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第62話 普通の殺人事件なのにやたらとシュレーディンガーの猫って言ってくる探偵がウザすぎた

 もしまわりにシュレーディンガーの猫って連発してくる人がいたら気をつけた方がいいですよ。十中八九そいつ探偵なんでね……。



〜 〜 〜



「犯人は彼を殺し、凶器を持ち去り、この場から立ち去ったのです」


 殺人現場で探偵が普通のこと言ってます。近道に使ってる公園を通ろうとしたら、死体発見に居合わせちゃったんです、私。急がば回れってホントにそうですよね。


「犯人はこの場にはいませんが、この世界のどこかにいる……その存在はまるでシュレーディンガーの猫といったところでしょうか」


 さっさと警察に来てほしかったんですけど、なんかこのちょっとシュッとした探偵が勝手に周囲を調べ始めたんですよ。めんどくさいなーとか思ってたら、探偵がさらに喋ります。


「シュレーディンガーの猫とは、生きている状態と死んでいる状態が重ね合わせられているのです。この事件の犯人も、存在と非存在の重ね合わせだといえるでしょう」


「あの、その言葉はもう死ぬほど使い倒されてるんであんまり言わない方がいいですよ」


「持ち去られた凶器もまたシュレーディンガーの猫といえるでしょう。被害者の命を奪ったのは確かですが、今ここには存在しない」


「最近覚えたんですか、シュレーディンガーの猫って言葉を? だとしたら遅すぎますって」


「犯人にとっても、被害者への殺意はなかったともあったともいえます。つまりはシュレーディンガーの猫です」


「もうシュレーディンガーの猫って言いたいだけでしょ、それは。っていうか、実際殺してんだから殺意はあったでしょ」


「つまりはシュレーディンガーの猫が毒を口にしてしまった……重ね合わせが収束したということです」


「そんな小難しい話じゃないんだよ。もうシュレーディンガーの猫って言うのやめてください」


 小難しいこと言ってれば探偵としての威厳を保てると思ってるんでしょうかね? めんどくさい奴と一緒になっちゃったなと思いつつ、勝手に帰るとこいつうるさそうなんで、警察を待つしかないんですよね。早く来て警察。



※ ※ ※



「ん? この男性、何も荷物を持っていないな。財布もスマホも……そんなことありえるだろうか……?」


 なんか勝手に被害者の身体をまさぐって捜査始めるんですよ、この探偵。警察が来るまでのちょっとした時間も我慢できないんですかね、この手の探偵って?


「あの、あまり触らない方がいいですよ」


「彼の荷物もシュレーディンガーの猫ということか」


「それやめろって言いましたよね。シュレーディンガーの猫も呆れてますよ、さすがに。っていうか、荷物ないんだから重ね合わせでもないしね」


「波動関数が収束したということか……」


「それももう言うのやめてください。ただの殺人なんだから。あと、言いそうだから先に潰しときますけど、二重スリット問題とかも禁止ですからね」


「そうか、二重スリット問題だ。犯人はあたかもどちらかのスリットを抜けてここから逃げおおせたと見せかけて、実はどちらからもすり抜けていたんだ」


「話聞いてました? 禁止だって言ってんの。あと、もはやもう結構古い言葉だから得意げに使わない方がいいですよ」


 探偵は顎をさすって死体を見下ろします。


「これは……シュレーディンガーの猫殺人事件と名付けよう」


「だから関係ないんだって。やかましいな。いい加減シュレーディンガーの猫から離れろ」


「ふふ、なんだかシュレーディンガーの猫という言葉がゲシュタルト崩壊してきましたよ」


「そこら辺の言葉使いたすぎてワケ分かんなくなってんじゃないですか。はい、もう黙って警察待ちましょう! まだですかね、警察は?」


 そしたら、探偵がハッとするんです。事件解決のヒントでも閃いたのかと思って見てたら言うんです。


「警察の存在もシュレーディンガーの猫……?」


「やめろって言ってんでしょ! いま急いで向かってきてくれてるから。まさか到着した先にあんたみたいなのがいるとも知らずにね」


「なるほど、君は警察にとって僕の存在もシュレーディンガーの猫だと言いたいのか」


「勝手に納得するなよ。なるほどじゃないんだよ。何も正解してないんだよ」


 ホントに頭かち割れそうになってると、すぐ近くで猫の鳴き声がしたんです。茂みのそばからこっちを見てる野良猫がいるんですよ。このアホ探偵に目をつけられる前に逃げてーとか思ってたら、探偵が言うんです。


「あの猫……事件の手がかりかもしれませんね。あの猫は事件も目撃していた。しかし、その内容を僕たちは知り得ない……。そう、まるでシュレーディンガーの猫のようにね」


「黙れ」


「つまり、シュレーディンガーの猫の猫というわけです」


「そんなバカみたいなことよく真顔で言えますね。ただの猫だよ」


 とか言ってたら、猫が走り出して行っちゃったんです。そしたらこの探偵、追いかけて行っちゃったんですよ。マジで事件の手がかりだと思ってたみたいです。


 結局、私が全部警察に説明するハメになりましたよ。ちょっと近道するはずだったのに、丸1日潰れました。クソすぎです。すぐに犯人見つかったんですけど、あの探偵はあれっきり姿がないままなんですよね。あいつこそシュレーディンガーの猫の猫を追いかけて消えたシュレーディンガーの猫の探偵じゃん。


 あの、もう一生分のシュレーディンガーの猫を使った気がするんで、次に誰かがシュレーディンガーの猫って言ったら私ぶん殴るかもしれないんで気をつけてくださいね。

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