第73話 長期的な事件の関係者が不祥事で謹慎して代役立ててるせいでみんな別人になってた
やらかして謹慎する人っているじゃないですか。一般人でもそういうので謹慎し出したら社会回らないんでしょうね。
ってことを最近身をもって体験したんですけど、まさか事件関係者でそうなるなんて思わなかったですよ……。
〜 〜 〜
以前、とある事件に居合わせたんですけど、その事件が長期化してたみたいなんです。で、その事件に動きがあったとかで警察に呼び出されたんです。…………ほとんど毎日何かしらの事件に巻き込まれてるんで、どんな事件だったのか分かんないんですけどね。
「目撃証言に新しい情報が加わることが分かり、皆さんをお呼びした次第です」
って刑事が言うんです。別に電話とかで教えてくれればいいのにって思ってたら、高校生くらいの女の子がみんなの前に出てくるんです。……正直、誰か分かんなかったんで、失礼を承知で訊いたんです。
「ええと、すいません、どなたでしたっけ?」
そしたら、女子高生が申し訳なさそうに言うんですよ。
「あの、すいません、元々の目撃者の美咲ちゃんなんですけど、未成年飲酒でいまちょっと謹慎してるみたいで、わたしが代わりに来ました……」
一瞬なに言ってんのか分かりませんでした。目撃者の代役ってことみたいなんですけど、マジで理解できませんでした。その間に代役の子がなんか喋ってます。
「あの事件の1時間前、わたしが見たのは白い車だったんです」
なんかみんなが、おお……、みたいに声を漏らしてんですけど、そんなんどうでもいいいいんですよ。この子目撃者じゃないんですよ。何も入ってきませんでした。
「ええと、あの、すいません、あなたは目撃者じゃないんだよね?」
「はい、そうですけど」
「そうですけどなにかみたいな顔されても困るんだけど、目撃者じゃないんだよね?」
「まあ、美咲ちゃんが謹慎中なので……」
「いや、その美咲ちゃんが証言しないと意味なくない?」
「いや、でも美咲ちゃん謹慎中なんで……」
謹慎中の一点張りで乗り切ろうとするんです、この子。っていうか、誰なんだよ? どこから駆り出されてきたんだよ。とか思ってたら、刑事が言うんですよ。
「まあまあ、鈴木さん、若気の至りというやつですよ。そこまで責めないであげてください」
「いや、飲酒を咎めてんじゃないんですよ。代役が証言してるってことに引っかかってんのよ。逆によく飲み込めてますね」
「はぁ、まあ、最有力の容疑者である国枝さんもオンラインカジノやって謹慎中で代わりの方に来ていただいてるんで……」
「え?」
国枝さんらしき人を見ると、なんか不機嫌そうにしてるんです。
「俺は犯人じゃねえぞ、ポリ公!」
「代役ならそうでしょうよ……。よくそのテンションでこの現場にいられますね。っていうか、なに、代役って? 意味あんの?」
誰も私の疑問に答えてくれないまま、今回の集まりは解散になりました。謹慎じゃなくて普通に捕まってるだけなんじゃないの? っていうか、謹慎っていう名の逃亡ってことはないの?
※ ※ ※
何日かして、また呼び出されました。なんか被害者が事件の前に誰かと連絡を取ってたらしいんです。そんなことより代役ってなんなのよ?
現場に行ったら、この前の女子高生がまた別の子に変わってて、なんか急に頭下げ始めたんです。
「皆さん、この度はわたしの軽率な行動でご迷惑おかけしまして、申し訳ありませんでした。本日から、復帰させていただきます。これから粛々と目撃者としての役割をまっとうしてまいりますので、よろしくお願いいたします」
事件関係者が拍手して出迎えてるんです。どうやらこの子が本物の美咲ちゃんらしいです。っていうか、謹慎期間短くない? とか思ってたら、なんか別の女の人が膝ついて叫び出したんです。
「一体誰がカズくんを殺したんですか! 本当なら、今頃は彼と結婚していたはずなんですよ、わたしは! 早く犯人を捕まえてください!」
さすがに本物の被害者の恋人は気迫が違いますよね。刑事も彼女の肩に手を置いてます。
「あなたも代役として心労が絶えないことでしょう……」
いや、この人も代役かい。代役としての心労ってなんだよ? 被害者に対してなんの思い入れもないよ、きっと。そしたら、最有力の容疑者とか言われてた国枝さんが大声を上げるんです。
「俺はやってないからな!」
この人、もはや国枝さんでもないんですよね。誰なんだよ、このおじさん? よくもまあ呼び出しに応じて今回も来てくれましたよね。国枝さんの代役が隣の女性に目を向けます。
「俺のアリバイはこの田沼が証明してくれたんだからな!」
なんとなく覚えてるんですけど、田沼さんってめっちゃ金髪だったんです。でも、今ここにいるのは黒髪の人なんですよ。恐る恐る訊いちゃいましたよ。
「あの、ホントの田沼さん……?」
「いえ。田沼さんはおととい殺人で捕まりまして、謹慎中なんです」
「それは謹慎中っていうか、逮捕されてるだけでしょ」
っていうか、この事件とは別のところで人殺しちゃってんじゃん。もはやこっちの事件でもなんかやってそうじゃん。
というか待ってほしいんですけど、事件関係者ほとんど入れ替わってません? なんか最後まで誰が生き延びるかみたいなサバイバルみたいになってんですけど。
※ ※ ※
この事件には、すでに恐喝で捕まってる小西っていう関係者がいるんですけど、その人が何を材料にして被害者を恐喝してたのかっていうのが不明なままだったんです。で、それについて訊くために拘置所に行くことになったんです。
っていうことを被害者の恋人から泣きながら頼まれたんです。もちろん、代役の女からですよ。何がどうなってんのか私にも分かりません。どういう感情で泣いたんだよ、あの女。
面会室に入ると、小西がやってきました。
「すまんな、小西はいま謹慎中だから、オレが代わりに話を聞くぞ」
「なんで拘置所の中で代役立ててんですか。っていうか、何に対して謹慎してんだよ」
「小西は不倫をしたらしい。しばらくは表に出られないだろう」
「不倫より恐喝の方がひどいでしょ」
「姉ちゃん、分かってないな。不倫は当事者が許しても世間が許さんよ」
謹慎するなら恐喝の方で謹慎しろよ。なんで不倫の方なんだよ。
小西の代役から話聞いたんですけど、全然入ってきませんでした。
※ ※ ※
人が変わって埒が明かないんで、刑事に話を聞きに行くことにしました。そしたら、全然知らない人が対応しに来たんです。
「ええと、この事件の担当してる刑事さんは?」
「横領で謹慎してます」
「クビにしろ、そんな刑事」
案の定、事件は迷宮入りしてました。もう関わりたくなかったんで、私もSNSで暴言吐いて謹慎することにしました。私の代役さん、迷宮入り事件の解決頑張ってくださいね。




