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 女神ラミーは、にじり寄るおばあちゃんに向かって息を吹きかけた。すると、風が通ってところだけがフィルの花々を復活させる。



 周りは枯れて朽ちたというのに、生き生きとした花々は彩りを取り戻しているのだ。そこだけ、花のカーペットでも敷いたかのように見える。



 おばあちゃんが通る道となり、誘導しているようだ。



 おばあちゃんにあたった風は、肩につく長さの髪を長く伸ばす。床に引きずるほどの長さとなり、歩くたびに地面との摩擦音がする。



 そもそも、おばあちゃんのいた場所はそんなに離れていないはずなのにどうしてかこちらには辿り着かないようだ。歩くスピードがいくら遅くとも、これだけ歩みを進めれば、もう辿り着いていてもおかしくは無い。




「主人」

「え? うん、なに?」




 私は、ラミーのダークレッドの瞳に捉えられた。彼女は、私の足元を指さしてきた。その指された方に視線を動かすと、そこには本が置かれている。




 これは、貰った本。



 私とおばあちゃんを結んだ、本なのだ。なぜこんなところにあるのか疑問に思いながらも、拾い上げた。少し日焼けをして古さを帯びた本は、ページが追加されてもらった時よりも随分と分厚くなっている。




 ペラリとめくれば、ティタニアのことや妖精たちのページお手玉曲のページと続いている。



「はっ!」




 開いて気がついた。強いと言われるティタニアを眠らせるお手玉曲。おばあちゃんは事あるごとにうたっていた曲だ。しかし彼女は、いつも1番……それも『我らに祝福をティタニアの力』すらも言わない。


 

 おばあちゃんが全て歌わないのには、理由があるのだろう。ティタニアの名を呼べば、来てしまうかもしれない。さらには……。



 ――自分にも曲の眠らせる効果が発動するから?



「蝶の羽を広げ、降り立つその姿。草花の囁きは、風に乗せて。我らに祝福をティタニアの力」




 軽く呼吸を整えて、つづきを口に出そうとした。一か八かの賭けではあるものの、おばあちゃんの顔がみるみる曇っていく。さらには、先ほどのラミーの息によって身体が固まっており動かせないようだ。



「香澄、ダメ。それ以上を歌っては! そんなことして、おばあちゃんに申し訳ないと思わないの?」



 おばあちゃんの声になど耳を貸さない。ラミーの力によって動けないおばあちゃんは、ここへきて悲劇のヒロインを演じ始めた。



 泣いているような表情で、私に訴えかけている。




 だが、時すでに遅し。私は心を鬼にして、続きを口にする。おばあちゃんのことは、家族だと思っている。それは今でも変わらない。




 だからこそ。変えなくてはいけない。



「ティタニアの夢、光浴びて咲く。真実の道筋を、空に描いて。我らに祝福をティタニアの力」


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