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第66話 ここにはもうないって言ってんのに怪盗がお宝を盗みにくる

 怪盗の皆さんの中で盗みで生計立ててるよーって人、どれくらいいるんですかね?


 もし生活できてないんなら、怪盗なんてやってないで就職できるうちにさっさと仕事探した方がいいですよ。怪盗してましたって履歴書に書けないですからね。



〜 〜 〜



 怪盗クラウンっていたじゃないですか。まあ、皆さん覚えてないと思うし、思い出す必要ないんですけど。その怪盗クラウンに狙われてるっていう富豪から「来てくれ」って言われたんです。なんか私、便利屋みたいな存在として名が知れ渡ってない? ただの会社員なんですけど。


 で、その富豪のでかい家に行ったんです。富豪がめっちゃ困った顔してんです。


「怪盗クラウンと名乗る輩から予告状が届いたのだ」


 なんかいい紙でできたカードみたいなのを渡されました。そのにこう書かれてんです。


『我が名は怪盗クラウン

そなたの家に眠る≪白い光玉(こうぎょく)を貰い受けに参上する

5月30日0時──そなたは己の無力感に溺れるだろう』


 こういうの昔見たなーって思って、私も怪盗クラウンのこと思い出したんです。いまどき盗みの予告状って、小説とかコナンとか見すぎなんですよ。とか思ってたんですけど、変なんです。


「っていうか、ここに書かれてる日付、結構前のやつじゃないですか?」


「そうなのだ。これ以降、毎日予告状が来て、怪盗クラウンも毎日やって来るのだ」


「さっさと警察に突き出した方がいいですよ」


「いや、この白い光玉というのが、以前はウチにあったのだが、売り手が見つかってずいぶん前に手放してしまったのだよ。そのことを怪盗クラウンに伝えてるのだが、聞き入れてくれず、ワシが隠し持ってると思い込んでるようなのだ」


「あー、アホですもんね、怪盗クラウンって」



※ ※ ※



 今回も0時に怪盗クラウンが来るらしいんで、富豪と一緒に待ってたんです。私、明日も仕事なんですけど。っていうか、富豪は警察も警備員も呼んでないんです。めっちゃノーガードなんです。とか思ってたら、館のインターホンが鳴るんです。


「お、今日も来たぞ」


 インターホンのモニターの中にオペラ座の怪人みたいな仮面とシルクハットつけてマント着た人が映ってんです。ベタすぎで笑ったし、屋根から侵入とかじゃないんだって思いました。富豪に訊いちゃいましたよ。


「あの、玄関から来るんですか、怪盗クラウンって?」


「うむ、めんどくさいから玄関から来るように言ってあるのだ」


「いや、そんな近所に住んでる親戚じゃないんだから」



※ ※ ※



「さて、白い光玉を出してもらおうか」


 怪盗クラウンがリビングのソファにどっしりと構えてるんですけど、富豪が果汁100%ジュース出してんですよ。いや、お客さんじゃん。家庭訪問に来た先生みたいになってんじゃん。富豪が説明します。


「昨日も言ったけれども、白い光玉は売り払っちゃったのだよ。ここにはないのだ」


「いいや、私にはそのような嘘は通用しない。ここに白い光玉があることは分かっているのだ」


 分からず屋なんです、この怪盗。分からず屋っていうよりはただのリサーチ不足ってやつです。会社だと普通に怒られるやつ。っていうか、ジュース出されてる時点で怪盗とかじゃないよね。私もつい口挟んじゃいましたよ。明日も仕事なんでね。


「あの、白い光玉はここにはないんですよ。だからさっさと諦めてください」


「ふふふ、そのように私を騙し、逃げおおせるつもりなのだろう。そうはいかないぞ。白い光玉を手に入れることこそが私の使命。その邪魔はさせん」


「使命ならちゃんと調べてくださいよ。ここにはないから」


 怪盗クラウンがジュースを飲み干して立ち上がります。ちゃっかり喉潤してんじゃないよ。


「では、今日も家の中を探させてもらうぞ」


 とか言って怪盗が家の奥に行こうとすると、富豪も止めるかと思いきや、


「はいはい、どうぞ」


 とか言ってんです。怪盗クラウンはスタスタ行っちゃいます。エアコン修理しに来た人じゃないんだからホイホイ歩き回らせんじゃないよ。なんて思ってたら、富豪が言うんです。


