第76話 「インパクトを残せる被害者になるためのセミナー」を覗いたらワケ分からないライフハック連発してた
被害者の皆さんって呼びかけても大体は死んでいらっしゃると思うんですけど、死ぬ前にインパクト残そうとか考えてました?
しょっちゅう事件に出くわす身からすると、なんか頑張って爪痕残そうとしてるように見えました。あまり頑張りすぎなくても大丈夫だと思いますよ。警察とか優秀なんでね。
こんなこと言うのは、この前、変なセミナーに遭遇したからなんですよ……。
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とあるホテルでプロジェクトのキックオフパーティーがあったんです。何社か共同の大規模なやつで、準備期間も長かったんですけど、ようやくスタートに漕ぎつけられました。
立食形式のパーティーだったんですけど、トイレに立った時、別の大広間でもなんかセミナーみたいなのやってるの見つけたんです。タイトル見て目を疑いました。
『インパクトを残せる被害者になるためのセミナー』
まず被害者にならないようにしろよとか思いながら、ちょっとドア開けて中覗いちゃいましたよ。なんか結構大規模なセミナーで、人いっぱいいるんです。何を真剣に聞いてんだろうって思ったら、壇上で怪しいイケおじがなんか喋ってました。
「クリーニング店をコンスタントに使おう! 預かり票があれば自殺だと思われるのをブロックことができるからね!」
ずっこけそうになりました。そんなニッチなライフハック誰が求めてんだよって思ったら、参加者たちが熱心にノートにメモとってんです。メモするようなことか? 講師が熱弁してます。
「自殺に見せかけて殺されるなんて時には、クリーニングの預かり票で一発ですよ! これなら犯人もノックアウト! 現場にインパクト残せること間違いなし!」
そーっと大広間に入って空いてる席に座ったら、パンフレット置いてあるんです。「殺人現場で存在感を示そう! 死んでも印象を残せる24の方法!」とか書かれてます。イカれてるよ。講師がまだまだ喋ってます。
「それからね、ダイイングメッセージは暗号で残しましょうね! 世間じゃ犯人にメッセージを消されないように暗号でとか言われてるみたいですけど、そうじゃない! 分かりにくい暗号を残すことでインパクト残せるからですよ!」
なんか参加者が拍手してます。指笛吹いてるのもいるんです。何に感銘受けたんだよ、こいつら。分かりにくいダイイングメッセージなんてただの迷惑でしょ。だけど、参加者が囃し立てるから講師も止まんないんです。
「お互いに嫌い合ってる関係性なら、不意に相手に感謝を表すプロジェクトを立てよう! 自分を殺したことを後悔させるだけじゃなく、実は大切に思ってたみたいに感動ミステリーに持っていくことだって夢じゃない! これで実写映画化も視野に入ります!」
入らねーよ。なんのアドバイスなんだよ。殺されること前提なのになんで参加者も手放しで賞賛してんの? ワケ分からないYouTuberのファンみたいな狭いコミュニティの熱量を感じますよ。
「殺されそうだなと思った時は、いつもの行動パターンを急に変えると犯人の計画が狂ってボロが出るぞ! 死んだあなたがキーになって犯人が自滅していくんです! 想像するだけで気持ちがいいでしょう?!」
みんながうおおーって歓声あげてます。ただのミステリーあるある言ってるだけじゃん。っていうか、参加者はみんなそうやって死にたいんかい。頑張って生きろよ。
なんかここにいたらゲロ吐きそうだったんで、そーっと出ようとしたら講師のイケおじに見つかりました。やばって思ったんですけど、講師が言うんですよ。
「参加申し込みしていないのに聴講に来るなんて、あなたもインパクトある被害者になりたいんですね! 素晴らしいパッションです!」
とか言われて、なんか気に入られちゃいました。めんどくさ。キックオフパーティーに戻りたい。
※ ※ ※
「お姉さん、あなたは厄介系の被害者になりたいですか? それとも感動系? いずれにしても、ボクはあなたを歓迎しますよ、ウェルカム!」
セミナー終わりたてなのにこの講師なんか熱量がすごいんです。
「いや、被害者になる予定ないんで」
「だからこそ来たる命日に輝きたいと考えたんですね、素晴らしい!」
「勝手に決めつけないでください。命日は静かに過ごしたいに決まってんでしょ」
「うんうん、分かりますよ! お姉さんにはどこかドライなところがある! そんな自分を脱却したいんですよね! インパクトある被害者として!」
「ドライじゃなくなりたくないんですよ、別に。っていうか、自分をドライだと思ってないから」
「その生まれ変わりの場にここを選んでくれてありがとう、サンキュー!」
「選んでないわ」
拒否ってんですけど、ゴリ押しで仲間に入れようとしてくるんです、こいつ。
「次回のセミナーに無料でご招待しよう! さあ、連絡先を交換しましょう、エクスチェンジ!」
エクスチェンジしたくないんですけど、スマホ持ってるの見られてんですよね。どうしようかなとか思ってたら、なんか信じられない力が出て、握りしめてたスマホが半分に折れ曲がっちゃいました。ラッキー。
「あの、すいません、スマホがぶっ壊れちゃいまして、連絡先交換したかったんですけど、無理みたいです」
名刺押しつけられました。
「じゃあ、次回のセミナーで会いましょう、シーユー!」
行きたい雰囲気1ミリも出してないんですけど。とはいえ、ようやく解放されたんですけど、スマホ買い替えないとです。余計な出費ですよ。高いんだよな、スマホ。あの講師に請求してやろうかな。
もらった名刺は速攻でトイレのゴミ箱に捨てたんですけど、キックオフパーティーのところに戻ったらとっくにパーティー終わってました。クソすぎ。




