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第69話 唯一の目撃者が証言する代わりに見返り求めまくって税金で豪遊してた

 目撃者の皆さん、自分が唯一の事件の目撃者だって時にテンション上がることと思いますけど、それで儲けようとか思わない方がいいですよ。


 ついこの間、話を聞きに行った目撃者がとにかくやばくて、世の中の不条理を感じました……。



〜 〜 〜



 捜査一課に特殊任務係っていうチームがあるんです。トクニンっていうんですけど、まあ、無能の寄せ集めなんです。死ぬほど不本意なんですけど、そこに知り合いがいるんです、私。さっさと縁切りたいんですけどね。ある日、職場に電話かかってきたんです。


『鈴木さん、最近サボってませんか? ちょっと顔出してください』


 節穴(ふしあな)って名前の刑事なんですけと、いつも職場に電話してくんです。こっちからしたら回避不可能なのんですけど、卑怯すぎません?


「サボるっていうか、私、一般人なんですよ。普通に仕事してるだけなの」


 だいいちトクニンなんて存在してるだけでサボってるようなもんですからね。断ろうとしたんですけど、こいつらってめちゃくちゃしつこいんで仕方ないんで、警察行くことにしました。



※ ※ ※



「ある事件の目撃者に話を聞きに行ってほしいんだ」


 トクニンのリーダー木偶野(でくの)警部が言います。めちゃくちゃ自然に刑事の仕事押しつけてきたんで文句も自然と出てきました。


「私にやらせないでくださいよ、税金泥棒」


「ふふふ、そう褒めるな。君が最適の人材だと思ったんだよ」


「真正面からディスったつもりだったんですけど」


「君の想像通り、目撃者は証言を渋っているんだ。話を聞き出してほしい」


「まだ何も想像してないんですけど」


 節穴刑事がうなずきます。


「確かに、鈴木さんの言う通り、目撃者は身の危険を感じてるのかもしれないですね」


「いや、まだ何も言ってないんだよ。勝手に話進めんな」


 木偶野警部がニコリとします。


「鈴木さんが乗り気でよかったよ。では、早速、目撃者のところへ向かってくれ」


「お前たちには何が見えてんだよ? っていうか、私まだやるって言ってないんですけど」


 とか言ってたんですけど、なんかなし崩し的に目撃者に話聞くために節穴刑事と出発することになりました。



※ ※ ※



 目撃者が住む家に着いたんですけど、めちゃくちゃ大豪邸なんです。そりゃあ、身の危険感じるのも無理ないよなとか思って目撃者に会ったんですけど、なんか様子が変なんですよ。まあ、皆さんはもうタイトルで分かってると思うんですけど、この時の私はまだそのこと知らないですからね。


「俺はまだ喋らないぞ」


 目撃者の男がでかいソファに座って駄々こねてるんですよ。そしたら節穴刑事が腰低くしてんです。


「そこをなんとかお願いしますよ〜」


「カスタードのたい焼き、買ってきたのか?」


 目撃者が言うんです。そういえば、ここに来る前に節穴刑事がたい焼き買いに行ってたんですよ。節穴刑事がたい焼き渡すとおいしそうに食べるんです。


「そろそろ話してもらうわけにはいかないですかね〜?」


「U-NEXT」


「はい?」


「U-NEXTも見られるようにしてほしい。目撃したことを話すんだから、それくらいいいだろ?」


 目撃者がいやらしい目をするんですよ。節穴刑事もなんか渋々うなずいて、


「ちょっと木偶野警部に掛け合ってみます」


 とか言ってんの。ようやく分かったんです。この目撃者、情報喋る見返りにたい焼きとか要求してんです。今度はU-NEXTってことは海外サッカーでも観るつもりだよ、きっと。不本意なんですけど、なんか私の中にフツフツと義憤が沸いてきましたよ。刑事でもないのに。


