第81話 動機を喋りたい犯人とそのつらさ分かってるよってアピールしたい探偵が闘ってる
以前から言ってるんですけど、私は犯人の動機ってあまり興味ないんですよね。感動させられたら一発OKもらおうとしてない? って思うことたまにあります。
そんな犯人のこと理解してますみたいな理解力見せて好感度上げようとしてる探偵の皆さん、その浅ましい考え、見え透いてますから気をつけてくださいね……。
〜 〜 〜
「あなたが犯人なんですね、真依奈ちゃん……」
女子大生探偵がそう言って連続殺人事件が解決しました。しかも変なことが一切起こらずに。変な探偵とか犯人が雰囲気ぶち壊すところばかり見てきた私にとっては、解決編までめちゃくちゃスムーズに事が進んでやや肩透かし食らった気分でした。
真依奈ちゃんと女子大生探偵は事件の中で距離が縮まっていて、絆も深まってたんですよ。だからか、事件解決しても女子大生探偵は悲しそうなんです。
「真依奈ちゃん、きっとあなたは苦しかったんだよね? 分かるよ、そのつらさが」
ホントかよって思いながら見てると、真依奈ちゃんがその場に崩れ落ちます。ポロポロ涙流してんです。殺された方はもっと泣きたかったと思うよって言いそうになりましたけど、なんか現場の雰囲気が湿っぽかったんで黙ってました。こう見えても私、空気読める方なんで。
「わ、わたし……どうしようもなかったの……」
「そうだよね、人を殺さなければならないって思い込んでしまうまで自分自身を追い詰めちゃってたんだよね。きっとそれは耐えられるようなものじゃなかった。ずっとひとりで抱え込んできたんだよね。偉いよ」
同情の言葉が長いんですよね、この女子大生探偵。っていうか、偉くはないでしょ。ずっと我慢して耐えてる人の方が遥かに偉いから。とか思ってたら、女子大生探偵が真依奈ちゃんの手を取って優しく声をかけるんです。
「あなたを支え続けてきたものが限界を超えてポキッと折れてしまったんだよね。そこに至るまでの真依奈ちゃんのつらくて苦しくて悲しくてどうしようもない気持ちを分からないなんて言う人がいたら、それはあなたのことを理解しようとしていないんだと思うよ」
いや、いくらなんでもそれは言いすぎじゃね? なんかそこまで言うと人殺しの理由が理由ならOKみたいなニュアンス出てくるよね。っていうか、真依奈ちゃんまだひと言しか発してないのに女子大生探偵の同情止まらなすぎなんですけど。よくもまあそこまで理解してます感出せるな、この子。真依奈ちゃんが話し出すタイミング失いかけてんじゃん
「あの、真依奈ちゃんが何か話したそうにしてるから聞きましょう」
って思わず口挟んじゃいました。そしたら、真依奈ちゃんがやっと喋り出したんです。真依奈ちゃんも真依奈ちゃんで動機語りたそうな顔してんのがなんかイラっときました。
「わ、わたしには、とてもつらい過去が──」
「そうだよね、真依奈ちゃんが辿ってきたこれまでの人生がなんの苦しみもないものだとしたら、こんなことに手を染めることはなかったと思う。この数日間、あなたと過ごしてきて、あなたの素晴らしさが私にはすごく伝わってきたよ」
もう真依奈ちゃんがなんかポツリと言おうもんなら女子大生探偵が5倍くらい喋るんですよ。さすがに邪魔だなとか思ってたら、真依奈ちゃんも女子大生探偵の喋ってる途中で強めに相槌打って割り込もうとしてんです。
「そうなんです。わたしはこれまで恵まれた環境で生きることができませんでした。両親はよく喧嘩をしていたし──」
「そうなんだよね。真依奈ちゃんの心は初めから歪んでたわけじゃない。長い時間をかけて変わっていってしまったんだよね。そのことに気づいてから歪みを正そうとしても難しくて──」
