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第48話 殺人配信してる奴がちゃんと映ってるか気にしすぎてて内容が入ってこない

 見たことある人も多いと思いますけど、スナッフフィルムってあるじゃないですか。いわゆる殺人ビデオってやつです。


 あれってセンス問われるからやらない方が身のためですよ……。



〜 〜 〜



 警察からいつの間にか事件のアドバイザーにさせられてる私なんですけど、今回は警察に殺人の予告とURLが送られてきたそうで、その件で呼ばれたんです。なんで私が……。


 指定の時間にページを開くと、どうやらビデオ通話ができるようになってるみたいでした。担当の刑事さんが不安そうに言うんです。


「まさかこれは殺人の実況中継……? 内容がキツいかもしれませんがご辛抱ください、鈴木さん」


「あ、大丈夫です」


 私、そういうの見慣れてるからなーなんて思ってたら、映像が入ってきました。



※ ※ ※



 無精髭の男がカメラを持ってるようでした。


『どうも、刑事諸君。映ってんのか、これ?』


 撮影に不慣れなのか、ちょくちょくカメラ目線になるんです、この男。刑事が律儀に答えます。


「映ってますよ。そこはどこですか?」


『お前たちには絶望を味わわせてやろう。というか、聞こえてんのか、これ?』


「聞こえてますよ。あなたの目的はなんですか?」


『えー、今からターゲットを捕まえに行くところでーす』


 男が行く手を指差すんですけど、カメラをそっちの方に向けないから見えないの。


『ちゃんと映ってるかな?』


 お前の顔だけ映ってるよ。できれば他のところも映してよとか思いながら観てると、男がカメラをどこかに設置してちょっと離れたところに立つんです。で、なんかチラチラとカメラの方を向くんですよ。


「何をしようとしてるんでしょうかね?」


 刑事が私に訊いてくるんですけど首を捻っときました。


 しばらくしたら、もうひとりの男の人が現れて何か喋ってんですけど、ボソボソ言ってて聞こえないの。で、男の人が喋ってる間も無精髭の方がずっとカメラ気にしてんです。いや、相手の話聞けやって思ってたら、無精髭の方が相手の男の人を殴り倒したんです。刑事が思わず立ち上がっちゃいました。


「あっ! おい、やめなさい!」


 そんな言葉なんて聞くわけもなく、無精髭の男が小走りにカメラの方に駆け寄ってきて、


『撮れてたかな?』


 とか言ってんです。聞こえてたかどうか心配しろよ。


「撮れてますよ、大丈夫です」


 この刑事も刑事でいちいち真面目に答えるんです。ビデオ会議してるんじゃないんだから。カメラが倒れた男の人を映します。


『これからターゲットを運びまーす。ちゃんと映ってるかな?』


「映ってるっつーの。どんだけカメラ信用してないのよ」


 思わず言っちゃったんです。そしたら、無精髭の男がカメラを自分に向けて、ニヤリとします。こっちのカメラの映像が向こうに届いているみたいです。


『なんだ、そっちはまだ他にもいたのかよ? 女だな? これ、見えてるのか?』


「だから見えてますって」


『こっちの音は聞こえてんのか?』


「聞こえてるっつーの! 早く先進めろ! そしてカメラを信じろ!」


 いつもなら大人しくしてるんですけど、もうこの辺りで私のイライラはMAXあたりまでいってますからね。



※ ※ ※



 どこかの廃屋に男の人が運び込まれていきます。それが古いテーブルの上に横たえられてて、無精髭の男がその前に立ってナイフを構えてるんですけど、ここでもカメラ気にしてんですよ。で、何回もカメラの位置調整しては『映ってるか分かんないけど』とか言ってんです。


 そんなに気になるならリハーサルしろよ。カメラの位置だって前もって決めてたらグダグダせずに済んだでしょ。要領悪すぎなんですよ、こいつ。


 そうこうしてるうちにテーブルの上の男の人が目覚めちゃうんです。暴れる相手を押さえつけながら無精髭の男が叫びます。


『今これ撮影してるから! ジッとしてて!』


 男の人だって負けてません。


『ふざけんな! だからって大人しくするわけねーだろ!!』


 やばい光景のはずなのになんかめちゃくちゃ喜劇みたいに見えてきました。それもこれもこいつがカメラ気にしすぎてる時間で男の人が目覚めちゃったせいだから。揉み合ってる最中もチラチラカメラ見るの。そんなに映像に収めたいならカメラマン雇えばよかったでしょ。


「おい、やめるんだ!」


 刑事の方も興奮してモニターに掴みかかるから画面が見えないんです。どっちも邪魔なのよ。ひとりで静かに観たかったよ……とか思ってたら、もう肝心の場面が終わっちゃってるんです。ずっと刑事の後頭部見てただけだよ、私。


 静かに横たわる男の人の前で無精髭の男が息を切らせながら言うんです。


『今の撮れてたか?』


 もう腹立っちゃって、私。ついつい言い返しちゃいましたよ。


「うるせー、撮れてるって。逆に撮れてなかったらどうするつもりだったんだよ? そんなに気になるならリハーサルくらいしろや!」


『ん? なに怒ってんだ? もしかして映ってないのか?』


「映ってるって何回言えば信じるんだ、お前は! 映ってる! 映ってるからもう心配するな!」


 なんで殺人配信観ながら私は大声でツッコミ入れてんのか分かりませんでしたよ。そうこうしてるうちに犯人は次の工程に進んでるんです。映ってるか気にするくせにこっちがついてきてるか不安に思わないのはなぜなのよ?


『これから死体を解体しまーす。ちゃんと撮影できるか分かりませんけど』


「だから映ってるんだって。カメラ回して置いとけば撮れるんだよ」


『こっちの音は聞こえてるか? これからお前たちはこの男がバラバラにされる音を聞くことになるんだ。おい、聞こえてるか?』


「聞こえてるから安心して」


『まあ、聞こえてるか分からんが、先に進めるぞ』


「ねえ、待って。逆にこっちの声聞こえてんの?」


『まずは手足を切り離しまーす』


「こっちの声聞こえてるか教えろ!」


 犯人がノコギリを取り出します。


『始めるぞ。見えてるのか?』


「見えてるって何回も伝えてる! こっちの声聞こえてんのか?!」


『映像と音で絶望を味わうがいい。味覚は伝わってるか?』


「伝わるわけないでしょ」


『なんだ? 映ってないのか?』


「映ってるんだよ! どうしたら映ってるって信じてくれるんだよ、お前は! こっちの声聞こえてないだろ?!」


 いや、もう確認を大声でしてたら全て終わっちゃいました。私はヘトヘトだし、刑事は無力感に打ちひしがれてるし、犯人はカメラ覗き込んできて、


『よく見ろ、お前たちが無能なせいで犠牲者が生まれたぞ。映ってるのか?』


 とか訊いてくるから頭おかしくなりそうでした。もう内容全然入ってこないの。これじゃ男の人も無駄死にだよ。


 あまりにも不憫だったので、この前知り合った悪魔に声かけて、被害者のところに行って生き返らせてあげるように頼んどきました。


 生き返った被害者が犯人にリベンジポルノならぬリベンジスナッフフィルムしたみたいです。私は叫びすぎたせいで寝込んでたんでよく知らないんですけどね。


 ちなみに犯人とのビデオ通話、こっちのマイクがミュートになってたみたいです。なんか悪いことしたね。

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― 新着の感想 ―
まさかのリベンジ…!? こういうラストも、このお話の世界ならでは、ですね。悪魔さん、実に良いお仕事しました。
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