最終話 絶対にターゲットに当たる弓矢で刑事たちが遊んでた
不思議な力のある凶器なんかが出てくると、すぐに探偵が出てきてパズルのピースみたいに扱い出すじゃないですか。なんで毎回都合よく得体の知れない凶器がパズルのピースとして機能するんだろうってずっと思ってたんです。
でも、先日、不思議な力のある凶器なのに全然パズルのピースになってないのを見てちょっとホッとしました。無駄に不思議な力があるの凶器もあるんですね……。
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捜査一課に特殊任務係っていう無能が集められた部署があって、トクニンって呼ばれてるんです。たぶん皆さんはもう忘れてると思いますけど。そこの節穴刑事ってのが久々に連絡寄越してきたんですよ。
『面白いものが見つかったんで見に来てください』
いつも伝えてるつもりなんですけど、私、一般人なんですよ。それなのになんで私を呼び出すことに疑問を抱いてないのかめちゃくちゃ疑問なんですよね。でも、この手の連絡を無視してると職場に電話までかけてくるんで、仕方なく警察署に行きました。
※ ※ ※
「この前、リニア新幹線の開通式で凶悪事件が起こったじゃないですか〜」
出迎えてくれた節穴刑事が話しかけてきました。
「そんなことありましたっけ」
「めちゃくちゃニュースになってましたよ。生中継もされてたじゃないですか」
「あー、なんか犯罪者のバーゲンセールみたいなやつですか」
事件なんて腐るほど起こってるんで忘れてました。とか考えてたら、節穴刑事が深刻な顔してんです。
「今、僕たちトクニンは存亡の危機に瀕してるんですよ」
「そうなんですか。早めに滅んでもらえると税金が無駄にならずに済むんですけど」
「鈴木さんが悲しむのも無理はないですよね……」
「むしろ喜んでたの聞こえてなかった?」
「あの開通式の事件は裏でブラックマンバという闇の組織が暗躍していたと言われているんですよ。上層部からはブラックマンバをやっつけなければトクニンの命はないと思え、と言われました」
闇の組織をやっつけろって子供向けのコンテンツじゃないんだから。っていうか、そんなミッション課すってことはトクニン潰しが始まったみたいですね。いい判断だと思います。
「だから、僕たちトクニンのみんなは今、燃えに燃えているんです」
そうでした。こいつら、死ぬほどポジティブな連中なんでした。
「そのまま燃え尽きればいいのに」
「まあ、それはアレとして、面白いものが見つかったんで鈴木さんに見せたかったんですよ」
「トクニン存亡の危機感持てよ」
※ ※ ※
なんか分厚いスーツに身を包んだ木偶野警部が出迎えてくれたんですけど、そのスーツに矢が刺さってんです。一応この人トクニンのリーダーなんですけど。
「やあ、鈴木さん、よく来たね」
「何してんですか」
「とある事件で用いられた特殊な凶器の調査を行っているんだよ」
とか言って木偶野警部がなんの変哲もない弓矢を持ってきました。
「ターゲットを念じて放つと必ず命中する弓矢だ」
なんか節穴刑事がいつもと違うところに私を案内するなーとか思ってたんですけど、警察の裏での倉庫の中に色々設営されてんです。木偶野警部が嬉しそうに言います。
「今からこの弓矢が我々の作った迷路を抜けてターゲットに刺さるかどうか実験するぞ」
トクニンの他のみんなもなんかニコニコしてるんです。なんかこの人たち楽しんでるよ。
※ ※ ※
「じゃあ、行きますよー!」
節穴刑事が合図を送ります。すると、迷路の中から木偶野警部の声が返ってきます。
「いつでも撃ってこい!」
節穴刑事が弓矢を構えて叫びます。
「木偶野警部、死ねえ!」
なんかやけに念のこもった掛け声と共に矢が発射されて迷路の中にすっ飛んでいきます。ちょっとしてから、木偶野警部のこえがします。
「うお、刺さったぞ!」
トクニンのみんなが歓声あげてます。アトラクション気分じゃん、もう。迷路から出てきた木偶野警部は分厚いスーツに刺さった矢を抜きながら出てきました。
