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第37話 ヒントをもとに事件を防げとか言われてめんどくさがってたら犯人が全部教えてくれた

 皆さんのまわりの殺人鬼は探偵役にヒント与えて事件を解決させようとしてませんか? あれ、相手に時間的な余裕がある時にやった方がいいって教えてあげてください。


 先日はそんな殺人鬼のせいで待ち合わせやばかったんですよ……。



〜 〜 〜



 私は雨が上がりの街を走ってたんです。10年来の女友達の頼光寺(らいこうじ)と待ち合わせしてたので。で、ショートカットで小さい公園を突っ切ろうとしたんです。視界の隅に真っ黒な封筒がチラッと目に入っちゃったんです。


 私って好奇心は人並みにあるんですよ。つい公園のベンチの上のその封筒を拾ってみたんです。中から切り取られた耳が出てきました。あー、また誰かなんかやってんのかなんて思ってたら、すぐ近くの公衆電話が鳴るんですよ。いまどき電話ボックスって珍しいね。


 こういう時って十中八九、私が封筒拾ったのを確認した犯人が電話かけてきてんです。だから、ちょっと泳がせてみました。あっちは私がすぐに電話とると思ってますからね。そうは問屋が卸さないってことを教えてあげた方がいいんです。


 2、3分電話鳴るの見てたんですけど、なかなか強情な犯人らしくて、根気よく呼び出し続けてるんです。その心意気に敬意を表して電話に出ることにしました。


「もしもし?」


『早く出てくれよ!』


 若めの男の声でした。案の定、イラついてたみたいです。愉快なもんです。


「すいません、めんどくさくて……」


『切り取った耳が入ってたの見なかったのか?』


「入ってましたよ。見た上でめんどくさかったんで……」


『なんでそんなに響いてないんだよ……? まあいい。その耳の持ち主が今どんな状況か分からないわけじゃあるまい。その封筒の中に同封されているヒントをもとに耳の持ち主を助け出せ』


 封筒の中には1枚の紙が入ってるんです。なんかの数字の羅列が印刷されてました。このためになんか趣向凝らしたのかな? でも、ちょっとめんどくさそうでした。


「これから友達と会うんですけど、その子と一緒にやっていいですか?」


『ダメに決まってんだろ! この導入で友達と一緒とか聞いたことないでしょ。ひとりじゃなきゃダメ』


「……雨やんでからそんなに経ってないじゃないですか。封筒濡れてないってことはわりと近くにいるんですか?」


『俺を分析するな。お前はヒントをもとに耳の持ち主を探すんだよ』


 ゲームマスター気取りってわけです。この手の人たちってこっちの話あんま聞いてくれなかったりするんですよね。


「これっていつまでに終わります? 私、待ち合わせしてるんです。さっき言ってた友達なんですけど」


『いつまでとかないから。クリアするまでだよ。待ち合わせに間に合わせようとしてんじゃないよ』


「そんなこと言われましても……。この数字ってなんですか?」


『だから、それをお前が考えるんだよ! いいのか? チンタラしてたら耳の持ち主が死ぬぞ?』


「うーん、じゃあその方には申し訳ないですけど、ギブアップということで──」


『もっとがんばれよ! 数字の意味分かったら先進めるんだから』


 いまさらながらに封筒拾わなければよかったなって後悔しました。なんかあるかもとは思ってたんですけど、思いの外に時間がかかるやつだったんで、急にやる気なくなってきたんです。テレビの番組観てる時も、このくだり終わったらトイレ行こうとか思ってたら意外と長くて、さっさと終われよって思っちゃうことあるじゃないですか。あれと同じ感じです。


「ヒントないですか?」


『クイズ出してるわけじゃないんだから、自分で考えろよ……』


「うーん……」


『え? あのさ、ホントに切り取った耳入ってるの見てるんだよね?』


「見たって言ったじゃないですか」


『なんでちょっとキレてんだよ……。なんで取り乱さずにいられるんだよ……。お前、変だよ』


「ヒントヒント。手がかりくらいくださいよ」


 頼光寺って意外と時間にうるさいんですよね。遅刻すると5年後とかでも新鮮に思い出してイラついたりするんで遅れたくないんですよ。犯人がため息ついてます。やっとヒント言う気になったみたい。


『その数字はある場所を示してる』


「その場所とは〜?」


『言わせようとしてんじゃねーよ! はい、ヒントあげたから考えて』


「これって他の人に続きやってもらうことって可能?」


『んなわけねーだろ! しかも、お前まだ何もやってねーだろ。ひとりで抱え込めよ』


「ひとりで抱え込むなっていうふうに親から教育受けて生きてきたもんで……」


『いい親だね! じゃあ、これ最終ヒントだから。その数字は緯度と経度です』


「はー、なるほどねー。で、その場所は?」


『だからー! お前が答え導き出すんだよ! もうほとんど俺がやってるじゃねーか!』


「緯度と経度とか言われても分かんないんですよね……」


『検索すれば出てくるから黙って調べろよ』


「いまちょっと充電少ないんですよ。頼光寺と行くお店がスマホで注文するタイプだから充電なくなるとキツイんです」


『この後の予定を考慮に入れてんじゃねーよ。じゃあもう分かった、場所言うから早くそこ行ってくれ!』


 出ましたよ、こっちのスケジュールガン無視人間。私、頼光寺と待ち合わせしてるって言いましたよね?


「あの、ごめんなさい。ちょっと行けないです。待ち合わせしてるって言ったでしょ?」


 パスしたいって言ってるんですけど、なかなか言うこと聞かないんですよ、こいつ。どうしようかなって思ってたら、電話ボックスのドアがノックされたんです。外に警官が立ってるんです。


「近所の方から公衆電話で騒いでる人がいると通報があったんですけど、何されてますー?」


 警官に電話を渡して続きやってもらうことにしました。待ち合わせしてるんでって言って退散する時、電話の向こうの犯人が警官に「君はなんだ」とか詰められてて笑えました。


 頼光寺、待ち合わせ時間に遅れてきました。14時と午後4時間違えてたらしいです。さっきの犯人に悪いことしちゃいましたね。

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