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第44話 見え見えのトリックなのに気づかないふりしてる探偵が時給制だった

 いつも探偵の人ってどうやって生活してるんだろうって思ってたんですよ。だって、あんなにややこしい事件に巻き込まれてお金もらってる感じもあまりないじゃないですか。


 でも、給料制の探偵っていうのもなんか趣がないですよね……。



〜 〜 〜



 取引先の事務所に行ったら、なんか警察が集まってまして、また殺人かと思ってたら、すでに探偵も来てるみたいでした。


「被害者は密室の中で背中を刺されていた。しかし、部屋の中から凶器は見つかっていない……。どういうことだ?」


 現場の部屋を覗かせてもらったんですけど、なんか死体に水がぶっかけられてんです。私も事件に巻き込まれまくって勘が働くようになったんで、分かっちゃったんです。


「これって氷のナイフを──」


「うおっほん! あー! これは不可解な状況だ!」


 なんか探偵が私の言葉遮るんですよ。自分ペースでやりたい人なのかなとか思って一歩引いときました。事務所の人たちは事情聴取かなんかで応対してくれなくて……。急に暇になっちゃったし、早く会社に帰りたいんで、サラッと現場見たんです。


 密室とか言ってますけど、ドアの下にちょっと隙間あるし、ドアの内側のサムターンにセロテープの切れ端ついてんです。これ糸使った密室じゃん。いまどきこんなことする人いるんだとか思って、探偵に言ったんです。


「あの、ドアのサムターンにセロテープが……」


 そしたら、探偵が人の目盗んでセロテープ勝手に剥がしてポケットの中に入れちゃうんですよ。なにこいつとか思ってたら、探偵が耳打ちしてくるんです。


「あまり早く事件が片付くようなこと言わないでもらえます?」


「早く片付けて事務所の人と打ち合わせしたいんですよ」


「あと3時間は我慢してください」


「定時すぎちゃうんですけど……」


 なんかみすぼらしい見た目なんですよ、この探偵。きっとあれです、見た目は情けないけど探偵としての能力は高いみたいなギャップのあるキャラで売り出そうとしてるんでしょう。そんなキャラ腐るほどいますよって言おうとしたけど思い留まりました。私は優しい人間なんです。


「あのね、ボクは時給制なんですよ。だから、事件早く終わったら給料少なくなっちゃうの。Switch2買いたいからお金貯めたいんですよ」


「残業代で稼ぐセコい会社員みたいなことしないでくださいよ。人が死んでるんですよ」


「被害者が嫌だって言ったんですか? 言ってないですよね? じゃあ、別にボクが引き延ばしてもいいですよね?」


「なに論破しようとしてんですか。被害者じゃなくて私が早くしろって言ってんの。凶器の件も密室の件も大した謎じゃないんだからさっさと終わらせてくださいよ」


「密室で1時間、凶器で1時間は稼げるでしょうが」


「事件のポイントでカネ稼ごうとしてんじゃないよ。っていうか、さっき証拠隠滅してたの私見てましたからね」


「はい、それ脅迫〜。しかも、ボクが稼げるはずだった時給削ろうとしてるから業務妨害で損害賠償ね」


 いちいち私を論破しようとしてくるんです、こいつ。っていうか、時給制の探偵ってなによ? そりゃ、引き延ばそうとする奴も出てくるわな。結果的にこうやってやばいモンスター生み出してるし。



※ ※ ※



「どうですか、延金(のべかね)探偵?」


「うーん、これは難事件ですねぇ。解決までは少なくともあと3時間はかかりそうですねぇ。4時間とかいけたら嬉しいですねぇ」


 刑事と難しい顔して喋ってるんですけど、こいつ、ただ時間引き延ばそうとしてるだけだからね。嬉しいとか言っちゃってるからね。イラっとしたんで、口挟んじゃいましたよね。


「さっきこの探偵さんが密室は糸使って作り上げたって言ってました!」


「ん? どういうことですか、延金探偵?」


 ここまで言ってるんですから、いい加減、この刑事にも分かってほしいもんですけど、どうやら自分で考えられない人みたいでした。どうりで探偵という皮を被った引き延ばし屋に目つけられるわけですよ。しかも探偵も探偵で、


「いや、どういうことなんですかねぇ……?」


 とか言って知らないふりしてんです。真相より時給ってことですよ。どんだけSwitch2欲しいんだよ、こいつ? 水増しした時給で買ってホントに心が満たされるんですかね?


 このまま探偵のそばにいたら回し蹴りくらいはしてしまいそうなんで、事務所の人たちのところに行くことにしました。



※ ※ ※



「あぁ……どうしてこんなことに……」


 事務所の人が茫然自失なんです。こりゃ、隙を見て打ち合わせってわけにはいかないなーって思いましたね。


「ここに来ている探偵がもう少しかかると言ってましたよ。全然バレバレのトリックなんですけどね」


「え、探偵さんにはもう全て分かってるんですか?」


「分かった上でチンタラしてるみたいですよ」


 私も血の通った人間ですから、あいつが時給稼ぐために時間浪費してるなんてことは言わなかったですよ。いや、言いたかったですけど、言ったらホントに訴えてきそうな狂気じみた目してましたからね。


「き、きっと、探偵さんから犯人へのメッセージなんですよ。『全てまるっとお見通しだぞ』という……」


「そんな仲間由紀恵みたいな感じじゃなかったですけどね。なんというか、ただ引き延ばしてるだけっていう」


「こ、この状況を楽しんでいるんですよ、その探偵さんは……! あえて何も言わずに犯人が苦しむのを見たいんでしょう……!」


「いや、そんなことは──」


「わたし、もう耐えられません。自首してきます!」


「え?」


 なんか勝手に怖がって勝手に決心して勝手に自首したんですけど。事務所に来た時にはよく話する人だったんでびっくりしちゃいました。


 探偵が「なに急に自首してんですか!」って叫んで崩れ落ちてましたよ。犯人より犯人っぽかったです。

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― 新着の感想 ―
一気に読みました!(というか読み上げ機能で聴きました。読むのではなく聴くのでもとてもよくわかる文章で嬉しかったです) 鈴木さんの引き寄せ体質面白すぎます。友だちになりたい。 もう一周読んで(聴いて)き…
やっぱり鈴木さんはお優しい!
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