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第63話 救急車呼ぶよりダイイングメッセージ残す方が優先度高い被害者、全然犯人教えてくれない

 ダイイングメッセージ残そうとしてる人に言いたいんですけど、そんなことするより救急車とか警察呼んでください。


 もし残すんであれば、暗号にしないで普通に犯人の名前書いてください。せっかく考えた暗号だからって、死ぬ間際に披露しようみたいなサービス精神発揮するのやめてください。



〜 〜 〜



「旦那様!」


 館の主がギャラリーでお腹を刺されたみたいでした。めっちゃ痛そう。息子が詰め寄ります。


「父さん、誰にやられたんだ!?」


「うぐぐ……、ギャラリーにメッセージを残した……。それを読み解け……」


 みんながギャラリーに走って行ったんですけど、私だけ意味が分かんなかったんですよ。いや、いま言えばいいじゃんって思ってたの私だけですか?


 館には主治医もいて、応急処置してくれてます。救急車を呼んだみたいなんですけど、なんか生き延びそうなんです、館の主。


「あの、犯人誰なんですか?」


「だ、だから言っただろう……、ギャラリーにメッセージを残した……。ダイイングメッセージというやつだ……」


「いや、そういうのいいんで。いま口頭で教えてくれた方が早いと思うんですよ」


「わ、わしが死の間際に残したものだ……。それを解き明かしてくれぃ……」


「解き明かすってことはなんか変な手加えてんでしょうけど、そういうの面倒くさいんでいま犯人教えてもらえます?」


 館の主が血だらけの手で私の腕を掴んできます。服が汚れてイラッとしたんですけど、我慢しました。一応この人、被害者なんでね。


「す、鈴木さん……、わ、わしはこのように巨万の富を築き上げた……。いつかは命を狙われると感じていたのだ……。だから、もし殺されるようなことがあった時のために、ダイイングメッセージを残したかったのだよ……」


 その努力を恨み買わないようにするとか殺されないようにセキュリティに投資するとか、色々あったでしょうが。なんてことは胸の中にしまっておきました。


「暗号みたいなの解くのは脱出ゲームで充分なんで、さっさと犯人教えてください」


 でも、頑なに教えないんですよ、このおじさん。めんどくさいなーなんて思ってたら、みんなが戻ってきました。



※ ※ ※



 みんなの話によると、ギャラリーには星座を模した像が12体あって、そのいくつかに館の主の血がついてたみたいなんです。写真も見せてもらったんですけど、わりと動き回って血つけてんです、このおじさん。こんなめんどくさいことする暇あったら救急車呼べばいいのに。


「くそっ、どんな意味があるんだ、このメッセージには……!」


 なんか関係者たちが頭悩ませてんです。いや、目の前にうんうん唸って痛みに耐えてる被害者いるんですよ。直接訊けよ。とか思ってたら、館の主が途切れ途切れに言うんです。


「そ、それぞれの像は……星座を示している……。像の血のつき方もよく見るんだ……」


 なんかヒント出してんです、この人。なにちょっとエンタメ感出してんのよ? 解けるかな〜? じゃないんだよ。私は考えるのも面倒だったので、館の主に訊きましたよ。


「あの、マジでこの時間無駄なんで、さっさと教えてください」


「す、鈴木さん……」


 また血のついた手で触ってきます。服についた血ってシミに残りやすいんですよ。お気に入りのシャツだったんで、帰ったらマジで速攻で洗濯しないとですよ。


「ダイイングメッセージは暗号であるべきなのだ……」


「そういう歪んだロマンは捨ててください。あと、たぶんあなた死なないんでダイイングメッセージってよりは、ただのめんどくさいメッセージです。だからさっさと教えてください、犯人を」


「ダイイングメッセージは暗号に限る、とセミナーで教わったのだ……」


「なんですか、そのクソみたいなセミナーは。情報商材詐欺よりひどいじゃないですか。そんな詐欺師の妄言は無視してとっとと教えてください、犯人を」


「せっかく考えたのだ……。ぜひ解読してくれ……」


「なんでそんなアホなことに付き合わそうとするんですか。帰りますよ、私。シャツ洗いたいんで」


 そしたら、館の主の息子が私に頭下げてくるんです。


「鈴木さん、ボクからもお願いします。父さんの残したダイイングメッセージを解読してください!」


「いや、死なないんだよ、あんたのお父さん。直接訊けば手間かからないんだよ。犯人知る気あんのかよ?」


 文句言ってたら、遠くから救急車のサイレンが聞こえてくるんです。病院まで付き添うのも嫌だし、ここで済ませたかったんで、館の主に詰め寄りましたよ。早く帰ってシャツ洗いたいんでね。


「ちょっと、さっさと犯人教えてくださいって! マジで暗号とか面倒なだけなんだって!」


「せ、星座はそれぞれ、顔を向けている方角がある……。その方角とわしが血をつけた跡から……何かが導けるはずだ……」


 うわー、なんか解読するのに手間かかりそうで一気にやる気失いました。趣向凝らしすぎなんだよ。


「そんなんいいからマジで早く教えて! 救急車来ちゃうから! 病院とか付き添いたくないのよ、こっちは! 早く帰ってシャツ洗いたいんだからさ!」


「ふふ……、このダイイングメッセージは我ながら自信作なのだ……。そう簡単には解読できんぞ……」


「難易度高くしてんじゃねーよ! 笑ってる暇あったら犯人教えて、マジで!」


 結局、救急車来ちゃいまして、館の主は病院に搬送されました。イライラしながらみんなと一緒にダイイングメッセージっていうかクソメッセージを解読してたんですけど、全然解けないんですよ。


 警察が捜査して、犯人がメイドさんだって分かったんですけど、それでもクソメッセージの意味が分かんないんです。後日聞いたんですけど、館の主が血のつけ方間違ってたらしいです。時間返せ。自信作なら見直せ、ちゃんと。伝わんなかったじゃねーか。


 館の主がお詫びとしてあのシャツを大量に送ってくれてありがたかったんですけど、そんな何枚も要らないんだよ。

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