第51話 カスタマーサービスの向上に余念のない探偵に対抗して犯人もアンケート取り始めた
世の中ってお客さん第一主義みたいなのがあるじゃないですか。最近じゃ探偵も気にしてるらしいですよ、顧客満足度ってやつを。
サービスよくなるならいいんでしょうけど、この前、犯人もカスタマーサービスの向上とか言ってアンケート取り始めたのには目を疑いましたね……。
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「つまり、この一連の殺人事件の犯人はあなたです、霧崎さん!」
探偵がビシッと人差し指を突きつけて長い解決編が終わりました。霧崎さんももう納得するしかないみたいで、これでやっと帰れるって思ってたら探偵がブリーフケースから書類取り出してみんなに配り始めました。
うわー、今までまともな探偵だと思ってたのに解決編終わってからなんかやるタイプだーと思って絶望しましたよね。早く帰りたいのに、そんな第2形態みたいなの出してこないでほしいんですよ。
書類には『探偵サービスに関するアンケート』とか書かれてんです。めちゃくちゃびっしり項目あるんですよ。なんかたまに職場でやらされるメンタルヘルス的なテストみたいなやつ並みの分量なんです。もうアンケートが小冊子ですもん。
「今後の探偵サービスの参考にさせていただきますので全問お答えくださいねー。回答はボールペンでお願いしますよー。ボールペンない方はお渡ししますんでねー、気軽に言ってくださいねー」
早く帰りたかったんで思わず口挟んじゃいましたよ。
「あの、すいません、これって家でやっちゃダメですか?」
「ああ、家でやる場合には、回答を郵送してもらうんで、こちらの郵送キットをお渡ししますよ。郵送キットなんですけど、420円になります」
「あ、お金取るんですか」
それに加えて住所知られるのがなんか嫌だったんで、この場でアンケート答えることにしました。マジで面倒臭いんですけど。
近くのテーブルでアンケート答えようとしたら、霧崎さんがなんか不満そうなんです。この際だから彼にぶち壊してもらいましょう。3、4人殺してんですから、アンケートやめさせるくらい朝飯前でしょ。
「おい、探偵さん、俺にはアンケートはないのかよ?」
なんでこいつはアンケート答えたいんだよ? 「今回の推理はどうでしたか?」って質問に「とてもよかった」って選ばないだろ。犯人なんだから。
「一応、犯人用のアンケートもありますけど、どうしますか?」
「それでいい」
この探偵、どんだけカスタマーサービス向上させたいんだよ? 犯人に対して何を改善するんだよ? 悪はぶちのめしとけばいいでしょ。
アンケートもなんかいろいろ訊いてくるんですよ。「探偵のキャラはどうでしたか?」とか「解決編までの所要時間はいかがでしたか?」とか「推理は分かりやすかったですか?」とか。不満だったら次は改善してくるんですかね? っていうか、次ってなんだよ? なりたくないんだよ、常連になんて。
※ ※ ※
腐るほどアンケート項目があって、小1時間かけて答えましたよ。だって、探偵が試験監督みたいな空気出しながら見回ってんですもん。
あー、やっと帰れるーとか思ってたら、霧崎さんがみんなの前に立つんですよ。嫌な予感してたら、こう言い出しました。
「俺も、犯人として改善していきたいから、口頭ですまないがアンケート取らせてくれ」
犯人としての改善は刑務所に入ることでしょって言いそうになりました。なんか私以外の事件関係者は言われるがままにアンケート答える雰囲気出してたんで、私だけ出て行くわけにもいかなくて、アンケート参加するハメになりました。
「じゃあ、まずは俺が犯人だったというのは意外だったか? 意外だと思ったら拍手」
パラパラと拍手が起こります。なんなの、次は意外性出してくるの? 再犯する気満々じゃん。難事件にするためにリベンジしようとしてるじゃん。しかも、なんか結果を胸に刻むみたいな感じ出してんです。まず殺した人たちのことを胸に刻めよって感じですよね。
「今回の殺人の殺し方のインパクトは大きかったか? 大きいと思ったら拍手」
どんな質問だよ? しかも、誰も拍手しないんです。霧崎さん、ちょっとショックだったみたいです。
「そうか……、ちょっと次はもっとインパクトある事件にしたいんで、リベンジさせてください」
なんの決意表明なのか知りませんけど、みんなうんうんがんばれみたいにうなずいてます。どちらかと言えば、被害者の遺族にリベンジされる側でしょ、こいつは。
※ ※ ※
意味の分からない時間を過ごさせられて、最後に自由に意見を聞かせてくださいとか言い出すんです、この男。そしたら、事件関係者から色んな意見が出てきました。いや、早く帰りたいんですよ、こっちは。なんでみんなして積極的なんだよ? 霧崎さんの次の事件を充実させなくていいんだよ。
「2回目の殺人の時にちょっと血のにおいしてて、気づかないふりするの大変でした。人殺した後はちゃんと身体を洗うとかしてほしかったです」
「それは本当に申し訳ない。みんなのいるところに急いで戻る必要があったんでね」
いや、血のにおい気づいてたんなら言えよって話ですよね。もうその時点で事件解決できてたんじゃん。ここまでの時間なんだったのよ? また別の意見もありました。
「解決編の時に探偵さんの推理に対して防戦一方だったので聞いててつまらなかったです。こっちは探偵と犯人の攻防が見たかったのに、反論が弱すぎて盛り上がりに欠けてたと思います」
さすがに歯に衣着せなすぎだろってレベルのめちゃくちゃ辛辣な意見を受けて、霧崎さんが死ぬほど悔しそうな顔してんです。っていうか、解決編にエンタメ性求めてたのかよ?
「それは……自分でもウィークポイントだと思ってて……、殺人の実行の部分でやれることをやったという感じで、推理に対する反論という部分は対策不足でした」
なんか負けたチームの選手のコメントみたいなこと言い出しましたよ。反省するところそこじゃなくて、殺したことでしょうよ。なんて思ってたら、泣き出すんですよ、霧崎さんが。
「ホントに……応援してくださったみなさんに不甲斐ないところを見せてしまって……ホントに実力不足です……!」
何に対して謝ってんだよ、こいつは? しかも、それに対して、探偵も肩ポンポンしてるんです。次はできるよ、みたいな。次あっちゃダメなんだよ。っていうか、誰が応援してたの?
私もなんか言ってやろうと思って、意見述べさせてもらいました。
「あの、事件起こすんだったら、土日じゃなくて平日にしてほしいんですよ。せっかくの休みが潰れてるんでね、こっちは」
霧崎さんが真っ直ぐに私を見て答えるんです。さっきまで泣いてたとは思えない引き締まった表情でした。
「お言葉を返すようだが、今回は俺の死んだ恋人の命日に合わせて殺したかったんだ。そこらへんの動機については解決編で説明した。意見をくれるのはありがたいが、俺の話をちゃんと聞いた上で意見してほしい」
……ええと、なんで私が責められてんの?




