第54話 上司の殺人計画を間違って本人にメールしちゃった社員がダメ出し食らってた
皆さんのまわりにも殺人計画を練ってるお友達がいるかと思うんですけど、もしホントにお友達だというのであれば、ちゃんと成功する計画を練るように言ってあげてください。
それから、せっかくの殺人計画がバレないようにとも伝えてくださいね……。
〜 〜 〜
ウチの会社、社内の連絡はいまだにメールなんですよ。で、いきなりこんなメールが来たんです。
『部長殺害の件』
引きのある迷惑メールの件名みたいな感じで速攻で開いてしまいました。中には「今度の飲み会で部長酔わせて公園の池に突き落とす」って書いてあるんです。何人かのアドレスが入ってるんですけど、部内のメーリングリストも送信先に入ってるんです。やっとウチの会社でも殺人が起こるのかーなんて感慨に耽ってしまいましたよ。
部長の席は私のところからちょっとだけ離れたところにあるんです。すぐに部長が、
「奥村、ちょっと来て」
とか言ってメールの差出人呼んでんです。奥村は後輩なんですけど、あまりパッとしない社員なんです。だからこういうミスするんですよね。
「なんですか?」
「奥村さ、俺のこと殺したいの?」
「へっ? いや、そんなことは……」
「メール来てんだよ、俺のところにも。『部長殺害の件』ってメールが」
「えっ?! あっ!? な、なんで?!」
「いや、奥村さ、これ、前に送ったメール流用してるから誤送してんだよ。メーリングリストとかそのまま入ってんじゃん。結構な人に届いてるよ、このメール」
「あっ、うわー……。そうですね……」
「なに? 高田と宮下と花岡も共犯だろ、これ?」
奥村が泣きそうな顔で首振ってます。
「ち、違いますよ……!」
「CCじゃなくてBCCに入れろって何回か言ってるよね。だから、共犯者バレちゃってんだよ」
「つ、次からは気をつけます……」
次からってなんだよ? まだ部長殺す気あるんかい。
「あとさ、この公園って、あそこだろ? 駅の向こうの……」
「あー、そうです。遊歩道があるところの……」
「あそこ防犯カメラあんの知らないの? バレるだろ、そんなところで突き落としたら」
「え、防犯カメラ……」
「なんでちゃんと下調べしない?」
なんか殺人計画までダメ出しされてんです、奥村。仕事のダメ出しよりキツそう。部長の説教はまだまだ続きます。部長ってネチネチ言ってくるからね。だから殺意抱かれてんでしょうね。
「あとさ、この程度の計画だったら共犯者なんか要らないから。そういうところから綻びって生まれんだよ。ちょっと口滑らしたりしてバレるんだよ。共犯者ってそういうリスクあんだよ」
なんでそんなに殺人に詳しいんだよ、部長。何人か殺ってたりするんでしょうかね?
「だけど、誰かに見られないか見張りも要るかなって思いまして……」
「だからさ、まず防犯カメラあんだよ。意味ないんだよ、ちゃんと調べてないから」
「すいません、調査不足でした……」
なんで殺したい相手から計画の穴突かれてんだよ、奥村。謝ってんじゃないよ。いま目の前で刺し違えるくらいの気概がないからこんなつまらないミスするんですよ。やる気とそれを形にする技量がないとこうやって杜撰な計画が生まれちゃうんですよね。
「そもそも、俺、酒飲めないから」
「えっ?! そうだったんですか!」
「お前知らないの? 俺だいたいノンアルよ?」
「すいません、気づいてませんでした」
「お前それはさ、殺したい相手のこと見てなさすぎだって。この前のプレゼンの時も言ったけどさ、リサーチちゃんとしろって」
「申し訳ありません……」
部長、誰目線で怒ってんですかね? 仕事やりすぎて自分の殺人計画と部下の作った資料も同じに見えてそう。奥村も奥村で来週あたり「これでどうですか」とか言って殺人計画の修正案提出しそうじゃん。そんな顔してるよ。
部長が奥村をマジマジと見てるんです。ついに殺そうとしてること怒るのかなって思ってたら、言うんですよ。
「奥村、俺のこと殺したいのか、お前?」
「はい、そうですね……」
なんで認めちゃうんだよ、奥村。ウソでもそんなことないですって返しなさいよ。
「俺死んだら常田が部長になるけどいいの?」
「はぁ、まあ、そうですね」
「俺さ、ちゃんと仕事割り振ってんだよ。常田の奴、何年か前に有能な部下に仕事ぶん投げて、そいつメンタルやられて退職してるからね。お前がまだ入社する前だよ」
「え、マジすか……」
「それでもまだ俺のこと殺したいか?」
「ええと、部長的には常田さんがおすすめですか?」
なに訊いてんだよ、奥村。おすすめされたら殺すんかい、お前は? 部長だって答えるわけ──、
「そうだな、常田はおすすめだよ」
いや、なにおすすめしてんだよ、部長? 奥村も、
「じゃあ、常田さんの殺人計画練ってみます」
とか言ってんです。部長への殺意どこいったんだよ? っていうか、仕事しろよ、奥村。
「あとお前、計画立てるなら稟議書いるからな。書いたことあるか、稟議書?」
「いや、まだないです……」
殺人の稟議なんて通るわけないでしょ。って思ってたんですけど、後日聞いたら、2人くらい稟議書の承認印押してたらしいです。総務部の方で、目的とか意義が甘かったって理由で稟議下りなかったみたいでした。皆さんも稟議書はちゃんと書きましょうね。




