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第36話 真実を告げる神託が下りてきたんだけど上から目線すぎて喧嘩した

 突然、真相が閃いて事件を解決する人ってよくいますけど、あれ、自分で考えてるからいいんであって、勝手に真相が降りてくると最悪なもんですよ。


 この前、会社のミーティング中にそれが来てマジで血管ブチ切れるかと思いました。



〜 〜 〜



 売り上げっていうシビアなテーマだとミーティングってピリピリするじゃないですか。分析と対策を発表してるのをジッと聞いてたら、急に声が聞こえてきたんです。なんか渋いおじさんみたいな感じのやつが。


『汝、今こそ立ち上がり、真実に向かう時』


 最初、会社の外に右翼の街宣車がいるのかと思ってたら、会議室のみんなが無反応すぎて、私だけ聞こえてる? ってなったんです。


『汝、そなたは選ばれたのだ。真実を追究する者として』


 めちゃくちゃうるさいんです。頭の中にガンガン響いてくるんです。分析を発表してる人も声を大きくしたりしないから、これはさすがに私だけに聞こえてるなって確信しましたね。


 とりあえずうるさいんで、心の中で抗議しときました。


(あの、いま会議中なんで静かにしてもらえます?)


『汝よ、聞こえるか?』


(だから、うるせーって言ってるでしょうが)


『汝、崇高なる神託を無下にすることなかれ。応じよ!』


 こういうタイプの声掛けで心の声に反応してくれないことあるんだと思いながら、頬杖ついて口元を覆ってめちゃくちゃちっちゃい声で応えましたよ、うるさいんでね。


「聞こえてます。いま会議中だから静かにして」


『ようやっと神託が通じたか。汝、そなたに真実を告げる。心して聞け』


「いや、だから、会議中だって言ってんでしょ。後にして」


 テーブルの向こうで部長がこっち見るんです。


「ん? 鈴木、何か意見があるのか?」


「いえ、なんでもないです!」


 すると、謎の声がボリュームを上げてくるんです。


『なんでもない、とは何事だ? 汝は選ばれた。その使命に応える義務があろう』


 あんたに言ったんじゃないんですけどね。なんでこっちのシチュエーションガン無視で神託下してんだよ? っていうか、心で会話できるようにしろや。仕方なく、めっちゃちっちゃい声で返しました。


「あのね、いま会議してんの。神託下すくらいならこっちの状況理解しなさいよ」


『なんだ? そのコソコソとした声は? もっとはっきり大きな声を発せよ! それでも汝は選ばれし者か?!』


 いや、そっちが勝手によく分かんないキャンペーン打ってきてるんでしょうが。いまどき迷惑メールだって奇抜な設定投げかけてくるよ。それに比べたらマジで無策すぎ。


「だから、会議中で声出せないんだってば」


『汝、これは神託であるぞ。何よりも優先すべき事柄である』


 知らないのよ。はっきり言って会議の方が100倍大事だからね。私の給料にも関わってくるんだから。神託で給料出ないでしょ。


『もうよい! こちらから真実を告げる! 汝のような不躾な者が選ばれたことはたいへん遺憾であるぞ!』


 じゃあ別の人にしてよ。私じゃなくていいから。不躾なら相応しくないでしょ。っていうか、お前に選ぶ権利ないんかい。お前がトップじゃないんかい。もしかしてこういう神託ってトップダウンでやってんの?


『これより24時間後、ひとりの男が殺される。その死によって、世界は激変するであろう』


 なんでよりによってそんなめちゃくちゃでかい事件を私に押しつけんのよ? もっといたでしょ。ジャック・バウアーみたいな人が。ちょうど24時間だし。


『汝の手に世界の命運は握られている……』


 ちょっと我慢ならなかったんで、トイレに行くと言って会議室出ましたよね、さすがにね。



※ ※ ※



「あのさぁ、さっきから黙って聞いてりゃなんか色々押しつけてるけど、やらねーから!」


『な、なんだと?! な、汝、これは神託であるぞ!』


「だから、会議してるって言ってんでしょうが! 世界の命運とか握らせてんじゃないよ!」


『こ、この小娘! なんだ、その言い方は! 普通、こういう神託が下ったら使命感抱いて立ち上がるもんなの!』


「だからー! 別の奴にしろって言ってんの! 私は不躾なんでしょ?! もっと言うことホイホイ聞くような奴にすればいいじゃん!」


『なーに神託をめんどくさいお遣いみたいに言ってんだ、この小娘! 聞いてたか? 世界が激変しちゃうんだって! お前が止めるんだよ!』


「暇な奴いくらでもいるから! 私、会議なの! だいいち世界激変するわりになんで24時間前に言ってくるんだよ。もっと早く言えばいいじゃん。なんでギリになってから言うの? あれか? 夏休みの宿題最終日になってから泣きながらやるタイプだ?」


『あのね! ネタバレになるから言わなかったかけど、このままだと第3次世界大戦が起こるんだよ! だからこうやって未来からお前に声掛けてんの! お前だけが大変だみたいに言ってるけど違うからね!』


 なんかめちゃくちゃ言い返してくるんで私も頭に来ましたよね。普段こんなことないですけど、さすがに頭の中に直接話しかけられたらキレますよ、私だって。


「じゃあ世界滅べば? 別に私それでもいいけど? あんたが人選ミスったせいで世界崩壊だね。あんたのせいだね、おめでとー!」


『あーあ、デルポイじゃ神託下ろしたらみんなありがたがったけどねー! お前にはこのありがたみ分かんないかー! 選ばれし者としてのプライドとかないかー! 理解できなさそうだねー、この崇高さがねー!』


「デルポイっていつの話だよ? 紀元前でしょうが! 時代は変わってんだよ。今の時代にアジャストできないお前が悪いわ! ただの老害じゃん!」


『お前が断ったから世界が終わりましたってみんなに言いふらしとくわ! 未来でのお前の評価最悪になるよー! こっち来たら顔面蹴られても文句言えないねー!』


「未来行く予定ないからどうでもいいわ! 勝手に内輪で盛り上がってれば?」


 よく考えたら、なんか前にも未来から来た奴が最低な奴だった気がするんですけど。未来ってやばい奴しかいないんですかね? しかも、そいつも未来がやばいとか言ってましたよ。未来終わりすぎ。


 もうイラついたんで、無視して会議室に戻ることにしました。戻って来た私が相当やばい顔してたんでしょうね。部長が小さく「ひっ……!」って怯えてました。


 神託の声なんですけど、無視してたら聞こえなくなってました。皆さんも面倒な神託が下ったら無視した方がいいですよ。諦めて他に行くみたいなんで。

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