第53話 身長5メートルある人が探偵学校の尾行試験で毎回落ちてるらしい
探偵って基本的には誰でもなれるらしいですよ。事件解決できるかどうかは別ですけど。
誰でもなれるとは言っても、どうしても向かない人もいるわけですよ……。
〜 〜 〜
探偵学校の先生をやってるって人からワークショップに来てくださいって連絡が来たんです。探偵として生徒の悩み相談をしてほしいって言うんです。いや、私、探偵じゃないからとか言ったんですけど、もう職場にスケジュールの相談してあるとか返ってきて、行かざるを得なくなりました。なんで勝手に職場に話通してんのよ? なんでうちの会社副業禁止じゃないのよ?
「いやぁ〜、お待ちしてましたよ〜」
「私は来たくなかったです」
「またまたご謙遜を。ささ、こちらです」
探偵学校に着くなり案内されてワークショップにゲストとして登場しました。なんか探偵学校の生徒の間で私という存在がレジェンドっぽくなってて、ものすごい熱狂に包まれてました。私、探偵じゃないんですけど。
「さっきまでも生徒からの悩みに他の探偵の方に答えてもらったんですけど、ここでも鈴木さんに答えてもらおうと思います」
すぐに始まるかと思いきや、みんなで中庭に移動するんです。不思議に思ってると、中庭にめちゃくちゃでかい男の人がいるんです。身長5メートルくらいあるんですよ。この社会に存在していいサイズじゃないの。言葉失ってると巨人が私に挨拶してきます。声がものすごい重低音。
「初めまして。小宮といいます」
身長5メートルあるのになんで苗字に小さいって字が入ってんのか不明なんですけど、中身は普通の人って感じでした。私、思わず言いましたよ。
「めちゃくちゃでかいですね……」
「そうなんです。巨人族なんですけど、多様性の時代になったということで出てきました。あと、『進撃の巨人』が世に出た影響も大きいですね」
「マイナーな職業にスポットライト当たったみたいな感覚なんですね、『進撃の巨人』が」
そもそもこんな巨人が存在してたことについて飲み込めてないのに講師の人が先に進行しちゃうんです。当たり前でしょみたいな顔してるから無闇にツッコミ入れられないし。訊きたいこと死ぬほどあるんですけど。
「では、小宮さん、悩みを発表してください。鈴木さんが答えてくれますよ」
巨人の悩みにどうやって答えるんだよ? さっきまで悩み相談してたっていう探偵がどんな悩みに応えたのか知らないけど、絶対私の方が難易度高いでしょ。小宮さんが私にキラキラした目を向けてきます。探偵やるよりビル建てる方が向いてるよって言いそうになりました。
「この探偵学校では、上級のクラスに進級するためにテストに合格しないといけないんですけど、なぜかいつも尾行試験で引っかかっちゃうんです……」
全然不思議でもなんでもないよ。理由はでかくてすぐ見つかるからだよ。
「先生方から教わった尾行の基本を実践しているんですけど、いつも試験をパスできなくて進級できないんです……」
でかいからだよ。尾行の基本とか関係ないから。とか思ってたら、講師の人に言われました。
「鈴木さん、なんでも質問していただいて結構なので、小宮さんの悩みに答えていただけますか?」
なんか他の生徒たちも私の回答を心待ちにしてる空気出してんです。分かってないのかな、小宮さんのでかさを。一緒にいすぎて感覚マヒしてんのかな、このサイズ感に。とは言うものの、どう指摘すればいいか分からず、めちゃくちゃ無難な質問しちゃいました。これでも空気読める方なんでね。
「尾行の基本ってどんなのですか?」
「適切な距離をとる、服を変える、髪型を隠す、周囲に溶け込む、目が合っても慌てて方向転換しない、などですね。目立つ行動はしていないんですけどね……」
でかくて目立ってんだよ。行動とか髪型とか以前のレベルなんだよ。ずっと巨人がついてきたら、尾行されてる人は悪夢見てるって勘違いするよ、きっと。そしたら、講師の人がフォローのつもりか知らないですけど、私に訊いてくるんです。
「鈴木さんは尾行の経験は?」
「いや、ないですね。別にバレてもいいことしかしてないですし、そもそも私、探偵じゃないんでね」
我ながら身も蓋もないこと言っちゃったかもなーとか思ってたら、講師の人がパッと表情明るくするんですよ。
「探偵だという自覚すらなくすことで尾行していないんだと自分自身に思わせるという感じですね」
「いや、そんなこと言ってないんですけど」
小宮さんが感動してんです。
「今までわたしは尾行をするという意気込みが強すぎたのかもしれません。もっと気を楽にして尾行試験に挑もうと思います」
「いや、まず尾行に向いてないんだ思いますよ」
「それは自覚してます。じゃなきゃこんなに試験に落ちないですから」
「そういうことじゃなくて……。先生もなんか気づかないんですか? 小宮さんみたいな人が尾行してたら街中の噂になりますよ」
「確かに、小宮さんはイケメンですからね」
「そこじゃないっつーの。でかすぎるのよ。でかすぎて見つかってんのよ」
そしたら講師の人が困った顔してんです。
「いや、あの、鈴木さん、身体的な特徴をあげつらうような発言は……」
なんか小宮さんも背中丸めてシュンとしてんです。背中丸めて小さくなってもバスぐらいのサイズあるからね。っていうか、知らんから、そんなコンプレックス。巨人族なら堂々としててほしいもんですよ。尾行するよりつまみ上げて食べるふりすれば情報引き出せそうじゃん。…………これも配慮に欠けた発言なのかな。巨人族のSNSで炎上すんの、私? とりあえず謝っときました。
「初っ端から身長の話してすいませんでしたね!」
講師が小宮さんへのアドバイスせびってくるんで言ってやりましたよ。
「巨人族だけ尾行すればいいんじゃないの、知らんけど!」
投げやりに言ったらなんか小宮さんに刺さったみたいで、何ヶ月か経った頃には巨人族専門の探偵として大成功してました。お礼として巨人饅頭が送られてきたんですけど、でかすぎて部屋の半分占領されました。食べ切れるわけないでしょ。




