絶対服従
フィルの顔の近さに、私は後退りをする。眉を寄せて怒っているにも近い表情を浮かべ、手は腰に当てている。ラミーもため息をつくほどだ。
「フールザム」
呟くようなおばあちゃんの声がした。おばあちゃんの魔法なのだろう。フィルは、その言葉を聞き顔を真っ青にした。その表情となる何かが怖く、恐る恐るゆっくりと私は おばあちゃんの方に顔を向けた。
口を開けていたおばあちゃんの面影は消えて、ニヤリと嫌な笑みを浮かべている。
周りを飛んでいたフィルの火花は全て消えた。地面で可憐に咲いていた花々も急に枯れ、地面の明るさは失われた。フィルは危険を察知したのか、私の肩に止まりコソコソと声をひそめた。
「和枝の魔法は、服従なの。あの人の思うままに全てが動くことになる」
ここで初めて、私はおばあちゃんの使う魔法を知った。ラミーのが、私の意見に生ぬるいというわけがようやく理解した。
おばあちゃんの意のままに動かせるのであれば、ティタニアも全てうまく動かせるだろう。
「そんな強い魔法を使えるのに、魔王にはなれないの?」
肩に止まったフィルは盛大なため息をつく。何も知らないのだから、質問をしたまでだ。それに、ジリジリとにじり寄るおばあちゃんの圧に足が笑い始めていた。
早く答えを知りたいというのもあるが、自分置かれた状況でのヒヤヒヤ感から焦りが出てしまう。
「そんなのは、簡単なのよ。和枝の力は地球では強いけど、魔王たちの力と比べたら弱い。立場が強いか弱いかで、魔法が効くかどうかは決まる」
私は、魔法をついこないだ知ったばかり。力の強さはなんとなく理解はしていたものの、それによって効く効かないまであるとは思いもしなかった。
力が無い自分の代わりに、ティタニアを使おうという事だろう。おばあちゃんを早くなんとかしなくては、本当にティタニアが起きてきてしまう。
時間との戦いでもあり、焦る気持ちが見え隠れする。しかしながら、焦りは禁物。
「ラミー! 香澄を無力化できる?」
それができたら、楽になるはず。むしろそれが出来なければ、大ピンチなのだ。
私は慌てふためきながら、蜘蛛の糸を掴む気持ちでラミーを見上げた。
ラミーは、大きな手を自分の胸の前で祈りのようなポーズを取った。
「アルエ ヴェルジング!!」
女神のような雰囲気を保ったまま、赤の瞳を開いた。この目はまだ慣れない。女神なのに呪いをかけられそうなそんな瞳。
ラミーのダークレッドの瞳が、ギョロリと動く。
「御意」




