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第28話 対テロ特殊部隊だった保安検査員がテロの前兆に敏感すぎてもはや反乱分子

 飛行機乗る時の保安検査って緊張しますよね。あのゲート通り抜ける時なんてもし鳴ったらどうしようなんて思いますもん。


 危険を取り除いてくれるのはいいんですけど、この前は無駄に熱い保安検査員に出くわしました……。



〜 〜 〜



 台湾でのイベントに会社が参画するので、チームのみんなと国際線で向かうことになったんです。保安検査で時間がかかってるみたいで、かれこれ30分くらい列に並んでたんです。


「向こうでの対応、しっかり準備しないとですね」


 隣の後輩がこの時間を利用して資料を確認してるんです。いい後輩に育ってるな〜なんて思ってポイントの確認してました。


「向こうの人はきちんとロジックを積み重ねないと納得してくれないから、メリットとデメリットを提示できるようにしたいね」


「そうですね。ちゃんと理論武装しておかないと……」


 その時なんです。向こうから大きな声が聞こえたんですよ。


「おい、なんだ、今のは!」


 屈強な保安検査員がこっちに向かってきます。え、なに? と思ってると、その保安検査官員が後輩に詰め寄るんです。


「いま、『武装する』と言ったな? 武器を持っているのか!?」


 うわー、なんかまた変な奴に絡まれました。日頃から変な奴に出くわすもので、私は平気なんですけど、チームのみんなはアワアワしてんです。


「あの、この子は理論武装すると言っただけなんで、大丈夫です」


 私が説明すると、ギロリと睨まれます。こいつ、空港職員だよね? めっちゃ上から目線じゃね?


「なんだと? 本当に武装してないのか? 理論というのは武器の隠語じゃないのか?」


「そんなわけないでしょーが」


「ふむ、そうか。私は前職で対テロ特殊部隊に所属していた。その頃の名残で危険には敏感なのだ」


「めちゃくちゃ致命的な悪影響出てるじゃないですか。敏感とかの問題じゃねーよ」


「武器は持っていないんだな?」


「持ってないです」


「そうか、すまないと思っている」


 なんでジャック・バウアー気取りなんだよ? 保安検査員は鋭い目をまわりに向けながら行ってしまいました。なにと戦ってんのよ? 元対テロ特殊部隊だとしても、理論武装を警戒するって、ネットの匿名掲示板で論破された暗い過去でもあるのかな?


「鈴木さん、助けていただいてありがとうございます……」


「全然いいよ。ああいう頭おかしい奴の対応は慣れてるから」


「かっこいいです……」


 例の保安検査員がまた他の人に突っかかってるのが見えます。


「おい、お前、いま、弾丸と言ったか?!」

「いや、台湾に弾丸旅行って話してただけなんですけど……」

「武器の密輸に手を染めてるんじゃないだろうな?!」


 もうめちゃくちゃなんです。元対テロ特殊部隊か知らないけど、敏感すぎなのよ。敏感すぎて仕事に支障出てるじゃん。空港は早くあいつをクビにした方がいいよ。



※ ※ ※



 チームのリーダーは課長なんですけど、年がら年中、身体のどこかを痛めてんです。ずっと待機列に並んでるせいか、膝を押さえてんです。


「課長、大丈夫ですか?」


「ああ……、昔アメフトやってた時、怪我しちゃってねぇ……膝に爆弾抱えてんだよね……」


「あ、ダメです、課長!」


「膝に爆弾を隠し持ってるのか!」


 でかい声がするんです。あー、あのバカに聞かれてたかぁ……。


「みんな、慌てるな! 危険を確認するまで勝手に行動するなよ!!」


 言われなくても待機列のみんなは静かにしてるんです。もうあの保安検査員のこと100でシカトしてんです。ウチのピュアな後輩が心配げに見てるんですけど、あんなアホは放っておいていいよって言いそうになりました。


「あの人、前職で何があったんでしょうか……」


「たぶん、日本の平和を守ってたんだよ。その頃の熱量だけが残った抜け殻みたいなもんでしょ」


「ああ、ラピュタのロボット兵みたいな……」


「そうそう、切ないよね。ああやって日々、戦いの火蓋を切らずにいられないんだよ」


 そしたら、保安検査員がこっちを睨みつけてきます。


「お前、火蓋と言ったな! 火縄銃を持っているのか! それに、兵とも聞こえたぞ!」


 あとで知ったんですけど、火蓋って火縄銃の火皿を覆う蓋のことらしいんです。どこに火縄銃でテロ起こそうとする非効率な奴がいるんだよ? もうね、1時間くらい待ってたからイライラしちゃって喧嘩買っちゃいましたよね。


「火縄銃準備する暇あるならもっといいやつ調達するわ!」


「なに?! 銃の密輸か、お前!」


「そんな取り締まりたいなら戦国時代に行って織田信長捕まえてこいや!」


 騒ぎを聞きつけたのか、別の保安検査員が駆けつけて来たんです。


「おい、なにしてる!」


「安心してください。火縄銃部隊が──」


「またバカみたいなことしてんのか!」


 先輩の保安検査員なんでしょうね、なんかもう呆れ顔なんですよ。でも、バウアー保安検査員も食い下がるんです。その信念、別のところで使えよって話ですよね。


「ただ、対テロ特殊部隊では──」


「いつまで熱湯に浸かってるんだよ。ここはテロの最前線よりはぬるま湯だから」


 ぬるま湯に浸かれってどんな注意よ? それからも屈強な保安検査員がめちゃくちゃ怒られてんです。こいつは保安検査員の永遠の秘密兵器にしておかなきゃいけない存在ですよ。自分が兵器だと分かったら、どうするのか見ものですよね。


 保安検査終わった頃に飛行機が悪天候で欠航になりました。クソです。

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― 新着の感想 ―
理論が武器の隠語のくだりで爆笑しました。
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