「ワシにも息子がいたんだ。生きていれば、きっとあれくらいの格好をしていただろう」


「あれくらいの年齢ってのは聞いたことありますけど、格好の方なの? あんな格好するって相当アレじゃないですか」


「ついつい情が移ってしまってな」


 じゃあ別にこのままでいいじゃん。怪盗と過ごす時間で失われた息子の穴埋めすればいいじゃん。私が来た意味ないじゃん。とか思いましたけど、黙ってました。



※ ※ ※



 怪盗クラウンも怪盗クラウンで、なんかめっちゃ丁寧に探してんです。部屋を荒らしたりしないの。


「あの、もっと怪盗っぽくガサッとやっちゃえばいいんじゃないですか?」


「私は怪盗クラウン。狙った獲物以外は物であろうと人であろうと傷つけることはしないのだ」


「美学みたいに言ってるけど全然格好良くないからね。っていうか、クラウンって名前ダサすぎるからね」


 怪盗は本棚の本を1冊1冊確かめてます。めちゃくちゃ時間かかりそうでイライラしてきました。


「だから、いくら探してもないんだって、白い光玉。時間の無駄なの。さっさと帰ってくれる? 私、明日も6時に起きないといけないんだよ」


「ふふふ、奇遇だな。私も明日は6時起きだ。ファミレスのバイトの早番なのでな」


「なんで怪盗がバイトしてんだよ。定職に就けよ。そんなんだから怪盗なんかやるハメになるんだよ」


「私は狙った獲物しか盗まないと言っただろう。怪盗だけでは食っていけない。普通に働いて稼ぐしかないのだ。いつでも盗みに行けるように時間に融通の利くバイトなのだよ」


「売れてない芸人みたいな生活じゃん。明らかに怪盗やってるせいで生活が苦しくなってるじゃん。さっさと定職に就けよ。こんなことしてないでマイナビとかでエントリーシート送れ」


「くそっ、白い光玉はどこだ?」


「だからここにはないんだよ。あんたが探すべきなのは白い光玉じゃなくて定職だから」



※ ※ ※



 結局、白い光玉が見つからないとか言って怪盗がリビングに戻ると、テレビ観てた富豪が訊くんです。


「お、もう終わったかね?」


「ああ、今日はこの辺にしておこうか」


 ひと部屋探しただけでひと区切りつけてんです、この怪盗。使命ならもっと必死に探せよ。とか思ってたら、富豪が茶封筒差し出すんです。


「ほら、今日もこれでご飯でも食べなさい」


 茶封筒の中、1万円入ってんです。今日もってことは、昨日も渡してるでしょ。この家に来るだけで1か月30万貰えてんじゃん。むしろそれ目当てなんじゃないの? これならバイトしなくていいじゃん。怪盗に専念できるじゃん。でも、富豪がちょっと寂しそうな顔してもうひとつ封筒を渡すんです。


「さっき、鈴木さんが『定職に就け』と言っているのを聞いて、ワシも心を鬼にしなければならないと感じたのだ。封筒の中には白い光玉の売買記録が入っている。そう、ここには君の探す白い光玉などないのだよ」


 なんか引きこもりの息子にやさしい引導を渡すみたいなシーンに出くわしてんですけど、そんなんどうでもいいから早く帰りたいんですよね。もう1時すぎてんのよ。


 怪盗は封筒の中身を確認して、ため息をつくんです。


「このような偽情報、私は信じないぞ。また明日も来るからな」


 颯爽と玄関から出て行くんですけど、絶対こいつ明日も1万貰おうとしてるよね。富豪も富豪で、仕方ないなみたいな顔して怪盗を見送ってんです。息子はいつまでも子供だからなーみたいなの要らないんだよ。さっさと警察に突き出せよとか思いましたけど、帰り際に富豪から謝礼の分厚い封筒渡されて、まあいいかってなりました。怪盗は明日も来るでしょうけど、私も明日呼んでくれないですかね?

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