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第33話 不死身の探偵がいくらでも生き返る上に死に慣れすぎてて悲壮感のかけらもない

 皆さんのまわりにも死なない人っていると思うんです。そういう人ってゲームみたいに何回も死んで困難を乗り越えていくじゃないですか。


 でも、あまり死に慣れてると、死なないっていうメリットも価値なくなるんでウソでも死ねる回数に制限あるとか言っといた方がいいです……。



〜 〜 〜



 私って旅行好きなんです。心を癒したいんでね。でも、たいてい事件に巻き込まれるんですよ。今回もとある島のホテルでゆっくり過ごそうと思ったら船が破壊されて電話もネットも繋がんなくなっちゃったんです。


 ホテルってのがヨーロッパの古城を移送してきたやつで雰囲気あるんですけど、まあ、殺人の舞台になりますよね。ってことで殺人が起こったんです。


 被害者が死んだ時間、ホテルのいた人にはアリバイがあったんです。


「なんか難しい事件っぽいですね」


 何人かと事件の話してたんですけど、その中のひとりの青年が話し始めたんです。


「今から僕が容疑者全員を訪ねて行って犯人だって言ってきますよ!」


「そんな虱潰しで解決するものなの? 返り討ちに遭わない?」


「返り討ちに遭ったらその人が犯人だって確定しますよ!」


 めちゃくちゃ明るい感じで言ってくるので、分かったーって言いそうになったんですけど、よくよく考えたらやばいこと言ってるんですよ、この青年。


「いや、あのさ、それだとあなたが死んじゃうでしょ。そんなことさせられないわけよ、こっちは」


「大丈夫っすよ! 僕、殺されても生き返れるんで!」


 話聞くと、今まで何回か死んでなんともなかったらしいんです。いや、死んだことはなんともなかったのうちに入らないでしょって思ったんですけど、そういうことらしいです。しかも、この青年、信じてもらおうとしていきなり目の前で死んで生き返って見せたんです。正直ドン引きです。


「ね、大丈夫だったでしょ?」


「生き返れるのは分かったけど、もうちょっと血が出ないやり方なかった……?」


 青年が首を切ったせいで床が血だらけなんです。服も血まみれで。でも、着替え持ってきてるんでーとか返ってくるんです。そういうことじゃないんだけどね。一緒にいた元FBIの男も困り果ててましたよ。こんな不死探偵がいなかったらこの元FBIがメインの探偵だったろうに。


「お前、普通そういう能力は死にながらちょっとずつ情報を集めていくために使うもんだろ。能力の使い方が脳筋すぎるぞ」


 なんで不死の力にあるあるがあるんだよって思いましたけど、通ぶって黙ってました。でも確かに死なない力をアグレッシブに使いすぎだよね。



※ ※ ※



 その日の夜、不死探偵がホテルのボイラー室で背中を刺されて殺されてるのが見つかったんですよ。元FBIが死体に駆け寄ります。


「やっぱり無茶だったんだ……! お前の仇を必ず──」


「いやー、分かりましたよ、犯人!」


 血だらけのまま不死探偵が立ち上がって、元FBIが悲鳴上げてました。いや、さっき生き返ってたの見てたでしょ。


 不死探偵と一緒にその犯人のところに行きましたけど、マジで幽霊でも見たような顔してて笑えました。一応ここもクローズドサークルなんで、鍵のかかる部屋に犯人を監禁して、迎えの船が来るのを待つことにしたんです。


 この手のシチュエーションの事件にしてはめちゃくちゃ楽勝でした。



※ ※ ※



 次の日の朝、ホテルの中庭にある銅像の剣に刺さった死体が見つかりまして、元FBIが愕然としてんです。この人はずっとクローズドサークルの登場人物をまっとうしてて好感が持てますね。


「犯人は部屋に閉じ込めておいたはず……! それに、どうやってあんなに高いところにある剣に死体を……」


 またしても不可能殺人ってやつが起こっちゃったんです。今回の事件の犯人、かなり気合い入れてるんでしょうかね?


