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第75話 犯罪予知できる教祖がマイナーな条例まで予知するようになったせいで世を憂いて闇堕ちしそうになってる

 皆さんのまわりにも闇堕ちしてる能力者がいると思うんですけど、だいたいは視野が狭いせいでこの世界はやばいとか思い込んでるだけなんで、能力のあるなしはあんまり関係ないんですよね。


 闇堕ちしてる能力者ってなんかちょっとめんどくさいんですよね……。



〜 〜 〜



『あなたに我々の教祖様を救っていただきたい』


 って電話が来たんで、まずはガチャ切りさせてもらいました。なんか前にもこんなことあったんですよ。


 ≪結膳(けつぜん)()≫っていう新興宗教があって、そこの教祖が犯罪予知できるおじさんなんです。


 とか思い出してたら、また電話がかかってきました。なんか用かな? 私、作り置きしたかったんですけどね。


『我々からの電話をとりあえず切るのやめてください! 前回もそうでしたよ!』


「そうでしたっけ? で、今回はなんなんですか? 私、作り置きしたいんですよ」


『あなた、以前も同じこと言ってましたよ……』


「私が作り置きするタイミングで電話かけてこないでください」


『そんなタイミング狙ってないです。我々の教祖様が闇堕ちしそうなんです。救ってください!』


 めんどくさ……って思ってたら、作り置きの料理を提供するって言われたんで仕方なくOKしました。そういえば、前回もなんかこんなやりとりしましたね。



※ ※ ※



「我々の教祖様の犯罪予知能力がパワーアップしたのです」


 側近がそう言うんです。車で迎えに来てくれて宗教の本部に連れてってくれるんですけど、その道中です。


「パワーアップって小学生みたいな言い方ですね。私が子どもの頃はクラスの男子が卍解とか言って走り回ってましたよ。懐かしい」


「そのパワーアップの影響で教祖様は心を痛めているのです。そのせいで闇堕ちしそうなんです」


「別に勝手に闇堕ちしてもらって構わないんですけどね、私は」


 私なんかよりカウンセラーとか呼べばいいのにって思ったけど黙ってました。そうこうしてるうちに本部に到着して、久々に教祖のおじさんと会うことになりました。側近には、変な絡まれ方したら帰りますからねって釘刺しときました。



※ ※ ※



「よくいらっしゃいましたね、鈴木さん」


 豪華な服を着て玉座みたいなところに座ってる教祖が出迎えてくれます。確かになんか元気なさそう。


「闇堕ちしそうらしいですね」


「そうなのです……。私は世に満ちる悪意をキャッチすることができてしまう。それがパワーアップしたことで、この世界に悪意が渦巻いていることを思い知らされたのです」


「あ、そうですか」


 この手の主張ってわりとありがちだし、特に斬新なわけでもないから聞き飽きてるんですよね、私。とか思ってたら、教祖がいきなり目を見開くんです。側近がまわりの信者に合図を出します。


「教祖様が予知をなさるぞ!」


 教祖が脂汗垂らしながら聖火台みたいなところに火を入れて呪文唱え始めました。トランス状態で苦しそうな教祖に口挟んじゃいましたよ。


「いや、闇堕ちしそうならやめたらいいと思いますけどね」


 そしたら、側近が「静かに!」とか言って遮ってくるんです。


 息も絶え絶えの教祖が言います。


「狡猾な奸計が渦巻き……、200の人の影が不本意に受け渡される……!」



※ ※ ※



 教祖が教えてくれた予知の起こる場所に側近と向かいました。普通の公園です。特に人が大勢いるわけでもないんです。


 嫌な予感したんですよね。あの教祖、あんな大袈裟な予言するわりにめちゃくちゃショボい犯罪しか予知できないんですよ。前回はそれでイライラしましたからね。ただまあ、パワーアップしたみたいなんで、大人しく時を待ちましたよ。


