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第61話 デスゲームのマスターがデスゲーム同時並行しててゴチャゴチャになってる

 脱出ゲームが流行ってる煽りを受けてデスゲームもあちこちでやってるみたいですよ。


 でも、それだけ流行ってると歪みも生まれっていうのがこの世の理ってやつですよね……。



〜 〜 〜



『ワタシの名前は処刑人……。諸君、この≪監獄≫から生きて帰りたければ、最後の生き残り──すなわち、模範囚となるがよい』


 白い仮面の男がモニターの中で笑い声を上げると画面が消えて、デスゲームがスタートしました。今回はちゃんとしたデスゲームっぽいですね。とか思ってたら、またモニターがついて、ピエロの格好した奴が画面の中に現れたんです。


『ワタシの名前はクラウン……。この≪血みどろサーカス団≫から抜け出すためには脱出王として──ん? あ、繋ぐところ間違えたわ』


 勝手に画面消えて参加者みんなでポカンとしちゃいましたよ。


「今なんか別の企画やってたよね……?」

「でも、基本的なフォーマット同じっぽかったな……」

「同時に掛け持ちしてる……?」


 もうみんなデスゲームに集中できてないんです。いや、まさかそんなアホなことないだろとか私も思ってたんですけどね、しばらくしたら、またモニターがつくんですよ。なんか今度はジェイソンみたいなホッケーマスク被った人が映ってんです。


『ふははは、どうやらひとり目の犠牲者が出たようだな!』


 みんなで顔見合わせちゃいました。だって、なんか変だねーなんて話してただけなんで。なんかおかしいなと思って、私、僭越ながら訊いてみたんです。


「あの、すいません、まだ誰も死んでないんですけど」


『なにを言っている? そうか、この閉鎖環境で頭でもイカれたのか』


「残念ながらみんな正気だと思いますよ。さっきは模範囚になれって案内受けたんですよ、私たち。なんかそんなパンクな世界観じゃなかったんで、困ってるんですけど」


『ん? あれ、お前たちは≪世紀末で殺し合おう≫の奴らだろ?』


「違うと思いますけどね。別のデスゲームと間違えてんじゃないですか? っていうか、そんなポップな企画名でデスゲームやらないでほしいんですけど」


 なんかジェイソンが手元をガサガサやって慌ててるんです。


『えーと、そっちまだ誰も死んでない?』


「そうですね。お喋りしてただけです」


『なんでデスゲームでお喋りしてんだ? つーか、殺した相手のドッグタグ集めろって言ったっけ? そっちのルール教えて?』


 なんでゲームマスターがルール聞いてくるんだよって思いながら答えてあげましたよ。デスゲームって持ちつ持たれつですもんね。


「私たちが聞いてるのは自分の独房を守れ的なやつでしたけどね」


 そしたら、ジェイソンがポンと手を叩いてんです。


『あー、≪脱獄王≫か……』


 脱獄王と脱出王ってだいぶ被ってるよね。だからこんがらがってんですよ、きっと。もっとかけ離れたネーミングにしないからこうなるんだよ。


「あの、デスゲーム同時並行でやってません?」


『やってないやってない』


「じゃあそのホッケーマスクなんなんですか? さっきは処刑人とか言ってデスマスクみたいなのつけてたじゃないですか」


『あれ息苦しいんだよ』


「そんな事情知らないんだよ。もっと吟味して使いやすいやつ探せばよかったでしょ。探せば百均とかドンキにあるよ絶対」


『ちょっと待ってろ。いまマスク付け替えるから……』


 ゲームマスターが手元ガサゴソしてホッケーマスクそのまま外してんです。みんなでワーってなっちゃいましたよ。顔丸出しになってんですもん。なんか人の良さそうなおじさんでした。


「顔見えてる!」

「後ろ向いて付け替えないと!」

「マスクつけすぎて汗まみれじゃん」


 ようやく処刑人のデスマスクをつけたゲームマスターが咳払いするんです。


『諸君、模範囚を目指さなければ≪監獄≫からは生きて帰れないぞ』


「いや、無理無理無理無理! その世界観に戻るのは今は無理だよ〜! 裏側見ちゃってるから、こっちは。もうちょっとクールタイム必要よ、さすがに」


 私がそう言うと、なんか怒ったみたいな感じでバンって画面消えちゃいました。いや、完全に向こうの自業自得じゃん。めちゃくちゃ致命的なミスしてんじゃん。っていうか、他のゲームで犠牲者出てるっぽいけど、大丈夫なの? めちゃくちゃ杜撰な運営のデスゲームで死ぬのってなんか負けた気がしない?



※ ※ ※



 とはいうものの、閉じ込められてることに変わりはないわけで、参加者のみんなとどうしようかねーなんて話し合ってたんですよ。そしたら、またモニターがついたんです。ゲームマスターがさっきと同じデスマスクつけてんですけど、横向いてるんです。


『諸君、どうやら独房の数も少なくなってきたようだな』


 別のゲームの参加者にこっちの世界観で話しかけてんです、こいつ。みんなで必死に呼びかけましたよ。


「バカ、それこっちのゲームのやつだから!」

「話しかける方向間違ってますよー!」

「おい、聞こえないのか!」


 なんかこっちの音声は今はミュートされてるみたいなんですよ。だから呼びかけてんのに気づいてないの。っていうか、同じ部屋で複数のゲームをワンオペで回してるんかい。そりゃ混乱もするよ。


『どうした? 震えて声も出せないのか? 特別独房から鍵を見つけてこいと言っただろう?』


 さすがに手を大きく振って教えようとしましたよ。


「ちょっとー! 他のゲームにこっちの世界観で話しかけてもみんな分かんないんだって! 気づけって、アホ!」


 そしたら、私の思いが通じたのか、ゲームマスターがこっち見たんです。すぐに鉄仮面を被ってこっちに話しかけてくれました。


『第三帝国の奴隷どもよ、助けを欲しているのか?』


「バカ、いま被ってたデスマスクでよかったんだよ! なんで付け替えちゃったの! っていうか何個デスゲーム並行してんのよ。だからごちゃ混ぜになるんだって。1個に集中しなさいよ」


『またお前たちか……。こっちはスケジュールが被って大変なんだ。いちいち茶々を入れてくるなよ』


「だったらせめて同じ企画にしなよ。別企画にするから変なことになってんだって」


『うるさい。色々なバリエーションの企画を出すことで表現の幅が広がるんだよ』


「デスゲームで表現語るのやめてもらえる? すごいねーデスゲームのバリエーション豊富だねーとかならないから」


『黙れ! お前たちは死ぬまでそこに閉じ込められとけ!』


 今度こそホントに画面が切られちゃいました。しばらく途方に暮れてたら、いきなり画面がついて、ピエロの格好した状態のゲームマスターが出てきました。


『ヒッヒッヒ、ついに最後の1人になったな。お前こそが脱出王だ。そのドアから出て行くがいい』


 なんか閉ざされてたドアが急に開いて外に出られました。血みどろサーカス団の方でデスゲームが終わったんですね。あのゲームマスター、最後まで全部のゲームがゴチャゴチャのままだったみたいです。


 ラッキーだったねーみたいなことを話しながら警察に連絡して、みんなで居酒屋行って打ち上げしました。ただ閉じ込められて出てきただけなんですけど、なんか得体の知れない達成感もあってみんな仲良くなりました。たまにはデスゲームもいいもんですね。

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