ。ここで見てもいまいち色の違い分かんないんだよ。


『その2本の線の裏にアレキサンドライトサファイアとクリソベリルアレキサンドライトの線があるので、クリソベリルアレキサンドライトの方を切ってください』


「次アレキサンドライトって言ったらぶん殴りますよ」


『いや、マニュアルに書いてあるんです。私のせいじゃない』


 なんかググっても宝石の写真しか出てこなくてイライラしてきました。やっとのことで色の一覧ページ見つけてなんとかクリソベリルアレキサンドライトの線を切りましたよ、クソが。なんなんだよ、クリソベリルってとか思ってたら本郷さんが言います。


『そこのカバーを外した中から出ているクリソベリルキャッツアイの線を切ってください』


「クリソベリルってなんだよ! クリソベリル繋がりみたいなの要らないんだよ!」


 なんかボイラー室でひとりで叫んでるの客観視してめちゃくちゃ虚しくなりました。バックれて帰ってやろうかな。


『鈴木さん、落ち着いてください。爆弾の解体には凄まじいストレスがかかりますからね』


「爆弾関係ないんだよ。色の名前が腹立つんだよ」


 仕方ないんでクリソベリルキャッツアイの線切りましたよ。


『では、奥にあるアパタイトキャッツアイとアクアマリンキャッツアイの線も切ってください』


「なんで今度はキャッツアイ繋がりなんだよ。絶対遊んでるだろ、この爆弾犯」


『爆弾犯は遊んでいないと思いますよ。人の命がかかってますからね』


「そういうこと言いたいわけじゃないんだよ」


 なんか本郷さんもちょっとズレててそれもまたイラつくんですよね。おかしいと思わないのかよ、このおびただしい色の数々を。200色くらいあんねん。



※ ※ ※



 で、脳の血管ブチ切れそうになりながら線切りまくってどうやら爆弾解体も終盤にきたみたいでした。もう会社の定時超えてんだけど。資料作りどころじゃないよ。


『では、その丸いカバーの左側からマホガニーとマホガニーブラウンの線が出ているのが確認できると思いますけど、どうですか?』


 見てみるともうほとんど同じ色にしか見えない線が2本出てるんです。


『マホガニーブラウンの方の線を切ってください』


「どっちか分かんないんですけど」


『あ、マホガニーブラウンの方です』


「ちゃんと聞こえてんだよ。聞こえた上でどっちか分かんないのよ」


『間違えると爆発しますから気をつけてくださいね』


 めちゃくちゃ凝視しても色の違い分かんないんですよ。もういいわ、適当でもって思っちゃいましたよね。爆発してビルの人たち巻き込まれても私のせいじゃないですしね。って感じで片方ぶった切りました。こっちがマホガニーブラウンだったみたいです。正解しても分かんねーよ。


「切りましたよ。まだあるんですか?」


『次は……よく聞いてくださいね。一番下の基盤に繋がっているトランスペアレントオキサイドレッドとクロミアムオキサイドグリーンブリリアントとスパークリングブラックパールクリスタルシャインの線を切ってください』


「もはやふざけてんだろ、色の名前つけてる奴。長すぎなんだよ。奇を(てら)おうとして滑ってんだよ」


『そうですね……。人の命を奪う爆弾をこんな場所に仕掛けるなんて、怒りが湧きますね』


「私の話聞いてました? 爆弾犯よりも色の名前つけた奴に腹立ってるんだよ」


 そしたら、無線の向こうで本郷さんが息を飲んでんです。まだなんかあるのかよ?


『基盤の裏側に複数の線が繋がっていると思いますけど、1本だけ切ってはならない線があります……。それで爆弾解体は終わりです……』


「もうイライラして全部の線切りそうなんで早く教えてください」


『切ってはならない線の色は……ハッピーバースデイです』


「はい? 色の名前ですか?」


 ググってみました。ピンクでした。ただのピンクでいいだろ。


『マニュアルに爆弾犯からのメッセージが書かれています。≪誕生日おめでとう。爆散して死ね≫だそうです』


「誕生日じゃないんですけど、今日」


『え?』


 ハッピーバースデイの1本だけ切ってやりました。マニュアルの最後の手順は嘘で、これが正解だったみたいです。爆弾解体終わったら警察関係者が殺到してきたんですけど、全員シカトしてボロボロになりながら会社に帰ったら、後輩が資料作ってくれてて泣きました。

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鈴木さんが爆発した!
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