第79話 取り調べがいつの間にかアキネータークイズになってた
皆さんの中にも取り調べされたことある人たくさんいると思うんですけど、カツ丼タダで食べられなかったってことにびっくりしてるみたいですね。
取り調べはイメージと違うことも多いですから、受ける時には気をつけた方がいいですよ……。
〜 〜 〜
知り合いに捜査一課の刑事がいるんです。捜査一課といっても無能を集めた特殊任務係なんで、私としては知り合いだと思われたくないんです。そこの節穴刑事ってのから電話が来たんです。しかもいつも通り職場に。
『口の固い参考人を尋問するんで来てください』
「なんで普通に一般人の私に電話してくんですか」
『じゃあ、1時間後にお願いしますよ!』
一方的に告げられて電話切られました。ふざけてますよ、あいつら。仕方ないんで上司に断りを入れて警察に行きました。上司が「相変わらず忙しいねえ」って言ってました。なんで定番になってんのよ?
※ ※ ※
「捜査一課の方で口を割らないっていうんで、参考人がトクニンに寄越されてきたんですよ。どうやら闇社会の人間らしいんです」
節穴刑事が言います。
「なんかトクニンが流れ者が辿り着く最果ての場所になってません?」
「我々が最後の砦ってわけです」
「面倒なの丸投げされてるだけでしょ」
トクニンは警察署の敷地内の隅にあるボロボロの建物の中にあるんです。追い出し部屋ならぬ追い出し建物ってわけです。初めの頃は備品も機材もなかったんですけど、来るたびになんか豪華になってんです。署内から色んなものをパクって来てるらしいです。
※ ※ ※
「やあ、よく来てくれたね、鈴木さん」
トクニンのリーダー、木偶野警部が出迎えてくれます。
「なんの事件の参考人なんですか?」
「それは分からないんだ」
ずっこけそうになりました。
「……どうやって取り調べするんですか」
「協力者の名前を吐かせればいいらしい」
「いつもそんなフワフワ仕事してんですか?」
「だから鈴木さんを呼んだのだよ」
「刑事でしょ、自分でなんとかしてくださいよ」
「人というのは手を取り合うために両腕があるのだよ」
「黙れ」
※ ※ ※
取調室で木偶野警部がタトゥーを入れたイカつい男と向かい合います。私たちはマジックミラー越しにそれを見てるんですけど、節穴刑事たちがワクワクしながら見学してます。尋問が始まりました。
「協力者を教えてくれないか?」
タトゥー男はニヤリとするだけで答えません。木偶野警部は動じずに質問を繰り出します。
「協力者は我々が知ってる人間か?」
すると、タトゥー男はダラっとした口調で、
「いいえ」
と答えました。意外と敬語なんだとか思ってると、木偶野警部が続けます。
「男?」
「はい」
「若い?」
「分からない」
「30代?」
「分からない」
私の隣で節穴刑事が仲間たちと喋ってます。
「年齢が分からないんだ……」
「でも男だとは知ってるのか……」
「会ったことがないのか……」
なんか楽しそうなんですよ、こいつら。いつも緊張感ないからトクニンなんだよとか思ってたら、木偶野警部がさらに質問します。意外と尋問はちゃんとできるみたいです。
「その協力者とは頻繁に連絡する?」
「いいえ」
「たまに連絡が来て指示されるのか?」
「部分的にそう」
「アキネーターじゃん」
思わずツッコミを入れてしまいました。なんかおかしいと思ったらアキネーターやってんですよ、タトゥー男。取り調べでふざけてんですよ。ナメられてますよ、木偶野警部。まあ、ナメられるのも分かりますけど。
節穴刑事たちを見ると、今まで木偶野警部が質問した項目をメモに取りながらなんかキャイキャイ答え考えてんです。楽しんでんじゃねーよ。
※ ※ ※
木偶野警部がバンバン質問して、節穴刑事たちが協力者の情報をまとめていきます。
「うーん、年齢の分からない男で、ホットドックが好き……。雨が好きで、漫画の主人公ではない。大学を卒業していて、現在は就職を部分的にしてる……。髪型は分からないし、血液型も分からない。声は部分的に低い……」
そんな質問してどうすんだっていうのばかりでワケ分かんない人物像ができあがってんです。っていうか、部分的に就職ってどんな状態よ? みんながひと通り考えて結論を出してました。
「誰なのか全く分からない……」
刑事たちが真剣に言うので、思わずぶん殴りそうになりました。
「ここまでの時間返せバカ」
※ ※ ※
尋問の休憩中、タトゥー男に話しかけてみました。
「バカみたいな質問されて疲れました?」
「部分的にそう」
「アキネーターの答え方以外で喋れないのかよ?」
「はい」
「はいじゃねーよ。自分の意思どこにやったんだよ」
時間無駄にしてイライラしてたんで、口調強めになっちゃいましたよ。でも、タトゥー男は無感情に続けるんです。ロボットかよ。
「分からない」
なんか頑なにアキネーター的な回答しかしてこないんです、このタトゥー男。
「誰かに命令されてんの?」
「はい」
「例の協力者?」
「いいえ」
「あんたの仲間なの?」
「たぶん違う」
待って。なんかまた新しいアキネーター始まってない?
※ ※ ※
結局、情報聞けずじまいでタトゥー男を帰すことになりました。でも、なんかタトゥー男が私をじっと見てくるんで、何か言いたいのかなとか思ってたら、急にタトゥー男が言うんです。
「はい、はい、はい。いいえ、はいはいはいはい、いいえ」
「え、急になに? キモいんですけど」
でもタトゥー男が構わずに続けるんです。
「はい、はいはい、はい。はい、はいはいはいはい、たぶん違う。はい、はい、分からない」
急に黙りました。言いたいこと言い終わったみたいです。私、色んな事件に巻き込まれてきたせいで勘が鋭くなったんで分かっちゃったんです。このタトゥー男、与えられた選択肢だけで何かを伝えようとしてきてるんですよ、きっと。アキネーターに呪われてるよ、この人。
でもなに言ってんのか分かんなかったんで、普通にバイバイしました。時間無駄にして今日1日最悪だったかっていうと、帰りにスーパーで半額のお寿司にありつけたんで、部分的にそう。