「あの、すいません、目撃情報くらいでたい焼きとU-NEXTってちょっとやりすぎじゃないですかね?」


「なんだ、あんたは? 初めて見る顔だな」


「鈴木です。たい焼きとU-NEXTでもう満足でしょう」


「あんた、何も知らないんだな。あのでかいテレビを見ろ。85インチある。あれも目撃情報を話す見返りとしてもらったんだ」


 思わず節穴刑事を見ちゃいました。そしたら、なんかやれやれみたいな感じで肩すくめるんです。私をこき使っといてカフェラテのひとつも寄越さないくせに、こいつは。


「85インチなんて下手したら100万近くするじゃないですか」


「まあ、事件解決のためなら……って感じですね」


「税金使って何してんですか」


「自分のお金じゃないんでジャブジャブ使えちゃいますよね」


 それならまだ政治家の賄賂に使われた方がマシだわなんて思ってたら、目撃者がさらに言うんですよ。


「このPS5もホームシアターも見返りとしてもらったんだ」


「懸賞で当たったみたいなノリで話さないでくださいよ。それ元々は税金ですからね。ある意味私の物でもありますよ」


「ふざけるな。これは俺のものだぞ。証言してほしければ返してもらおうなんて思わないことだ」


 節穴刑事が言い返すかなーと思ってると、私の方見てくるんです。


「そうですよ、鈴木さん。この人が唯一の目撃者なんですから、大切にしないと」


「目覚ませよ、節穴。めちゃくちゃたかられてるじゃん。テレビまわり充実させられてるじゃん」


 そしたら節穴刑事が首傾げるんです。


「なに言ってるんですか、鈴木さん。テレビまわりだけじゃなくて、この家も彼に提供したんですよ」


「なに平然とした顔で言ってんだ! 豪邸あげてんじゃねー! 何億かけてんだ、バカ!」


「いやだなぁ、土地も込みに決まってるじゃないですか〜。10億くらいかかってますよ〜」


 なに言ってんだみたいに節穴刑事と目撃者が笑ってます。え、私がおかしいの? だったら私も目撃者になりたいよ。っていうか、警察の予算どうなってんのよ?


「もうU-NEXTなんか契約してやる必要ないでしょ! さっさと口割らせなさいよ!」


 とか言ってたら目撃者が口挟んできました。


「あれ〜? いいんですかぁ〜? 唯一の目撃者からの証言聞けなくなっちゃいますよ〜?」


「U-NEXT契約しますから、それだけはどうか……!」


 節穴刑事が膝ついて懇願してます。こいつ、どんだけ目撃証言に頼ってるんだよ? 自分の足で情報稼げよ。だから無能なんだよ。でも、節穴刑事を正気に戻してやらないといけません。私の仕事じゃないよね、これ。


「節穴刑事、冷静に考えなって! 目撃証言なんて10億もかける価値ないから! っていうか、こんな奴に10億もかけるなら私にもちょっとは謝礼はずんでもいいでしょうが!」


「だ、だって、この人、事件の唯一の目撃者なんですよ……!」


「目撃者なんかいなくても捜査できるでしょ。というか、さっきから事件事件ってなんの事件なのよ?」


「ひったくり事件です」


 耳を疑いましたよ。ひったくりって。いや、事件には違いないけど、ひったくりって。歴史ひっくり返るくらいの大事件かと思ってたらひったくりって。私がひっくり返るかと思いましたよ。……………冷静に考えたらトクニンがそんな事件に関われるわけなかったわ。


「たかがひったくりにどんだけカネかけてんのよ。バカでしょ。さっきのたい焼きですら割に合ってないよ。絶対U-NEXT与えちゃダメだから」


「そんなんでホントにいいのか、節穴くんよぉ〜! あとU-NEXT追加するだけで目撃証言とれるかもしれないよぉ〜?」


 目撃者が節穴刑事に詰め寄ってます。絶対こいつU-NEXT追加しても喋らないよ。それで喋るなら土地と上物手に入れようとしないもん。っていうか、なんか私たち節穴刑事の中の天使と悪魔みたいになってない?


「あのさ、ひったくりってどれくらいの被害だったの?」


「ええと、7000円くらいですね」


「アホか! だったら、あんたのポケットマネーで被害者に7000円渡しとけや! 遥かに安く済んだだろうが!」


「この前回転寿司行ったから今月もう自腹切りたくないんですよ」


「血税なんだと思ってんだ、クソが!」


 あとで計算したら、10億って被害額の14万倍くらいでしたよ。14万倍って恒星の大きさの比較の時とかにしか聞かないよ。


 とりあえず、これ以上カス目撃者にカネを注ぎ込むなら私にカフェラテ奢らせるぞって言ったらあっさり目撃者の口割らせ始めました。……私ってカフェラテすら奢りたくないような人間なの? とか思って節穴刑事ぶん殴ろうと思いましたけど、目撃者が実は自分が犯人って自白したんで、顔面に血税パンチ入れときました。

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