第67話 山深い村の人たちが因習村としてバズろうとしてた
因習村に住んでる皆さんは最近の流行りとか知ってるんですかね? 今なんてネットで口コミ広がったら聖地巡礼みたいな感じで観光客爆増しちゃうと思いますよ。
でも、今まで続いてきた因習は変えずに自分らしさを貫いてほしいんですよ……。
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10年来の女友達の頼光寺ってのがいるんですけど、その子って実家がめっちゃ田舎なんです。
「ウチの村で祭りが開かれるんだけど、両親が歳も歳だからさ、手伝い行かないといけないんだけど、来てくれない?」
ってことで頼光寺の村に行くことになったんです。
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村に続く一本道を車で行くと、途中で駐在所がポツンとあるんです。そこから駐在さんが飛び出してくるんです。
「あ、あんたら、鬼埋村に行く気か……?」
慌てふためいた感じなんですよ。もうこのパターンだとめっちゃやばい村じゃん。この一本道が嵐とかで通れなくなって村の中で殺人起こるじゃん。っていうか、明らかにやばい名前の村だよね。とか思ってたら、駐在さんが何か持って助手席の私のところに来るんですよ。
「こ、これを持っていけ……!」
え、なに? って思ったんですけど、鬼埋村のパンフレットなんですよ。忠告しに来たんじゃないのかよ? パンフレットの表紙に書いてあるんです。
『激ヤバな因習が渦巻く恐怖の鬼埋村!』
表紙にそう書いてあんのに、中にはなんかフォトスポットがどうとか映えグルメがどうとかめっちゃポップな感じで色々書いてんです。
「ねえ、頼光寺、なにこれ? なんか間違った方向のプロモーションしてない?」
「私がいた頃はそんなのなかったんだけどなぁ」
パンフレット見ると自治体が発行してるから、村ぐるみでやってんですよ。自分の村を恐怖の因習村みたいに言う奴この世にいるんですね。
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鬼埋村、山深いところにあるのどかな場所なんです。村の入り口にあるめちゃでかい駐車場に車を停めて歩いてたら、なんか村人のおじいちゃんがジロジロ見てくるんです。うわー、因習村特有の排他的なやつだとか思ってたら、おじいちゃんが言ってくるんです。
「バズガミ様を拝みに来たのか」
バズガミって。なんか流行らせようとしてるにおいプンプンで思わず言っちゃいましたよ。
「なんですか、そのネット文化に毒された名前の神様的なやつは?」
「バズガミ様は古くからこの地に恵みと災いをもたらしてきたのだ! 侮辱するでない!」
めっちゃ怒鳴っておじいちゃんどっか行っちゃいました。いや、名前からして絶対ここ2、3年で作ったキャラでしょ。ネットに迎合しまくってんじゃん。頼光寺が頭を掻いてます。
「そんなの私がいた頃はなかったけどなぁ」
自分の故郷から魔改造されてて悲しいだろうななんて思ってたら、頼光寺がパンフレット見て言うんです。
「ねえ、お土産屋でバズガミ様への捧げ物買えるらしいよ。寄って行こうよ」
なんか楽しそうです。そうでした、頼光寺ってこういう奴なんでした。
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いやなんか、のどかなところだと思ってたら、村の中心あたりはめっちゃ店とかあってなんの取り柄もない饅頭とかクッキーがバズガミ様のプリントされてめちゃくちゃ高値で売られてんです。めっちゃ儲けようとしてんですよ。
「バズガミ様の捧げ物買ってきたよー」
頼光寺がちっちゃいベルみたいなの持ってるんです。
「これを社の柵にくっつけるといいらしいよ」
「なにそのめちゃくちゃ観光地の縁結びみたいなやり口。捧げ物というテイで買わせてるだけじゃん」
「あっ、ねえ、鈴木、祠もあるらしいよ。≪絶対壊しちゃいけない祠≫だって」
なんか頼光寺が変わり果てた故郷を楽しんでんです。まあ、それならいいか。っていうか、壊しちゃいけない祠ってなんだよ? 書かなくても当たり前のことだろ。
祠のあるところに行ったんですけど、わりと人がいました。でもなんか因習村特有のジメジメした感じじゃないんですよ。めっちゃポップなの。
「なんで祠にフォトフレーム置いてあんのよ?」
いかにもインスタに上げてくださいみたいな、よく観光地にあるようなやつが祠のそばにあるんです。祠をバズらせようとしてんです。
「鈴木、壊してもいい祠もあるみたいだよ」
「倫理観どうなってんのよ?」
陶器でできたミニ祠みたいなのが売ってて、それを叩きつけてぶっ壊せるようになってました。最近ストレス溜まってたんで、2人で思いっきり祠ぶっ壊しました。めちゃくちゃ気持ちよかったです。
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そろそろ頼光寺の家に行くかってことで道を歩いてたら、なんか畑の中に真っ赤な人影が立ってるんです。明らかに異質なの。え、なにあのやばい奴とか思ってたら、頼光寺がパンフレット見せてきます。そこに書いてあるんですよ
『見かけたらラッキー?! 謎の赤い人影が現れるかも?』
この村で事件起こったら絶対にこいつの仕業じゃん。なんで都市伝説的なやばい奴をポップな感じで紹介してんのよ? パンフレットに書いてあるなら謎の人影でもないじゃん。カップヌードルの謎肉祭りみたいなもんだよ。オフィシャルが謎っていうんだっていう。
「鈴木、赤い人影ソフトクリームもあるらしいよ。あとで食べようよ」
「商売っ気強すぎでしょ。絶対ただのストロベリー味のソフトクリームじゃん」
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頼光寺のご両親を手伝って祭りも無事始まったんですけど、バズガミ様の像をみんなで担いで村を練り歩くっていう、別に奇祭ってほどでもないただの祭りでした。でも、祭りのスタッフがことあるごとに、
「SNSでは『#バズガミ様降臨』でポストしてくださいね〜!」
とか言って拡散させようとしてくるんですよ。それでかなり興が削がれました。スタッフTシャツの背中にも「#バズガミ様降臨」ってでかでかと書かれてるし。でもなんかスタッフ募集とかめちゃくちゃしてて、意外と人も多いんですよ。村の移住者も増えたらしくて、地方が盛り上がっててよかったです。