「いやー、これは面白いなー」
楽しんでるじゃん。どこが調査なんだよ? よく分からないけど、特殊設定ミステリなら推理の材料とか集めろよ。
※ ※ ※
次にまた大掛かりなセットが出てきます。ふたつの大きな枠にはめられたパネルには⚪︎と×がでかく書かれてます。
「これから⚪︎×クイズを出す。正解だと思う方のパネルを破ってもらう。正解なら何もないが、不正解ならパネルは超合金で出来ていて、向こう側にはいけないぞ。ちなみに、不正解のパネルの向こう側には泥沼もあるぞ」
往年のバラエティ番組じゃないんだからさ。っていうか、泥の沼わざわざ用意する必要ないでしょ。これ税金で作ってんですよ。
準備が整って、パネルの向こうの木偶野警部が問題を出してきます。
「問題! 私、木偶野警部には、犯人を取り逃した過去がある。⚪︎か×か?」
絶対⚪︎でしょ。節穴刑事が弓矢を構えてふたつのパネルの間を狙います。
「木偶野警部の目玉に刺さって苦しんで死ねえ!」
めちゃくちゃ具体的かつ苦しませるような掛け声と共に矢が放たれると、矢が途中でカーブして⚪︎のパネルには突っ込んでいきます。なんで矢も律儀にルールに従ってんのよ? 上とかガラ空きなんだよ。
見事、パネルを破って矢が木偶野警部の分厚いクッションつきのヘルメットに刺さりました。
※ ※ ※
それから、くねくね曲がった長い細いチューブだったり、触ると電気が流れる金属の枠で縁取られたコースだったりが用意されたんですけど、矢は全部クリアしました。
次はSASUKEのコースでも出てくんのかと思ってたら、コンクリートのでかい立方体が運ばれてきました。こいつら、税金無駄遣いしすぎなんだよ。
「このコンクリートの壁に囲まれた中に私は入る。そして、壁は四方が閉ざされる。果たして矢は私に刺さるかな?」
なんでずっとバラエティ番組のノリなんだよ。矢が全ての関門をクリアできるかっていうチャレンジ企画じゃん、これもう。
木偶野警部がコンクリートの壁の中に入って合図出します。そのまま出て来られなくなればいいのに。そしたら、節穴刑事が掛け声を上げて矢を放ちます。
「今度こそ死ね、木偶野警部!」
放たれた矢の進行方向に唐突に空間の裂け目ができて、矢が吸い込まれて消えました。直後にコンクリートの中から木偶野警部の声がします。
「うお! いきなり矢が出てきて刺さったぞ!」
なに盛り上がってんだ、こいつらは。
※ ※ ※
休憩が設けられて、節穴刑事がくつろいでます。遊んでただけなのに休憩なんかいらないだろって思ってたら節穴刑事が悔しそうに空を見上げてます。
「どうすればブラックマンバをやっつけられますかね?」
「刑事なんだから自分で考えてくださいよ」
節穴刑事が弓矢を手にして空に向けます。
「ブラックマンバの偉い人にあーたれ!」
とか物騒なこと言って矢を放ちます。そしたら、空高く飛んだ矢の先で時空が割れて矢が吸い込まれていきました。どっかで矢が刺さってるかもしれないです。
※ ※ ※
結局なんの結論も出るわけなく、トクニンのみんなが勝手に達成感を抱いてるのを横目に帰ることにしました。節穴刑事が見送りに来ました。
「また来てくださいね」
「呼ぶなって言ってるでしょ」
警察署を出て道を歩いてると、フードを被った人に声かけられました。
「鈴木さん、ですね?」
やばい奴だと思ってスルーすることにしました。
「違います」
「いや、その禍々しいオーラ……≪死神の王≫の二つ名に相応しい……! あなたが鈴木さんだ」
「女の子につける二つ名じゃないでしょーが」
って思わずツッコミ入れたら、フード被った人が言うんです。
「我々の世界とこの世界が奇妙な館の深部で繋がってしまい、世界のバランスが崩れつつあります……。鈴木さんには我々の世界に来ていただき世界を救っていただきたいのです」
「いや、普通の引越しすら面倒なんで、異世界とか無理です」
「世界を救っていただければ一生遊んで暮らせるように計らいます」
…………どうしようかな?




