無知
正直にところ、おばあちゃんのことについては無知だ。敵を知らなくては、勝ち目はない。特におばあちゃんは、人間ではないだろう。という仮定レベルだ。
しかも今の花の檻から出るために、何をしたのかも分からず。魔法だったとして、何も唱えずに発令するのかも謎なのだ。
私には、分からないことが多すぎる。もっと教えて欲しいと思うのは、致し方がないことだろう。
ラミーが来てくれたら、もしかしたら勝ち目はこちらにあるのかも知れない。とすら思えてくる。
だからこそ、早く彼女が来てくれないか。私は祈ることにする。きっと知りたいことは山ほどあれど、知ったところで私にできることは微々たるもの。
「フルカラ」
フィルは出していた花弁の火をおばあちゃんに向けた。スピードを上げて飛んでいく。炎は小さくも、火力は大きく。せっかく出した花畑を、燃え尽くしてしまいそうだ。
おばあちゃんは、にやりと口角を上げる。もはや、悪役に似合う表情とも言うべきか。私の知らないおばあちゃんは、アニメや小説に出てくる悪役そのものすぎた。
笑い方も耳を刺してくる。言葉は私の心を刺し、全くの別人が悪役ならどれだけ良かったか。そう思えてしまう。
「無駄だと何度言ったら……」
おばあちゃんの言葉尻は、消えていく。代わりに、光を帯びた存在が姿を現した。
「ラミー!」
私は、嬉しくて声を上げてラミーの近くに寄る。彼女が来てくれたら、フィルも心強いだろう。何よりも、優勢に立てそうでホッとしてしまう。
ここに無事に来てくれた。それだけで意味がある。
ラミーは、相変わらずといった態度だ。返事はなるべく会釈で済ませてしまう。話すことは最低限で、終わらせる。
目は閉じられたまま、女神に相応しい穏やかな雰囲気を纏っていた。それがまた私の心を安心させる材料でもある。あの時に見せた赤い目は、月の光さえも赤くしてしまいそうなそんな瞳だった。
いつも通りすぎるが、ラミーへ私がお願いを唱えたらいい。
私は軽く息を吸い込む。
「ラミー。アルエ ヴェルジング!」
これで、おばあちゃんも手出しのしようがないだろう。私の気持ちは、王手をかけた気分だ。現に、おばあちゃんの表情も驚きに満ちている。
おばあちゃんは、この場所にはラミーが来ることはできないと踏んでいただろうから。フィルでは敵わなくとも、女神ラミーであれば話は変わる。




