表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/100

第42話 犯罪予知する人がショボい事件しか持ってこない

 未来の犯罪を予知できる能力があったら、私なら関わり合いにならないところに行きますけど、皆さんはどうなんですかね?


 ただ、未来予知できるなら、それに見合うような事件を教えてほしいもんですよね……。



〜 〜 〜



『あなたにしか事件を防げないんです!』


 急にそんな電話が来たんで、1回切りました。重要な要件ならまたかけてくるでしょうしね。案の定、また電話かかってきました。


『いきなり切らないでください!』


「あ、すいません、つい。で、何の用ですか? 今日は作り置きする日なんで手放せないんですけど」


 相手の話を要約すると、≪結善(けつぜん)()≫っていう新興宗教の教祖が私を名指ししてるそうなんです。どうやらこれから起こる事件を私に防いでもらいたいらしい。


「今回はパスで」


『待ってください! 混乱しているのは分かりますが、あなたにしか──』


「混乱してるからパスしたいわけじゃなくて、作り置きしたいからなんですけど」


 やっぱりこういうタイプってこっちの話聞かないですよね。皆さんこういう時どうしてるんですかね? っていうか、私だけがこんな雑な声のかけられ方してんのかもしれないって最近思い始めました。普通は外堀埋めてから断れないようにしてこういう話って回ってきますもんね。いや、その前になんで私なのよ?


『我々の教祖はあなたをご指名なのです。あなたは選ばれたんですよ?』


「じゃあ、選ばれた私が他の人を選んだらそれも有効ですか?」


『いや、そんなバイトの代わりじゃないんだから……』


 いちいちうるさかったんで、ダメもとで作り置きしてくれたらいいですよっていっちゃいました。まさかのOKが出て、行かざるを得なくなりました。



※ ※ ※



「よくいらっしゃいましたね」


 教祖はなんか豪華な服に身を包んで玉座みたいなところに座ってました。見た感じ、ただのおじさんって感じでした。


「なんか事件を防いでほしいって聞きましたけど」


「そうなのです。何を隠そう、私には世に満ちる悪意をキャッチし、未来に結実する犯罪を予知することができるのです」


「あー、よくある感じのやつですね」


「……多少は驚いていただけると思って、私の力を示したパンフレットを用意していたのですが、さすがは鈴木さんですね」


「作り置きしてくれたのを入れる袋に突っ込んでおいてもらったら大丈夫なんで」


「ほほほ、愉快な方だ。さて、この度、わたくしにはある未来が見えました。そして、それを防ぐのがあなたなのだ、と」


 側近の人が何かを書き記した紙を持ってきたんですけど、そこに「今日の11時、隣町にある体育館前というバス停、恐怖が秩序を乱し、衝突の末に人々は行き場を失う」って書いてあるんです。なんでこういう予言ってちょっとカッコつけてんですかね? っていうか、時間も場所も分かってんなら警察に言えばいいのにねって思いましたけど、だまっておきました。


 時間が迫ってるからとか言われて、側近が運転する車ですぐに現場に向かいました。めちゃくちゃ急かしてくるんですよ、この人たち。こっちはむしろ現場集合でもよかったんですけどね。帰りに作り置き受け取れれば。



※ ※ ※



 なんの変哲もないバス停なんです、体育館前。一緒にいた側近の人がもうワタワタしてるんですよ。ちょっとは落ち着けばいいのに。


「あぁ、時間ですよ……!」


 14時ちょうど、バス停に並んでた男の人が割り込みしたんです。で、それきっかけに喧嘩が始まったんです。まわりの人たちはオロオロしてるんですけど、他に特に何も起こってなくて、側近の人と喧嘩仲裁に入りました。なんとか収まったんですけど、


「防げませんでしたね……」


 とか言って急に側近の人が落ち込んでんです。え、なにが起こったのって思ってたら、側近の人がこう言うんです。


「乗り物に乗る列に割り込みするのは軽犯罪法違反なんです……! くそっ……」


「へ〜、そうなんですか。…………あの、犯罪予知ってもしかして今のやつですか?」


「ええ、状況からしてそうでしょう……」


「ここまでの時間返してもらえます?」


 防げなかった……! みたいな雰囲気出してんのもなんかイライラしました。



※ ※ ※



「犯罪予知するなら殺人とかテロとかにしてほしいんですよ」


 教祖のところに戻って速攻でクレーム入れましたよ。いや、別に殺人とかテロに関わりたいわけじゃないんですよ。でも、予知するからにはそれなりにでかいヤマだと思うじゃないですか。こっちは家で作り置きしたかったの。


「予知には体力を使うのです。大きな事件を予知してしまうと翌日はボーッとしてしまうのですよ」


「いや、その程度なら頑張ってくださいよ。こういう予知は命削ってやるからすごいってなるんですよ」


 なんて忠告してたら、教祖がいきなり目を見開くんです。側近の人がまわりの信者にすぐに指示を出します。


「早く、準備を!」


 教祖は聖火台みたいなところに火を入れて、なんか呪文を唱え始めるんです。トランス状態になって脂汗を撒き散らしながら白目を剥くんですよ。


「きょ、教祖様が新たな予知を……!」


 これだけやってあんなショボい事件しか予知できないなら警察のパトロールの方が良さそうなもんです。いや、まあ、確かに、予知といったら大地震とかでかい出来事しか喋らない奴よりはなんか信憑性高いとは思うんですけと、巻き込まれるとなるとめちゃくちゃ腹立つんですよね。


「はぁっ……はぁっ……、悪意を掴んだぞ……!」


 教祖が精魂尽き果てた感じで床に膝ついてるんですけど、これで出てくるのが割り込みレベルって割に合わなすぎでしょ。この人、実は呪われてんじゃないの?



※ ※ ※



 街角で男が邪悪な液体を散布する……。


 教祖の残した言葉と場所の情報をもとに側近の人と車で向かいました。立ちションしてるおっさんがいました。


「う、うわ、ご、ごめんなさい!!」


 おっさんはおしっこ垂れ流しながら去って行きました。なんでおしっこを邪悪な液体としてんのよ、あの教祖? 巷では聖水っていわれてるの知ってますよ、私。


「た、立ち小便は軽犯罪法違反です……! くそっ、また防げなかった……!」


 なんでそんなに悔しがれるんだよ、この側近? なんで軽犯罪法違反しか予知できないんだよ、あの教祖? 実はこれ犯罪なんですよみたいなのはちょっとしたテレビのワンコーナーに任せとけばいいのよ。


 本部に戻ったら、今日はここまでですとか言われて勝手に終了しました。「また来てくださいね」とか言われて断ろうと思ったんですけど、ここの本部、エステとかマッサージとか整体とか揃ってるんですよ。月一でお願いしたいですね。作り置きしてくれたやつもおいしかったし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