第46話 私になりすました宇宙人が現れたのでパシリにした
行ったことのない場所であなたのこと見たよーなんて言われることってあるじゃないですか。いや、行ってないけど? みたいな。
あれって十中八九、宇宙人の仕業ですから気をつけた方がいいですよ……。
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「鈴木さん、これ以上休日出勤すると勤務時間が超過しちゃうんで、スケジューリングの調整お願いしますね」
月曜日に会社に行くなりそう言われたんですけど、私が休日出勤するタイプだと思います? 私、別にこの仕事嫌いじゃないですけど、優先度めちゃくちゃ低いですからね。で、おかしいなって思って勤怠システムで確認したんです。
今月3回も休日出勤してるんですよ、私。そりゃ注意されるよね。パソコン起動して作業中のファイル入れたフォルダ見ると、確かに休みの日になんかやってたんです、私。ちょろっとミスあるんですけど、手直しすれば問題ないレベル。ラッキーとか思ってその日は終わったんです。
※ ※ ※
「昨日のあのおじさん誰なんですか?」
会社に行くなり後輩の子にそう言われたんです。めちゃくちゃ怖いこと言ってくるじゃん。昨日は自宅近くの飲み屋で飲んでたんですよ?
「昨日のおじさん?」
「ほら、赤坂見附でバニーガールの格好したおじさんと歩いてたじゃないですか。わたし、鈴木さんともちょっとお話しましたよね〜?」
なんかめちゃくちゃ怖いことが昨日起こってるんですけど。赤坂見附なんて乗り換えの時にしか行かないよ。
「あのさ、その時の私、なんて言ってた?」
「え、バニーガールのおじさんをあと2人集めたら、なんかを始められるとか言ってませんでしたっけ?」
ますます意味分からなくて怖いんですけど。なんでバニーガールおじさんを3人も引き連れないといけないのよ? ガールなのかおじさんなのかどっちよ?
さすがに勝手に仕事進んでてラッキーとか言えなくなってきました。変な趣味あるとか思われたら終わりだからね。なので、私になりすましてる奴をとっ捕まえることにしました。
※ ※ ※
明らかに私本人にしか見えない女が休みの日の会社に現れたんで、突撃しました。週刊誌の記者ってこんな感じなんだろうなって思いながら。
「……バレました?」
全然動じないんです、この女。しかも、声も喋り方も私そのものなんですよ。なに、私って意外と脚長いんじゃない? って思いながら問い詰めましたよ。
「バレるに決まってるでしょ。誰よ、あんたは?」
「ハンニョモポラ星人です」
「いや、そんなこりん星みたいなこと訊いてるんじゃなくて」
「いえ、あの、ホントのハンニョモポラ星から来たんです」
「ホントのとか言われても偽物知らないのよ」
話を聞くと、どうやらハンニョモポラ星人の大半は地球人になりすましてるらしいんです。要は、宇宙人なんです、こいつ。
「鈴木さんは、我々の計算では人間の命を集めるのに効率がいいということが分かりまして。それで、あなたになりすまして色んな人間を集めようかなって思ったんです」
「それはいいんだけどさ、休日出勤とかは労基に目つけられて会社に迷惑かかるからやめて」
「あ、ワタシが人間の命集めてることはノータッチなんですか……」
「あとさ、あんたが作ったファイルは下層のフォルダに入れるとかして分かりやすくしてよ。いつもの同じところに置かれたら混ざって分かりにくいのよ、毎回毎回」
「え、あの……、業務上の注意……? ワタシ、地球人の命集めてんですよ? もしかしたら地球侵略するかもしれないんですよ?」
「そんなことより仕事のミスが多いからさ、後で確認する私の身にもなって。めちゃくちゃケアレスミスだから」
「あ、なんかすみません……」
「あとね、日用品とか色々買っといて欲しいものあるから買い物お願いね。LINEかインスタやってる? それで買い物メモとか出勤日共有しようよ」
「え、あの、その……、ちょちょちょ、ちょっと待ってください! ワタシってこのまま鈴木さんになりすましてていいんですか?
嫌じゃないの?」
「身体が2つあったらいいな〜って思ってたのよ。助かるわ〜」
心の底から思ったこと言ったんですけど、なんかめちゃくちゃ引きつった顔してんです、ハンニョモポラ星人が。
「あの、お言葉ですけど、こういう時ちゃんと侵略者を殲滅しとかないと後で面倒なことになりますよ……。いや、ワタシが言えたギリじゃないのは分かってるんですけど」
「ん? そっちが勝手に私になりすましたんでしょ? 自業自得じゃん」
ハンニョモポラ星人が呆然として立ち尽くしてるんです。大丈夫ですかね?
※ ※ ※
ハンニョモポラ星人って、瞬間移動できたり、身体能力が高いんで重宝するんですよ。私が会社に行くのもマジで月に2、3回とかで済むようになって、趣味に使える時間も増えた上に勝手に労働したことになってるんで最高でした。事件に巻き込まれた時も後を引き継いでもらったりして、めちゃくちゃ気が楽でした。
なんで過去形なのかっていうと、「疲れたので実家に帰らせてもらいます」って書き置き残して逃げられたからなんです。急に週4で働く身体になってなくて体調も崩しましたからね。
さらに最悪なのが、あのハンニョモポラ星人、巻き込まれた事件を全部解決してたんです。そのせいでめちゃくちゃ事件の依頼が届くようになりました。