「あの女と一緒になればいいでしょ!」


 公園の広場から声が聞こえてきました。なんか男女が言い争ってんです。側近と近づいたら、なんか不倫がどうとか言ってんですよ。


「ほんの出来心だったんだよ!」


「別れる!」


「俺はまたお前とやり直したいんだ……!」


 安いメロドラマみたいなやりとりしてるんですけど、女の方が言うんです。


「じゃあ、慰謝料払ってよ、200万!」


 私の隣で側近がハッとしてんです。


「姦計とは不倫のこと……200の人の影が受け渡されるというのは、200の渋沢栄一……慰謝料のことだったんだ……!」


「慰謝料のことだったんだじゃないですよ。なんで民事事件を予知してんですか、おたくの教祖」


「パワーアップしたと言ったでしょう」


「ただ敏感になっただけでしょ、アホか! っていうか、痴話喧嘩に居合わせてどうしろって言うんですか」


「そう。救うことが難しいのです。それで教祖様は……心を痛めて……」


 なんか側近が地面に膝ついて嘆き始めるんです。悔しいポイントどこにもなかったでしょ。私、帰ってもいいかな?



※ ※ ※



「この世は悪意に満ちています……」


 本部に戻ったら、教祖が重々しく言うんです。


「別に心を病むほどじゃないでしょ。私なんかしょっちゅう事件に巻き込まれてますけど、特になんとも思ってませんよ」


「おお……強い心をお持ちだ……。あなたにこそこの力は相応しい」


「めんどくさそうだから要らないですけど」


 教祖も側近も信者もめちゃくちゃ重い事態に直面してますみたいな顔してるのがなんかイラッとしますね。


「このままでは人間は人間でなくなるかもしれません……」


「もっとすごい犯罪予知してから言ってください」


 この教祖だとそんなの予知したらショックで気絶しそう。とか思ってたら、また教祖が苦しみ出して予知し始めるんです。


「いや、あの、予知ってなんか我慢とかできないんですか? いきなりすぎてびっくりするんですよ」


 質問しても誰も答えてくれませんでした。なんなの、こいつら。



※ ※ ※



『定められし掟は破られ、秩序が崩壊する』


 っていうのが予言でした。どうせまたくだらないことが起こりそうなのに、現場に車を走らせる側近は恐ろしそうにしてんです。もしかしたら、そうでもしてないと自我保てないのかもしれないですね、こいつ。


 現場は隣町のイーストタワーっていうビルの前でした。人が多いんですけど、だいたいはタワー前の広場で写真撮ったりしてるだけです。


「何も起こらないじゃないですか」


 って側近見たら、膝ガクガクさせてんです。


「ま、まさか、こ、これは……!」


「いちいち芝居がからなくていいんでさっさと教えてくださいよ」


「この街には、『イーストタワーの写真を撮る時にはイーストタワーポーズをしなければならない』という条例があるんです……! ここにいる誰もがみんな、その条例を破っているんですよ……!!」


「罪になるの?」


「罰則はありません」


「なんだよ、そのクソ条例! っていうか、なんだよ、イーストタワーポーズって!」


 やれって言ってないのに側近が両手を上に伸ばしてポーズします。この手のくだらない条例作ってる暇あったら仕事しろよ、町議会。



※ ※ ※



 本部に戻ったら、教祖が予知に力使ったせいで疲弊してんです。世界で一番無駄な体力の使い方だよ。イーストタワーポーズやってないって予知しただけだからね。「UNOって言ってない」レベルのやつじゃん。っていうか、どうやってマイナーな条例把握してんだよ? 教祖が嘆いてます。


「この世界は……もはやもう手遅れなのかもしれません……」


「手遅れなのは予知能力の方でしょ。自治体のクソ条例予知してどうすんですか」


「この世界は……一度リセットしなければならないようです……」


 なんか勝手に闇に一歩踏み出してんです。


「でも世界をリセットするってなるとそれも罪になりそうですけどね」


 って何気なく言ったら、教祖が雷に打たれたようになってワナワナしてんです。


「確かに、鈴木さんのおっしゃる通りですね……。では、それが罪にならないように法律を変えるため、議員に立候補します」


 なんかまためんどくさそうなこと言い出したんで、用意してもらった作り置きのメニュー持って速攻で帰りました。

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