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第56話 商品ロゴ消してるアイドルの写真見てNHKの陰謀だって探偵たちが騒いでる

 陰謀に巻き込まれてる人もたくさんいると思いますけど、そういう時ってまわりは信じてくれないもんです。


 でも、信じてくれる人が現れたら疑った方がいいですよ。そいつ、陰謀を仕掛ける側の可能性ありますからね……。



〜 〜 〜



「君たちに集まってもらったのは他でもない。今回は緊急の議題があり、君たち探偵連合の幹部に声をかけたのだ」


 部屋にぎゅうぎゅうに探偵たちが詰めかけてまして、なんで私もいるんだって話ですけど、厳かな雰囲気の手紙が急に来まして、その案内に従ってここに至るって感じなんです。…………いつから幹部になったの、私? っていうか探偵連合って何よ?


「あんたが緊急会合を開くなんて珍しいじゃないか。何があった?」


 強面の探偵が促すと、私たちを呼び出したリーダーみたいな探偵が不敵な笑みを浮かべるんです。私を勝手に幹部にしたこと、後でクレーム入れてやろうかしら。


「我々は、闇に葬られた数多くの事件を掘り起こし、解決してきた。今回もそれほどまでに大きなヤマだ」


 なんかちゃんと活動はしてるっぽいですね、探偵連合。だったら、私を勝手に幹部にしないでほしかったんですけどね。


「これから芸能界の闇に触れることになる……。厄介ごとに巻き込まれたくない者は出ていってくれて構わない。無理強いはしないからな」


 かなりの数の探偵が出ていってしまいます。こいつら結束力ないんかい。どこまででもついていきますよ的な展開じゃないのかよ? ってことで私も退散しようとしたんですけど、リーダーが「まあまあ」とか言って行かせてくれないんです。


「いや、厄介ごとに巻き込まれたくないんで帰りたいんですけど。乾電池買いに行きたいんですよ」


「まあまあ……」


「立ち塞がるにしても何かしら意味のあること言ったらどうですか? まあまあだけじゃ無理でしょ」


「さ、というわけで、残った君たちは覚悟ができているみたいだな?」


 探偵たちがうなずきます。


「私できてないんですけど。っていうか、なに勝手に幹部にしてんですか? ちょっと、勝手に始めないで!」



※ ※ ※



「今から写真を見せる」


 リーダーが勝手にホワイトボードに写真を貼りつけていきます。文句言おうとしたら、どの写真もなんか女の子のアイドルのオフショット的なものばかりなんですよ。


「これらの写真はプリンセス革命というアイドルグループのものだ。よく見てくれ。このペットボトルのラベルやスマホ、メイク道具、何かのキャラクターのキーホルダー……全てが何かで覆われているんだ」


 芸能人の写真でよくあるやつです。競合なのか配慮なのか、商品ロゴとかキャラクターをモザイクで消してるんですよね。


「な、なんだ、このモヤモヤは……」


 大の大人がアイドルの写真に釘づけなんです。真実教えてやったら速攻で帰って乾電池買えると思って、私、頑張りましたよ。


「あの、皆さんモザイクって知らないんですかね? アプリとかでできるじゃないですか」


 そしたら、リーダーが私を指さすんです。


「ロゴやキャラが消されている……。これが何を意味するか分かるな?」


「だから、競合とかの──」


「NHKだよ」


 リーダーが真剣な顔で言うんです。一瞬意味が分かりませんでした。なに言ってんだこいつとか思ってたら、強面の探偵が身を乗り出してきました。


「NHKの仕業ってことか」


 なんか変な方向に行きそうだったんで慌てて口挟んじゃいましたよ。このままだと徹夜するレベルでややこしくなりそうなんでね。


「NHK関係ないでしょ。ほら、CMやってて競合のロゴだから消すみたいなことでしょ」


「いや、リーダーの言う通り、NHKは商品名やロゴを出せない。つまり、このアイドルたちはNHKに命令されてこのようなことを……」


「NHKそんな暇じゃないと思いますけど」


 っていうか、これが芸能界の闇だと思ってるの頭おかしいでしょ、この人たち。こんなアホなことでなに真剣に話し合ってんの? 暇なの?


「ちょっと待ってください」


 部屋の隅にいた和装の男の人が手を挙げます。やっとまともな人が出てきた……と思ってたんです。


「NHKの圧力だという仮説は少々無理があるかなと思いますよ」


 強面の探偵が睨みつけます。因縁があるのか知らないですけど、そんなバックグラウンド垣間見せてこなくていいから。リーダーが尋ねます。


「どういうことだ、霊視探偵?」


「皆さんの目にはただのモザイクに見えているかもしれません。しかし、これは霊なのです。つまり、心霊写真ですよ、これは」


 なんかまたバカみたいなこと言い出したよ。強面の探偵が詰め寄ります。場の空気が張り詰めるんですけど仕事しろよ、こいつら。


「霊だと? 一体なんの?」


「皆さん、さきほどからおっしゃっているではないですか。これはNHKの霊ですよ」


 ずっこけそうになりました。


「NHK死んでないんですよ。いや、死んでても霊にはならないでしょ、組織なんだから。聞いたことないですよ、組織の霊なんて」


「おそらく、商品ロゴを出したくないという怨念が……」


 霊視探偵って名乗ってるけど、絶対に霊視できないでしょ、こいつ。とか思ってたら強面の探偵がそっぽを向きます。


「そ、そんな突拍子もない言葉を信じられるわけないだろう。し、信じられるわけが……!」


「実はちょっと信じ始めてるみたいな演出いらないんですよ。アイドルがただ配慮してるだけだから。霊とか関係ないから。っていうか、NHKも関係ないから」


 リーダーが机をバンと叩きます。


「霊視探偵……どうすれば除霊できる?」


「真面目な顔でなに言ってんですか。はい、もう解散! アホらしくて無理です! 帰って仕事しろ!」


 部屋を出ようとした私の前に強面の探偵が立ち塞がります。


「ちょっと待った、鈴木さん。あんたやけにNHKの肩持つじゃないか? ひょっとしてあんた──」


「NHKとの繋がりとかなにもないから! めちゃくちゃ一般人だから、私!」


 それからNHKとの繋がりがないか確かめるために本部のある渋谷まで連行されたんですけど、入り口で警備員に止められて警察呼ばれてました。私の休日これで終わったんですけど、私って探偵連合の霊に取り憑かれてません?

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