「そう、だからこそ、わたしは自分を保とうとして意固地になっていたのかも──」
「ううん、それは意固地なんかじゃなくて、あなたがあなたらしさを守ろうとして──」
「いいえ、そんなに綺麗なものではありませんでした。わたしはただ自分の環境を変えられずに他人に責任転嫁を──」
「だけど、そんなあなたを理解してくれる人がいれば今回のようなことは防げたはず──」
「いいえ、わたしの決意は固く、今回の事件は何年もの時間をかけて──」
「違うよ。あなたはそんなに冷酷な人じゃない。あなたはとても優しくて──」
「そう見せていただけで本当のわたしは──」
「ううん、本当の自分は案外自分では分からないもの。他人から見て初めて──」
「それはわたしに幻想を抱いているから──」
「真依奈ちゃんに幻想なんて……!」
いやもう止まらねーな、こいつら。どんだけ主導権握りたいんだよ。もはや喧嘩じゃん。朝まで生テレビでもまだもうちょっと人の話聞いてるよ。肝心の動機の話が全然進んでなかったんで、不本意ですけど、私がレフェリーみたいに間に入りましたよ。
「まあまあ、ちょっと落ち着いて話聞きましょう」
とか言ってみましたけど、ホントは動機とか興味ないからね、私。事件解決したし、早く帰りたいんだよこっちは。とか思ってたら、女子大生探偵が私を見るんです。
「鈴木さん、真依奈ちゃんの話を聞いてあげましょう」
「あんたが邪魔してたんだよ」
ってツッコミ入れたんですけど、なんか女子大生探偵には響いてないんです。すごいメンタルだよ、この女。
※ ※ ※
「わたしは零細のWEBサイト運営の仕事してるんですけど給料が少なくて良い生活できないし、彼氏があまり構ってくれなくてずっと不安を抱えて生きてきたんです」
真依奈ちゃんがつらい過去とやらを話してくれたんですけど、耳を疑いましたよ。
「ええと、ごく普通のワーキングプアって感じだよね」
って私が言ったら、女子大生探偵が割って入ってくるんです。いちいちうるさいんだよな、この女。
「それでも真依奈ちゃんは頑張って生きてきたんですよ! 彼氏もこんなに健気な真依奈ちゃんを支えてあげないなんてひどい」
「いや、彼氏いるじゃん。ひとりぼっちじゃないじゃん。よく聞く愚痴だよ、構ってくれないって」
女子大生探偵が首を振ります。こいつは真依奈ちゃんの何を知ってんだよ、ここ数日だけの関係のくせに。って思ったけど、もちろん黙ってましたよ。
「いいえ、私には分かります。真依奈ちゃんを殺人に向かわせたのはその彼氏です」
「そんなわけないでしょ。殺人は真依奈ちゃんの責任でしょ、どう考えても」
「私には分かります。真依奈ちゃんは悪くないって」
なんか真依奈ちゃんに気に入られようとしてるんです、この女。そのために真依奈ポイント稼ごうとしてんですよ。真依奈ちゃんも調子に乗って、
「彼氏が構ってくれてたらわたしだって……」
とか抜かし始めました。甘やかした結果がこれだよ。しかも、
「そんな日々が続いたある日、コーヒーをベッドにこぼしてしまったんです……。それでわたしの中で何かがプツンと切れてしまって……」
めちゃくちゃクソみたいなきっかけを喋ったと思ったら、女子大生探偵がうんうんうなずいてんです。
「分かる、分かるよ。些細なきっかけでそれまで耐えていたものが全て崩れ去ってしまったんだよね……」
「それ言っていいのは身内が死んだ人くらいだよ、甘ったれんな」
って真依奈ちゃんと女子大生探偵ビンタして終わらせました。手出したのマズかったかなとか思ってたら、なんか勝手に全部腑に落ちたみたいな顔して警察に連行されていきました。女子大生探偵は最後までなんでビンタされたのか分かってなかったっぽいですけど、無視して帰りました。