「おかしいっすねー! 僕を殺したってことはあの人が犯人だと思ったんですけどね!」


「この事件はそんなに簡単じゃなかったってことだ……!」


 不死探偵の脳筋メソッドで事件が速攻片付かなくて元FBIはちょっと嬉しそうです。それでも不死探偵はめげてないんですよ。


「わっかりましたー。じゃまた後で容疑者に鎌かけて殺されてきますんで!」


 とか言って手を振りながら中庭を飛び出していくんです。


「あんなにカジュアルに殺されに行く奴、俺は初めて見たぞ……」


「奇遇ですね、私もです」



※ ※ ※



 不死探偵の死体がホテルのゴミ集積所で見つかったんです。しかも、ご丁寧にバラバラにされてんです。


「これ、どうやって元に戻るんですかね?」


 って私が疑問を口にしたんですけど、元FBIは信じられないものでも見るような目で私を見るんです。皆さんも気になりますよね?


「君……まずバラバラ死体を前になんでそんな冷静なんだ……?」


「ああ、すいません。見慣れてるんで、こういうの」


 すると、バラバラの死体がぐちょぐちょしながらひとつに寄り集まって元の形に戻るんです。


「う、これはキモい……!」


 元FBIが吐きそうな顔してんです。確かにこれじゃあ不死探偵ってよりは、ただの超回復するモンスターの類ですよね。


「今回はかなり念入りに殺されちゃいましたー!」


 殺されたとは思えない口振りで不死探偵が起き上がります。私もこれくらいポジティブなら人生もっと楽しめたかもしれません。


 ってことで、今回も不死探偵を殺した犯人を鍵のかかる部屋に閉じ込めたんです。2人の犯人がもう怯えた顔してんです。


「こ、こんなバケモンと一緒にいられるか! さっさと鍵閉めてくれ!」


 とか言ってすすんで部屋に引きこもるんでこっちとしてはありがたかったですね。バケモンって言われて傷ついてないかなって思って不死探偵見たら、めっちゃ笑ってました。



※ ※ ※



 自分の部屋でくつろいでたら、不死探偵からLINEが来たんです。


『鈴木さん! 別の犯人に捕まっちゃいました!』


 自撮りの写真がついてて、身体中に爆弾巻かれてんです。こんな状況でよく写真撮る余裕あったね。でも、こりゃまたさらに念入りにやられたなーと思って元FBIの部屋に行ったんです。


「見てくださいよ。また捕まってるんです、あの不死探偵」


 LINEの写真を見せると、元FBIが難しそうな顔をするんです。


「捕まってる以前にすごい量の爆弾じゃないか! 悠長なことを言っていられないぞ。これなら人間など粉々になってしまう……!」


 粉々になったら今度こそどうやって元に戻るのか俄然興味出てきちゃったんですけど、その時、離れたところにある塔の最上部がいきなり爆発して吹き飛んだんです。


 あー、今度こそ終わったか? なんて思ってたら煙がモクモクと集まって人の形になっていくんです。駆けつけた頃にはすっかり元の不死探偵に戻ってるんです。


「裸なんでそんなジロジロ見ないでもらえますー?!」


「裸だから見てるわけじゃないんですよ。魔人ブゥみたいに復活したから見てるんです」


 適当にその辺に吹き飛んで落ちてたカーテンか何かを渡してやりました。それにしても、人ひとり殺すのに爆弾まで用意するとは気前のいい犯人ですよね。なんて思ってたら、ホテルの宿泊客が何人かやってきて叫んでるんです。


「な、なんで死なない?!」

「確かに爆弾まみれにしたのに……。しかも予備のやつも一緒に」

「なんなんだ、こいつ……」


「あ、この人たちですよ、犯人!」


 後で聞いたら、この犯人たちは不死探偵を探し出して葬り去るために集まったらしいです。ちょくちょく起こってた殺人もその一環らしい。元FBIは不死探偵を守るためにいたんですって。死なないんだし守る必要なかったよね、とは言えませんでした。


 とりあえず、犯人も含めてみんなで不死探偵は殺せないってことで意気投合して、迎えの船が来るまでトランプとかして過ごしました。


 っていうか、私だけがこの狂った場所にただ居合わせただけなんですけど、どんだけ悪運強いんですか、私?

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― 新着の感想 ―
 不死身の探偵、比喩じゃなくて文字通りなのですね。そのうち彼の肉体の秘密を暴いて不死の夢を叶えようと目論む輩が湧いてきそうですね。或いは既に鈴木さんの知らない所で壮大なバトルが繰り広げられているのでし…
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