香澄の優しさ
驚きを隠せないおばあちゃんは、口を開いている。ラミーは、ただ何もせずに穏やかな笑みを絶やさない。フィルの燃える花弁も、空中を舞っている。
あんぐりとしているのにも関わらず、飛んでくる花びらを手のひらで叩き落とす。手と頭とは、別の動きでもしているのかの如く滑らかに花弁をいなしている。
「ラミー……わざわざここに来てどうするつもりなんだい?」
見上げるおばあちゃんは、恐る恐るといった聞き方をする。対してのラミーは、表情ひとつ変えない。ラミーの余裕さが滲み出ているように感じさせる。
さらに、ラミーは返事すらも返さない。何も聞こえていなかったかのように見えるほどのスキルだ。
私はじっとそのやりとりを見つめることしかできず、見逃さないようにだけする。
ラミーは、顔を私の方に向けてきた。優雅さを帯びた動きに、つい見惚れてしまいそうになる。
「どう解決を?」
今のラミーの質問は、私の望む解決法をうかがってくれているのだろう。もしかしたら、私のおばあちゃんであることを配慮しようとしているのかもしれない。
私は、おばあちゃんに『勝つ』ことだけを念頭に置いていた。それだけに、『どのように』の部分は抜け落ちているのだ。
(どう対応するのが良いアイディアなんだろう……)
悩ましい思いで見上げたラミーは、私の視線を感じたのかニコリと微笑んだ。それだけでなく、軽く頷き私の言うことであればどんなことでも肯定してくそうに思えた。
本音はティタニアを呼び、戦ってしまうこと。それなら、第一優先とすべきことはここから出ることだろう。しかしながら、そんな簡単に解決することではない。
それならば、おばあちゃんを納得させる。これが私にとっての勝ち。ティタニアを落ち着かせさえすれば、良くなるはず。
「おばあちゃん……花川和枝を説得して、ティタニアの怒りを鎮める。と言うのはどう?」
笑顔を少し緩め、首を横に振った。全否定ではない優しい否定をされる。
「主人は、生ぬるい」
「そうそう! 骨の髄まで燃やし尽くさなくては!」
フィルもラミーに同意見なようで、ラミーの言葉に被せてきた。私に噛み付く勢いで近づいてきて、思わず後退りをしてしまう。
さらには、フィルの後ろで燃えていた花弁は勢いを増している。ふわりと舞い上がる花々の数も一気に増えて、本当におばあちゃんを燃えつくさん勢いだ。
「え、えぇ……」
目の前のフィルから、ラミーに視線を移した。ふたりが言うほど、おばあちゃんは恐ろしい存在なのかもしれない。




