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第38話 難事件が解決しないからってレンタル犯人が呼ばれてきた

 最近じゃ退職代行が幅を利かせてるらしいじゃないですか。まあ、インティマシーコーディネーターみたいなめんどくさいポジションを誰かにやってもらうってのをみんな望んでたんでしょうね。


 いや、でもね、さすがに犯人はないですよね……。



〜 〜 〜



 雪山にある館って殺人のためにあるんじゃないかなって思うんですよ。なぜならいま私が巻き込まれてるから。


「くそ……! 何がどうなってるんだ……!」


 もう3、4件目とかの密室殺人が起こって探偵が頭抱えてんです。大変そう。っていうのも、凶器見つかってないし、みんなにアリバイあるしで、難事件らしいんです。


「別に急いで解決しようとしなくていいと思いますよ」


「あのね、鈴木さん、この状況であなただけですよ、そんなに落ち着いてるの。早く犯人を見つけないとみんなが犠牲になってしまう……」


 すんごい悩んでます。みんな犠牲にっていうけど、私、誰かに殺されるようなことしてないからなぁ。


 ちなみに、今は部屋にひとりでいると殺されるからみんなでいようっていうフェーズで館の大広間に全員が集まってるんです。こうなると、だいたい停電起こったりして事件起こるんですよね。犯人はもしかしたら緊張してるかもしれないですね。ご苦労なことですよ、ホント。



※ ※ ※



 これは私もめっちゃ意外だったんですけど、大広間のでかいシャンデリアが直撃して1人死んじゃったんですよ。それもその人がちょっとテーブルから離れた瞬間なんです。そういう方向性でくるのねって思ったんですけど、みんなはもう阿鼻叫喚ですよね。探偵なんか膝ついて途方に暮れてましたよ。


「なんで……なんでなんだよぉ!!」


 物語の起伏でいうと一番底みたいな感じになってるんです。別にわざわざ物語に底作らなくていいと思うんですけどね。


「あの、大丈夫ですよ。だんだん事件も終盤に向かってる感じしますよ。もうちょっと我慢しましょう」


「なんであなたはずっと余裕そうなんですか……」


「焦ってもしょうがないですからねぇ」


 探偵は愕然としてもう絶望に満ちた目してんです。あー、こりゃやばいかもなーなんて思ってたら探偵が急に床にどでーんと座り込んじゃったんです。


「あ、自暴自棄モードに入っちゃいました?」


「もうレンタル犯人呼びます」


 耳を疑いましたよね。皆さん私から何回もこの言葉聞いてると思うんですけど、こればかりは今年度で一番耳を疑いましたよ。ベストオブ耳疑いノミネートです。


「レンタル犯人? なんです、それ?」


「レンタル犯人です」


 それがなんなのって聞いてるんですけどもう答える気力もないらしいです。スマホでどっかに電話してんです。連絡できても誰もここに来れないんですけどね。



※ ※ ※



 玄関を開けたら猛吹雪の中にめちゃくちゃ平凡な男の人が立ってるんです。


「あ、どうもー、レンタル犯人でーす」


 なんかめちゃくちゃライトなノリなんですよ。いや、まずレンタル犯人ってなによ? っていうかどうやってここまで来たのよ?


「いやー、遭難するかと思いましたよー!」


 とか言いながらレンタル犯人が大広間の死体眺めてんです。


「あー、派手にやられてますねー」


「他にも密室で何人かやられててアリバイとかもないんですよ……」


「あー、なるほど。クローズドサークルですもんねー」


 探偵が査定依頼の人みたいに状況説明してるんです。関係者のみんながなんだなんだみたいに集まってきます。いや、ホントになんなんですかね? 探偵がやっと紹介してくれます。


「こちらレンタル犯人さんです。あの、もう事件難しいんで、こちらを犯人ということにしますんで」


 世の中いろんな仕事あるんですね……とか思う余裕なかったんで探偵を問い詰めちゃいましたよ。


「いやいや、それでいいんですか? だってその人、犯人じゃないでしょ」


「いや、まあ、事件ムズいんでね」


 そんなゲーム感覚で解決編スキップするとかいう荒技が存在するなんて思いませんでしたよ。私が犯人だったら絶対名乗り出ちゃうよ。せっかく考えた事件ですからね。でも、この事件の犯人はえらいですね、名乗り出てこないんですよ。いや、えらいのか分かんないですけど。


「このタイプの殺人だと、ちょっとエグい感じの動機でもいけそうなんで、そういう感じで締めますねー。トリックなんかは解けた感が出てれば問題ないんで、もうやっちゃいましょうかねー?」


 軽く打ち合わせしてなんかぬるっと解決編始まるみたいです。難事件が泣いてますよ。真犯人もこんなことで完全犯罪達成できても不完全燃焼だから、また頑張って難事件考えてくれることでしょう。2作目のプレッシャーに勝てるかな?



※ ※ ※



「あいつらは聖書に登場する裏切り者の遺伝子を受け継いでいたんです……! 僕はそれが許せなかったんです!」


 なんか壮大な動機を語り出して泣き崩れるんです。レンタル犯人なんですよ、この人。迫真の演技すぎてもうこの人が犯人でいいか、みたいな空気が大広間に満ちちゃってんです。真犯人の気持ち考えると複雑ですよね。自分の動機の方がショボかったら言い出せないですよ、これ。


「どんな理由があろうとも、人の命を奪ってはならない」


 探偵がカッコつけてめちゃくちゃ普通のこと喋ってんです。薄っぺらすぎて笑いそうになりましたよ。それでもレンタル犯人はプロなんで、恨めしい顔で探偵を見るんです。


「あんたさえ、あんたさえいなければ……僕の犯罪は完成したのに……!」


「まあ、このわたしがいたことを悔やむんですね」


 黙れよ。さっきまで頭掻きむしってたくせに。とか思ってる間にもうなんか事件解決したみたいな空気が漂ってるんです。


「はい、じゃあ、これで事件解決。めでたしめでたしということで皆さんどうかひとつ」


 みんなも、解放されたーみたいに伸びとかしてんです。ホントの犯人がこの中にいるのに。探偵がみんなの前で生々しく代金払ってるし……。8万5000円らしいです。高いか安いか分かんないけど。私はレンタル犯人が気になっちゃったんで色々聞いてみたくなりました。


「この仕事やられてどれくらいなんですか?」


「もうかれこれ2年くらいになりますかねー。たまに真犯人の方からお歳暮とかくるんですよ」


「あ、殺人犯とかでもそういう礼儀はわきまえてるんですね」


 そこちゃんとしてるなら人殺すなよって思いますけどね。


「でもあれですね、よくこんな吹雪の雪山の館に来られましたね」


「まあ、色々あれなんでね」


「実は事件の時、ここにいる人たちはみんなアリバイあったんですよ。レンタル犯人さんが館の近くにいたらアリバイないよなーなんて思ったんですけどね」


 レンタル犯人が私をジッと見るんです。


「バレました?」


 レンタル犯人がマジの犯人でした。事件が起こりそうなところで待機する生活を続けてて頭おかしくなっちゃったらしいです。その動機語る時めっちゃ淡々としてるんです。さっきの演技なんだったんだよ? っていうか、レンタル犯人が犯人じゃダメでしょ。いや、そういうルールとかには詳しくないけど、なんとなくそうじゃん。


 しかも、探偵が自分の手柄にしようとしてて、関係者のみんなから袋叩きに遭ってました。

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